にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

DM CrossCode ep-4th 巫女と弾丸-14

 闇雲にモンスターを実体化させても、難なく倒されてしまい頭痛が激しさを増すだけだ。
 焦りのせいなのか、回避のために踏み込んだ右足が、ずるりと滑る。裏面が濡れた落ち葉を踏みつけたせいで滑ったのだ。
(まずっ……!)
 残った左足で踏ん張りどうにか倒れることだけはこらえるが、左側から襲いかかってくる一振りを避けることができない。
「四の五の考えてる場合じゃねえ……<ジェネクス・サーチャー>!」
 創志は頭痛をこらえながら、<ジェネクス>におけるリクルーターを実体化させる。
「モンスターを実体化させて盾代わりにするかよ!」
 白刃が、<ジェネクス・サーチャー>を容易く両断する。元々クズ鉄の寄せ集めだったようなモンスターが、形成していたパーツをばら撒きながら消えていく。
 <ジェネクス・サーチャー>の効果まで具現化させることができれば、後続のモンスターを呼ぶことも可能だったのだが、今の創志にそれは叶わない。
 ギリギリのところで刃を避けた創志は、右拳を強く握りしめる。
「チッ……コイツも狙いのうちか!」
 散乱した<ジェネクス・サーチャー>のパーツが、互いの視界を埋め尽くしている。これならば、不意の一撃が当たるかもしれない。
「……この、野郎!」
 視界が不明瞭なせいで、白斗の攻撃が大ざっぱになる。最上段からの振り下ろしを右に大きくステップすることで避けた創志は、前傾姿勢になっている白斗の側頭部を目がけて拳を繰り出す。
 白斗の力は、創志のサイコパワーを大きく上回っている。
 だが、一対一の戦闘技術という点においては、サテライト時代に多くの荒事に巻き込まれてきた創志とそう大差ないように思えた。だから、創志は斬撃を回避することができる。その道の達人が繰り出すような洗練されたものではなく、素人が闇雲に振り回しているだけだからだ。
 ただのパンチで有効なダメージが与えられるとは思わない。それでも、不意の一撃で虚を突き、脳を揺さぶることで少しでも白斗の行動を阻害できれば――
 白斗の鋭い視線が、創志を捉える。狙いを察し、左手で頭部をかばおうとするが、
「――オラァッ!」
 それをすり抜けて、創志の拳が炸裂した。
 ガツッ! と鈍くも激しい衝撃が拳に伝わり、皮膚が破れて血が噴き出す。
(なんて堅さだよ……けど!)
 側頭部を殴られた白斗の体が、わずかにふらついた。
「ぐっ……!?」
(――ッ! ここだ!)
 苦し紛れに放った拳が、はからずしも大きなチャンスを生んだ。
 とにかく距離を取ろうと後方に飛ぶために溜めていた足の力を、強引に前へと向ける。
 デッキケースの中に収まっている、一枚のシンクロモンスターを強くイメージする。
 酷使されたことにより脳が悲鳴を上げるように痛むが、
(――ここしか、ねえんだよッ!)
 気合だけで無理矢理耐える。耐えきる。
「もう一度頼む! <ジオ・ジェネクス>!」
 創志が呼びだしたのは、消滅したはずの大地の<ジェネクス>。
 赤茶色の装甲に覆われた剛腕が唸りを上げ、眼前の敵を――奏儀白斗を打ち砕かんと空気を切り裂く。
「――バカのひとつ覚えか! なめんな!」
 <ジオ・ジェネクス>の拳が到達する前に、体勢を立て直した白斗が、白刃を煌めかせる。
 大地の拳と純白の刃が激突する。
 力の差は歴然だ。すぐさま<ジオ・ジェネクス>の腕に亀裂が走り、粉々に砕け――
「何……!?」
 ない。大きな亀裂を抱えながらも、その剛腕は健在だった。
 それどころか、逆に白斗の刃を押し返そうとしている。
「……おいおい。ここに来てついに覚醒かよ!」
「そんな都合よくいくか。俺はただ、<ジオ・ジェネクス>をサポートするために罠カードの効果を実体化しただけだ!」
 創志の気迫が<ジオ・ジェネクス>に力を与え、拳の圧が増す。
 シンクロモンスターに加えて、罠カード効果の具現化……創志の脳はすでに限界を超えていたが、ここで倒れるわけにはいかない。ここで倒れては、誰が菜月を、花月を、赤星を助けるというのか。
「……俺が使ったのは<反転世界>! フィールドに存在する効果モンスターの攻撃力と守備力を入れ替えるカードだ!」

<反転世界>
通常罠
フィールド上の全ての効果モンスターの攻撃力・守備力を入れ替える。

「<反転世界>……なるほどな。そいつで<ジオ・ジェネクス>の攻撃力を上げたってわけか!」
 一度防いだ<ジオ・ジェネクス>からの攻撃なら、気を緩めてしまうかもしれない――<ジオ・ジェネクス>の再実体化を選択したのは、白斗の油断を誘うことが目的であり、それは成功した。
「おおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
 白斗の刀が、<ジオ・ジェネクス>に押され徐々に傾いていく。
「クソ、こいつは――」
 ピシリ、とよく響く高音が鳴り、純白の刃にヒビが生まれた。
「いっ……けえええええええええええええええ!」
 <ジオ・ジェネクス>の動きに呼応するように、創志は右拳を前に突き出した。
 瞬間。
 全体に走った亀裂が決壊し、砕けた。

 <ジオ・ジェネクス>の、腕が。

「……これが限界、か。せめて、<ライトパルサー>くらいは壊してくれると思ったんだがな」
 腕を失った<ジオ・ジェネクス>が、わずかにヒビの入った刃で切り裂かれる。
「――――」
 創志は、呆然とその光景を眺めていることしかできなかった。
 両断された<ジオ・ジェネクス>が光の屑となって消え、戦場には静寂が訪れる。
 小細工を用いたところで、絶対的な力の差は覆らない。消えた大地の機械兵が、それを物語っていた。