にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

DM CrossCode ep-4th 巫女と弾丸-19

 気力を奮い起こすように叫び、おもちゃの拳銃を手にした右腕を振り上げる。
 ガキィ! と。
 振り下ろされた刃と、振り上げられた銃が、真っ向から激突し、鍔迫り合いの恰好になる。
「何……!?」
 白斗が驚きを顕わにする。黒の刀を受け止めているのは、拳銃の銃口部分だ。接地面は極狭。どちらかが少しでもずれれば、刀は創志を切り裂くだろう。
 だが、窮地に立たされているのは白斗も同じだ。銃口は、確実に白斗の額を照準している。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
 雄叫びを上げ、創志はトリガーを引く。
「させるかよ! コード<ダークフレア>!」
 その前に、ゴウ! と、漆黒の刃から黒い炎が吹き出した。
 炎は瞬く間におもちゃの拳銃を覆い尽くす。トリガーにかけた指が焙られ、鋭い痛みが走った。
「ぐあああああああああああああああああッ!」
 限界を超えた苦しみに苛まれながらも、創志は引き金から指を離さない。
「コイツ……!」
 <ダークフレア>の炎から逃れるために、白斗は二、三歩だけ後ろに下がっていた。
(――今度こそ、倒す!)
 焦げる指先を強引に動かし、創志は奏儀白斗を屠るための弾丸を撃つ。
 そのためにトリガーを引く。
 しかし。
 赤銅色の弾丸が銃口から放たれることはない。
「な……んで……」
 答えはすぐに分かった。拳銃にまとわりつく炎が、銃身を熱で変形させてしまったのだ。ひしゃげた銃身は、もはや原形を留めていない。これでは、「銃」とは呼べない。
「――これで希望も潰えたな! 終わりだ! 皆本創志!」
 叫ぶ白斗は、もう笑みを浮かべていない。創志と同じく、眼前の敵を殺すことに集中している。
 白斗が一歩を踏みこむ。刀の射程に創志を捉える。
 創志は、おもちゃの拳銃を――自分に力を与えてくれた希望を、投げ捨てた。
 そして、右拳を握る。最後の気力を振り絞り、立ち上がる。
 もう、白斗の術式に対抗するだけの手札はない。
 立ち上がった創志の姿は、白斗には無駄な足掻きとしてしか映らなかっただろう。
 それでも。

「俺は、諦めねえ!」

 まだ、できることはある。
 創志の右腕を囲うように、緑のリングが出現する。
 それは、シンクロ召喚を行う際に、シンクロ素材となったモンスターが包まれるエフェクトと同じものだ。
 脳髄が焼き切れそうになる。心臓も異常なほど早鐘を打っている。器官全てが危険を訴えている。
(――構うもんかよ!)
 例え再起不能に陥ろうとも、全部を諦めて絶望の底に落ちたまま死ぬよりはマシだ。
「――来い! <アームズ・エイドオオオオオオオオオオオオオ>!」
 創志の右腕が、紅い五本の指を持つガントレットに覆われる。
 <アームズ・エイド>。モンスターに装備することができる、腕の形を模したシンクロモンスター。それを創志はサイコパワーによって具現化させた。<アームズ・エイド>を選んだのは、自らの手で決着をつけたいと願ったからだ。

<アームズ・エイド>
シンクロ・効果モンスター
星4/光属性/機械族/攻1800/守1200
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に装備カード扱いとしてモンスターに装備、
または装備を解除して表側攻撃表示で特殊召喚できる。
この効果で装備カード扱いになっている場合のみ、
装備モンスターの攻撃力は1000ポイントアップする。
また、装備モンスターが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 創志のサイコパワーが通用しないことは、痛いほど分かっている。
 しかし、だからといって使える手札を使わずに負けを受け入れてしまうことはできない。
 自分にできることをやり尽くす。それが創志の選択した足掻きだった。
「はははははははは! こりゃ期待以上だぜ! けど、一度殺すと決めたならきっちりやり遂げねえとな!」
 渇いた笑い声を上げた白斗が、刀を振り下ろす。
 まともに打ちあえば、勝ち目はない。
 なら、やることはひとつだ。
 創志は、<アームズ・エイド>を纏った右拳を引き――

 漆黒の刃を、真正面から受けた。

 左肩から右脇腹にかけて、深く大きな刀傷が刻まれる。
 度重なる負傷によって痛覚が麻痺してしまったのか、痛みは感じなかった。鮮血が迸り、白斗を返り血で染めていく。
「テメエ――!」
 決定的一撃を打ち込んだにもかかわらず、白斗は驚愕に目を見開いていた。
 標的を仕留めたときに生まれる、隙。
 それを狙うための捨て身の戦法。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
 もう何度目になるか分からない雄叫びを上げ、創志は右腕を突き出す。
 紅い指で堅く握った拳が、白斗の顔面を捉える。
「ぐが……っ!」
 確かな手ごたえと共に、白斗の体が地面へと叩きつけられる。バウンドして浮かび上がった白斗は、そのままゴロゴロと転がり、背後にあった木の幹にぶつかって力無く横たわった。
「はあっ、はあっ、はあっ……」
 拳を振り抜いた体勢で、創志は肩を上下させながら荒い息を吐く。
「勝った……のか……?」
 あまりにも呆気ない幕切れだ。倒れる白斗の姿を見ても、現実味がわかない。狂気の笑みを張り付けながら、今にも起き上がってきそうな錯覚を覚える。
 それを防ぐためにも、確実にトドメを刺さなければ――朦朧とする頭で、創志はふらふらと白斗へと近づく。
「……殺せよ」
 倒れている白斗は、鼻骨が砕けて血が噴き出していた。それだけを見れば創志のほうが余程重傷だが、白斗に戦闘を続ける気はないらしい。創志が傍に立っても、動こうとはしなかった。
「勝った負けたの話じゃねえ。俺たちがやっていたのは殺し合いだ。どっちかが死ぬことでしか、決着をつけることはできない。お前は、俺を殺したかったんだろ?」
「……ああ。花月を殺したテメエを、許すことはできない」
 創志は<アームズ・エイド>の指を開き、その鋭い指先で心臓を抉らんと振りかざす。
 奏儀白斗を殺す。それが、ようやく果たされる。
 そこで、背後から優しく肩を叩かれた。
「やめろ。そいつを殺したら、お前は戻れなくなる」
 声の主が、倒れていたはずの赤星だと気付いたとき――
 とっくの昔に限界を超えていた創志の意識は、途切れた。