にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

DM CrossCode ep-4th 巫女と弾丸-18

「な……!?」
 混乱する思考で、背中を斬られたのだとかろうじて理解する。
 傷口から血が飛び出し、焼けつくような痛みが走る。気を失わないことが不思議なほどの大きな傷だと感覚で分かった。
(後ろに仲間がいたのか!? けど、そんな気配は感じなかった――)
 そこで、脳裏に倒れていく赤星の姿が蘇る。あの時も、白斗が手にしていた刀が砕けた次の瞬間、赤星は不可視の斬撃によって負傷したのだ。
「俺を楽しませてくれた礼に教えてやるよ。こいつ……コード<ライトパルサー>は、『斬撃を除外』しておくことができるのさ」
「斬撃の……除外……?」
「まさか、俺の刀を全部避けた気になってたわけじゃないだろうな? お前の体を掠めたもの以外の斬撃は、<ライトパルサー>の効果で除外してたんだよ。で、<ライトパルサー>が破壊されることによって、除外していた斬撃を発動することができる」
 痛みに耐えかね、創志は膝を折る。白斗の説明はほとんど耳を素通りしていた。
「ようは、時間差攻撃ってやつだ。あらかじめ刀を振っておく。これが斬撃の除外。そして刃が折れたタイミングで振っておいた軌道がそのまま発現するわけだ。これがコード<ライトパルサー>の能力」
 時間差攻撃、という表現でようやく合点がいった。戦闘序盤、やたらと刀を振りまわしていたのは、コード<ライトパルサー>の能力によって奇襲を仕掛けるための布石だったわけだ。
 武器の破壊という発動条件は、一見するとむざむざ得物を破壊させ隙を作る必要があるというデメリットが先立つが、攻撃手段をひとつ潰し、自分が優位に立ったと相手に錯覚させ、逆に隙を生み出す手段としては恰好ともいえる。
 創志の銃撃は<ライトパルサー>自体を狙ったものではなかったが、強すぎる威力が能力の発動を招いてしまった。
 今さらそれが分かったところで、もう遅い。創志の背中には、致命傷ともいうべき傷が刻まれている――
「……べらべらと能書き垂れてんじゃねえよ。クソ野郎!」
 勝ち誇った表情で愚直に突撃していた白斗に向かって、赤銅色の弾丸が襲いかかる。
 言うまでもない。創志が撃った<ジオ・ブリット>だ。
「――ッ!? コード<ダークフレア>!」
 笑みを消し、折れた刀を捨てた白斗が叫ぶと、空になった右手に新たな刃が現れる。
 形状は<ライトパルサー>と同じシンプルな刀だが、刃の色は正反対の漆黒。
 白斗が無造作にその刀を振るうと、彼を守るように黒い炎が巻き起こる。
 <ジオ・ブリット>はその炎に阻まれ、あえなく溶けていく。
「……十分な威力を発揮できなかったとはいえ、その傷でまだ撃てるとはな。やっぱお前は最高だぜ」
「ぐっ……ちく、しょう……」
 見れば、目の前に漆黒の刀を構えた白斗の姿がある。おそらくは、突進の勢いに任せてそのまま斬りかかるつもりだったのだろうが、<ジオ・ブリット>を防いだことによってそれは叶わなかったらしい。
 それでも、創志を斬り伏せるには十分すぎる間合いだ。左肩の銃創からは絶え間なく血が流れているが、意に介する様子はない。
 対し、創志は意識を繋ぐのが精いっぱいの有様だ。背中の傷が訴える激しい痛みは思考能力を奪い、<ジオ・ブリット>の連射によって立ち上がる気力すらも奪われた。銃を握った右手は力無く垂れ下がり、左手は拳を握る力すらない。膝を折り、白斗を見上げている格好は、創志がイメージする敗者そのものだった。
「俺に二本目を抜かせたヤツは久しぶりだ。ここで終わらせるのは勿体ない気もするが……ま、十分楽しんだしな。活きのいい獲物は、新鮮なうちに殺しておくに限る。それに、お前を殺せば、もっと濃厚な殺意が育つ。想像するだけでゾクゾクしてきたぜ」
 誰に向けるでもなく呟いた白斗は、コード<ダークフレア>が生み出した黒の刀を、空に向かって掲げる。
「ありがとよ、皆本創志。じゃ、死んでくれ」
 創志に死をもたらす刃が、振り下ろされる。
(俺は、ここで死ぬのか――)
 嫌だ、と思った。何も守れないまま、何も為し得ないまま死ぬのは嫌だ。
 ティトや、信二や、リソナや、神楽屋や、大切な人たちを置き去りにするのは嫌だ。
 花月を失って悲しみに暮れる菜月を置き去りにするのは嫌だ。
 しかし、下された死の宣告に抗う術は、もう無い――
「……けて……」
 全てを諦めかけた刹那、誰かの呟きが創志の鼓膜を震わせる。

「誰か……たすけて……」

 それは、倒れた妹の傍でむせび泣く、少女のものだった。
 彼女は、助けを求めている。
 それに応えることは、もう出来ないのか?
(俺にできることは、もう無い……)
 本当にそうか?
 皆本創志は、本当に全ての可能性を試したのか? 自分に持てる全てを出し切ったのか?
(――違う!)
 創志の瞳に、強い意志の光が宿る。同時に、満身創痍の体に、わずかだが力が戻った。
「……俺にはまだ、やれることが残ってるはずだ!」