にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

DM CrossCode ep-4th 巫女と弾丸-4

「……言っとくけど、ちゃんと電気来てるんだからね。パソコンもある」
「マジで?」
「やっぱり疑ってた! アンタ都会っ子でしょ。雰囲気で分かる。あんまり田舎なめないでよね!」
「す、すまねえ」
 花月の剣幕に圧され、思わず謝ってしまう。実際もっと田舎を想像していたわけだし。
「でも、携帯電話の電波は入らないんですよね……もし連絡を取りたい方がいたら、うちの電話を使ってください」
 菜月の申し出に「分かった」と頷く創志だったが、実際に電話をかけてきそうなのは神楽屋か弟である信二くらいだろう。ティトはいまいち携帯電話の使い方が分かっていないし、リソナにいたってはゲーム機と勘違いしている。
「……俺は戻るぞ。互のジジイの居場所は……村の誰かが知ってるだろ」
「互のおじいさんですか? この時間ならもうお休みになっていると思いますけど……」
「え、まだ八時前だぜ?」
「早寝早起きが習慣らしいんです。だから、朝はすごい早いんですよ」
「……ともかく、ジジイに用があるならそいつに案内してもらえ」
 言いながら、赤星はジープの運転席に戻ろうとする。
「あ、待ってください赤星さん。まだ助けていただいたお礼をして――」
「いらねえ」
 引き止めようとした菜月を突き放し、車に乗り込んだ赤星はキーを回してエンジンをかける。行きの時と同じく、心強いエンジン音が轟き――すぐに止まった。
「……あ?」
 不機嫌そうに舌打ちをした赤星が、もう一度キーを回す。が、今度はうんともすんとも言わなかった。
「どうした、故障か?」
 苛立ちながら何度もエンジンをかけようとしている赤星を見ていられなくなり、創志は運転席に顔を突っ込む。
「ガス欠じゃねえか。出発前にメーター確認してないだろこれ」
 最初に思い当たった燃料の残量を確認してみたところ、メーターはきっちりと空の表示を示していた。悪路だったものの大した距離は走っていないので、元々空に近かったのだろう。
「……車のことはよく分からねえ」
 赤星がぶっきらぼうに呟く。出発前の燃料確認くらい免許を持っていないど素人でもできると思うのだが、言うとますます不機嫌になりそうなので黙っておく。
「なあ、この村に車の燃料って――」
「ごめんなさい。たぶんないんじゃなかと……」
「そもそも、ここに車があったら何時間もかけて徒歩で山を下りたりしないっての。この村の人たちは基本的に下に行くことを嫌がってるからね。気軽に温泉街まで行けるような便利な代物はないのよ」
「そっか……なら、連絡を取って持ってきてもらうしかないか。早速で悪いけど、電話使わせてもらえるか?」
「はい、大丈夫ですよ。案内しますね」
 創志が菜月に連れられて彼女の家に向かおうとすると、運転席から降りた赤星が、無言のまま二人の前に立ちふさがる。
「……なんだよ?」
「……連絡くらい自分でつける」
 勝手に話を進めたのが気に入らなかったのか、赤星は革ジャンのポケットから携帯端末を取り出す。電波は入らないはずだが、別の手段があるのだろうか?
 赤星は十分ほど端末を操作していたが、徐々に舌打ちの回数が増していき、最終的には端末を地面に叩きつけようとしたので慌てて止めに入った。
「……繋がらねえんだが、どうすりゃいい?」
「話聞いてなかったのかよ!」
「あ、あの、うちに固定電話があるのでそれで……」
「何なのこの無駄な時間……疲れたから早く帰ってゆっくりしたいのに……」
 呆れた花月が深いため息を吐いたところで、一行はようやく保根家へ移動を開始したのだが――
「おい! 菜月ちゃんと花月ちゃんが帰ってきたぞ!」
「無事じゃったんじゃな!」
「心配したんじゃぞー!」
 近くの家から出てきた老人が大声を上げたことで、続々と村民が現れ、あっという間に創志たちを取り囲む。
「帰りが遅いから下の連中に何かされたんじゃないかと気が気でなかったわい!」
「あら、ヒュウ君も一緒なの? 戻ってきてるなら顔くらい出しなさいよ!」
「そっちの男の子は誰? 下でナンパしてきたのかい?」
「この村に客人が来るなどいつ以来のことじゃろうか……」
「わーっ! うるさいうるさーい! いっぺんに喋んないで!」
 一斉に喋り出す村人たちに、花月が癇癪を起こしたようにぶんぶんと腕を振り回す。それを見て「おお、すまんすまん」と村人たちは少し下がってスペースを空けた。
(年寄りが多いな。てか、若いやつがほとんどいねえ)
 菜月が事情を説明しているあいだ、創志は村人たちに視線を向ける。六十は超えているであろう老人の姿が目立ち、若くても三十代後半といったところで、子供はおろか、菜月たちと同年代の少年少女はいなかった。
「お前さん、名前は?」
「え、あ、皆本創志っす」
「創志ちゃんね! 今日はもう遅いからウチに泊まっていったらどう? 歓迎するわ」
「いいや、ワシの家にこんか? お主は出ていってしまった息子の若い頃によく似とる」
「それよりもワシの孫に似とるぞ! 最近はめっきり姿を見せなくなってしまったがの!」
 不意に声をかけられたかと思ったら、いつの間にか創志をどこの家に泊めるかで、軽い口論が始まってしまった。創志としては、野宿もやむなしと思って準備をしてきたので、泊めてもらえるだけでありがたいのだが。
「み、皆さん! お気持ちはありがたいですけど、皆本さんは私たちの家に泊まってもらうことになっていますので!」
「「ええ!?」」
 創志と花月の声がシンクロする。保根家に宿泊することなど初耳だ。
「ちょっとお姉ちゃん!?」
「これは決定事項なんです! ごめんなさい!」
 そう言って、勢いよく頭を下げる菜月。村人たちは「それなら仕方ないな」とそれぞれの家に戻っていく。
「ならヒュウ君が泊まっていくかい?」
「……俺は帰るからな」
 赤星に声をかけた女性は、つっけんどんな返事にも気を悪くした風もなく、「気が変わったらおいで~」と手を振りながら帰っていった。
「お、おい菜月――」
「すいません、皆本さん。勝手に決めてしまって……でも、危ないところを助けていただいたんですから、これくらいはさせてください。それとも、ご迷惑でしたか?」
「そうじゃねえけどさ……」
「……ぬー」
 明らかに不満そうな花月の視線が痛い。本当は反対したいが、恩を返したいという姉の言い分も分かるため、無下にはできずに葛藤しているようだ。
「……はぁ~、こんなときに限ってお父さんとお母さんいないんだもんなぁ。変なことしたら即追い出すからね」
「……マジ?」
「あ! 今変なこと考えたでしょ! やっぱりアンタ――」
「ちげーよ! ちげーって!」
 口では反論しつつも、全くそういう妄想をしなかったと言えばそれは嘘になる。
 ティトやリソナと暮らすことはいい加減慣れた――神楽屋や信二も一緒だし――が、会ったばかりの女の子の家にいきなり泊まることになり、しかも両親がいないとなれば不埒なことの一つや二つくらい考えてしまうものである。男という生き物はそういうものだ。
「ごめんなさい。父は仕事で家を空けていて……」
「お母さんもお父さんに付いてってるのよ。一人じゃ心配だからって」
「そうなのか……ちなみにお父さんの仕事って何なんだ?」
「神社の神主なんです。昨日から近隣のお寺や神社の関係者を集めた会合が始まっていて、それに出席するために留守にしているんです」
「ウチの神社に参拝する人なんていないんだから、わざわざ山下りてまで顔出さなくたっていいのに。お父さん、見栄っ張りなところあるからなぁ」
「そんなこと言っちゃダメだよ、花月。お父さん、神社を存続させるために色々がんばってるんだから」
「……オイ。雑談は家に着いてからにしてくれねえか?」
「あ……すいませんでした。赤星さん」
 退屈そうにぼやいた赤星に促され、一行は村の奥地……立地的には一番山頂に近い場所にある、保根家へと辿りついた。他の家屋が平屋建てなのに対し、保根家は二階建てだ。面積も広い純和風な作りで、木々に彩られた庭の一角には池があった。間違いなく、旧伊奈妻村の中でもっとも豪奢な家だろう。
「すげえ……豪邸だ……」
 今でこそ標準レベルの生活を送れているものの、狭くて古いマンションの一室に暮らしていたサテライト時代を経験した創志にとっては、こんな豪邸に住んでいる一家は相当な金持ちなんだろうなと勝手に思ってしまう。
「そんな大層なもんじゃないわ。昔……それこそ温泉街ができるよりもずっと前、まだウチの神社が栄えていたころの名残ってだけ」
「どうぞ。大したもてなしはできませんけど……」
「そういうのはいいって。それじゃ、遠慮なくお邪魔させてもらうぜ」
 菜月の不安を取り除こうと明るい声で言った創志は、保根家の軒先をくぐり、中へと足を踏み入れた。