にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

DM CrossCode ep-4th 巫女と弾丸-17

 カチリ、とプラスチック特有の軽い音が鳴る。
 瞬間、銃口から赤銅色の弾丸が放たれた。
 赤星が使ったアナザーコード<電池メン>のような激しい光はない。
 静寂の中で発射された弾丸は、空気を切り裂き、一直線に白斗へと向かう。
 速度自体は、一般的な小型拳銃のそれと大差なかっただろう。戦闘経験が豊富な者であれば、銃口の向きや発射のタイミングから、銃弾を回避することも不可能ではなかったはずだ。
 奏儀白斗もまた、弾道を予測し、体を少しだけ右に傾ける。それだけで、赤銅色の弾丸は脇を通り抜け、背後の木に命中する――
 どぼり、と。
 白斗の左肩に穿たれた穴から、血の固まりが流れ落ちた。
「…………?」
 前進していた白斗の足が止まる。左肩を押さえ、手の平が真っ赤に染まったことを確認し、不思議そうに首をかしげた。
「……なんだ、こりゃ? 俺は確かに避けたはずだぜ」
「…………」
 創志は答えない。いや、答えられない。何故なら、創志自身もどうして弾丸が命中したのか分かっていないからだ。
「軌道を見誤ったのか……違う。途中で弾丸が加速したんだ。そうだろ? そうだよな?」
 後に分かったことだが、白斗の推測は正解だった。創志が撃った赤銅色の弾丸は、標的に近づくにつれて加速するものだったのだ。
 それが、アナザーコード<ジェネクス>が生み出した、大地の弾丸――<ジオ・ブリット>の特性。
「いってえ。滅茶苦茶痛えな、これは。ハハハ」
 刀の握った右手で傷口を押さえながら、白斗は渇いた笑いを漏らす。
「――最高だ! この痛みが! 俺に向けられた敵意が! 憎しみが! 俺は生きているんだって実感させてくれる! たまんねえぜオイ!」
 心の底から歓喜しているような笑い声を上げた白斗は、手の平に付着した血を舐めとる。
 その瞳は、まるでずっと欲しかったおもちゃをプレゼントされた子供のように輝いていた。
「この瞬間を求めて、俺は殺意ってやつを育ててんのさ! さあ、もっと本気で俺を殺しに来いよ! 皆本創志!」
 狂っている――常軌を逸した反応に、全身が粟立つ。それでも、荒れ狂う怒りは少しも衰えない。
「……上等だ。やってやるよ、奏儀白斗」
 呟いた創志は、すぐさま銃口を白斗の額へと向ける。
 次の一撃で息の根を止める――創志がトリガーを引く直前、白斗の姿が視界から消えた。
(――ッ!? どこへ――)
「こっちだオラァ!」
 白斗の声が頭上から降り注ぎ、危険を察知した創志は地面を蹴って後方へと跳ぶ。
 すると、先程まで創志がいた位置に、純白の刃が振り下ろされた。上空へジャンプした白斗からの奇襲だ。
「チッ、外したか」
 着地した白斗は舌打ちをするが、警告をすることであえて避けさせたように見えた。
(今のジャンプは、距離を詰めるのが狙いだったのか!?)
 かろうじて避けられたとはいえ、白斗の姿は眼前にある。十分に刀の射程圏内だ。
 創志は崩れた姿勢のまま、右手に握ったおもちゃの拳銃を構える。
 が、引き金を引く前に、下方向からの斬り上げが来た。
「くっ――」
 上体を仰け反らせ、それを回避する。無理な回避をしたせいで、ぐらりと体が傾いた。
(それなら!)
 創志は流れに逆らわず、後ろへと倒れ込む――直前に、おもちゃの拳銃を頭上に放り投げた。
「――――ッ!」
 一瞬だけ、白斗の視線が拳銃へと向く。
 その隙を突き、創志は地面を蹴り上げて勢いをつけ、空中で一回転し、着地。
 落下してきていた拳銃を掴み取ると、後方へ飛びながら撃つ。
「うっ……!?」
 途端に、創志の全身を途方もない虚脱感が襲った。まるで、生気を根こそぎ吸われているような感覚。
(これが術式を使った反動ってやつなのか……? 体に力が入らねえし、気を抜くと意識が飛びそうになりやがる……!)
 サイコパワーを使った際に発生する頭痛のような明確な拒否反応ではないものの、連発は危険だと判断する。
「チッ――」
 斬り上げから体勢を戻していた白斗は、思いっきり姿勢を低くする。創志が一撃必殺を狙い、胴体から上を狙うと踏んでの動きだった。
 それは的中し、外れた弾丸が白斗の背後にあった木の幹に風穴を開けた。
 屈んで足に力を溜めた白斗が、それを爆発させ前方へと跳ぶ。
 直後。
「まだだ!」
 そのタイミングを狙って、創志は二射目を撃つ。両足から力が抜け、大きくふらつくが、気力だけでこらえる。
「狙いはバッチリじゃねえかよ! けどな!」
 叫んだ白斗は、加速する弾丸を、純白の刃で斬りつける。弾道と、速度と、着弾点を見極めなければ到底不可能な神技だった。
 パキン! と甲高い音を立て、弾丸を受け止めた刃が割れ、二つに分割される。
 だが、そのおかげで白斗の額に命中するはずだった弾の軌道がわずかに逸れ、後方へと流れていく。
 得物を失ったまま突撃する白斗と、荒い息を吐きながら銃を構え直す創志。
 戦局は五分に見えるが、違う。
「あーあ、また折れちまったな。俺の<ライトパルサー>」
 それを物語るように、白斗は明確な笑みを浮かべていた。
「……ソコ。危ないぜ」
 白斗が呟いた瞬間、創志の背中に衝撃が走った。