にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

DM CrossCode ep-4th 巫女と弾丸-16

 これまでも、創志は幾度となく敗北してきた。それでも、最後には大切なものを取り戻すことができた。巡って来たラストチャンスを逃さず、土壇場で勝ちを拾ってきた。
 だが、今回は違う。
 人の命は戻らない。例え強い力を持つサイコデュエリストが<死者蘇生>の効果を具現化したとしても、この結果は覆らない。
 ラストチャンスなんて蜜のように甘いものは、訪れなかったのだ。
 途方もない虚脱感に襲われ、創志はふらふらと二、三歩進んだ後、再び膝をつき、力無くうなだれる。
 まだ戦うべき理由は残っている。全てが終わったわけではない。
 分かっているはずなのに、その事実を現実のものとして認識できない。
 ――何かあったら言え。力になる。
 それは、創志が花月に向かって告げた言葉。花月が苦しんでいたら、助けるという約束。
 果たせなかった約束がもたらす絶望。
 守ると約束した少年を守れなかった青年、神楽屋輝彦からの忠告が、今になって重くのしかかる。
「……これで仕舞か? お友達を殺されたんだぜ? 黙って泣き寝入りでいいのかよ?」
 そんなはずはない。
 そんなはずはないのに――白斗が吐いた挑発は、創志の耳を素通りする。
「か……づき……?」
 その代わりに、少女のか細い声が、創志の心を突き刺した。
 もがいているうちに猿轡が外れた菜月は、妹の変わり果てた姿を見て呆然としていた。創志と同じく、状況を理解することを拒否しているのだろう。
 だが、流れ出る真っ赤な血が、容赦なく現実を突き付ける。
「かづき……? 花月! ねえ、目を開けてよ! 花月!」
 菜月は体を縛る縄を振りほどこうと、懸命にもがく。が、きつく縛られた縄は全く緩むことがない。
花月! 花月ぃ! いや……いやあああああああああああああああ!」
 少女の悲痛な叫び声が、創志の鼓膜を震わせる。
「……ああ、そうか」
 泣き叫ぶ菜月を冷たい視線で見下ろした白斗が、ポツリと告げる。
「姉のほうも殺したほうがいいか?」
「――――ッ!!」
 その言葉は、聞き逃すことができなかった。風前の灯だった闘志が、静かに、しかし業火のように激しく燃え上がるのを感じる。
 まだ諦めるわけにはいかない。菜月を助ける。赤星を助ける。そして――

(――奏儀白斗を、殺す)

 それを意識した瞬間、創志は自分の足元におもちゃの拳銃が転がっていることに気付いた。赤星が使っていた特別製のものだ。
 銃身が血で染まったそれを拾い上げる。思った以上に軽い。プラスチック製なのだから当然なのだが、ゾンビたちを蹴散らす光景を見た後だと、普通の拳銃よりも重みがあると思いこんでしまっていた。
 もし、拳銃自体に術式の力が宿っているのだとしたら、これを使えば白斗と渡りあうことが――いや、彼を殺すことができるかもしれない。もちろん、赤星が使わなければただのおもちゃである可能性もある。それでも、創志のサイコパワーでは太刀打ちできないと分かってしまった以上、わずかな希望にすがるしかなかった。
 今になって激しく後悔する。どうしてあの時、無理を言ってでも互に術式を習わなかったのかと。そうすれば、この悲劇を回避することができたかもしれないのに。
(……悔やむのはあとだ。まずは、あいつを――)
「――いいね。その反応を待ってたんだよ」
 創志が睨みつけると、白斗は笑みを濃くする。
「……許さねえぞ。テメエだけは、絶対に」
 花月を殺した罪を、死を持って償わせる。創志は拳銃のグリップを強く握りしめた。
「望むところだよ。さあ、存分に殺し合おうぜ! 皆本創志ィ!」
 限界まで目を見開いた白斗が、刀を適当に構えながら突っ込んでくる。
 対し、創志は両手で握ったおもちゃの拳銃を、真正面に構えた。
(――イメージしろ。これは、ただのおもちゃじゃない)
 脳内に浮かべるのは、群がる化け物を一掃していた、赤星の姿。この拳銃には、それだけの力が秘められている。そう信じる。
 グリップを握る指に、引き金にかけた指先に、ありったけの力を込める。不思議と、サイコパワーを使う際に感じる頭痛はなかった。それどころか、雑念が取り払われ、思考がクリアになっていく。
 ただひとつの目的――奏儀白斗を殺すために。
 洗練された脳内に、ひとつの単語が浮かび上がる。
「……アナザーコード、<ジェネクス>」
 迷うことなくその単語を口にする。
「――くたばれ。<ジオ・ブリット>」
 創志は、トリガーを引いた。