にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

DM CrossCode ep-4th 巫女と弾丸-15

「ぐっ……!」
 そして、創志の脳がついに限界を迎えた。頭蓋が割れてしまわないことが不思議なほどの激しい痛みに襲われ創志はたまらず膝をついてしまう。
「くそっ……くそっ……!」
 無理矢理にでも立ち上がろうとするが、体が言うことを聞かない。<ジオ・ジェネクス>が破壊されたことによって、今までギリギリのところで保たれていた糸が途切れてしまったかのようだった。
 足掻く創志を眺めていた白斗は、わざとらしくため息を吐くと、
「……じゃ、有言実行と行くか」
 創志に背を向け、悠然と歩き始める。
 縄で縛られ、身動きが取れないまま倒れている保根菜月に向かって。
「――待て! 待てよ! 何をする気だ!」
「言ったろ? お前の攻撃から殺意が感じられなかったら、保根菜月を殺すって」
「まさか――」
「冗談だとでも思ったか?」
 白斗の足が、菜月のすぐ傍で止まる。白刃の切っ先が、恐怖で涙を浮かべる少女に向かって、無慈悲に突き付けられた。
「やめろ! くそっ――!」
 呑気に眺めている場合じゃない。
 自分が菜月を助けなければいけない。
 自分が奏儀白斗を倒さなければならない。
 駆け抜ける激しい衝動にも、創志の体は反応を示さない。震える右腕を、白斗に向かって伸ばすのが精いっぱいだ。
「……コイツを殺せば、お前はどうなるかな? 楽しみだ」
 口の端を釣り上げた白斗は、一切の躊躇なく刀を振り下ろす――
「――待ちな、さいよ!」
 直前で、誰かが背後から白斗の肩を掴んだ。
「お前は――」
 その人物を見て、白斗は意外そうな表情を浮かべる。動けなかった創志もまた、驚きを隠せなかった。
「お姉ちゃんに……手出しはさせない……お姉ちゃんは……あたしが守るんだから……!」
 息も絶え絶えに呟くのは、菜月の双子の妹で、ついさっきまで意識を失っていたはずの、保根花月だった。顔色はまだ青白く、両脚も小刻みに震えており、白斗の肩を掴んでいるというよりも、彼に寄りかかりながら何とか立っているといった様子だ。
「……花月! よせ! そいつから離れろ!」
 花月がいつ目を覚ましたのかは分からないが、とにかく白斗の近くにいるのは危険だ。創志は懸命に声を張り上げるが、花月は白斗を睨みつけまま動こうとしない。
「離れるのはコイツのほうよ……! お姉ちゃんをこんなひどい目にあわせて……絶対に許さない……!」
「……へえ。気迫だけはなかなかのもんだな」
 振り返り、花月の表情を確認した白斗は、何かを思案するように空を見上げる。そして、肩を掴んでいた花月の手を軽く振りはらった。
 バランスを崩した花月が、よろめく。
花月!」
 激しい頭痛は収まる気配を見せないが、創志は気力だけで強引に立ち上がる。
 倒れそうになる花月に手を伸ばすため、捕らわれている菜月を助けるため――
 そのための一歩を踏み出そうとした、瞬間。

「お前でもいいか」

 白斗の握る純白の刃が、花月の胸を貫いた。
「……え?」
 不思議そうな声を上げたのは、刺された張本人である花月だった。
 ジワリ、と傷口から漏れ出た鮮血が、白い刃を伝って、地面へと垂れる。
 白斗は淀みのない動作で刀を引き抜いた。
 支えを失った花月の体が、ゆっくりと、まるでコマ送りの動画のように、本当にゆっくりと倒れていく。
 伸ばした手は、届かない。
 花月の瞳から、光が失われていく。
 倒れる。溢れた血が、まるで濁りのない透明な水に絵の具を垂らしたときのように、地面へ広がっていく。
「……、……」
 口がパクパクと動くが、声が出ない。
 理性が、目の前の光景を受け入れることを拒否している。
「――保根花月は死んだ。俺が殺した。さあどうする? 皆本創志」
 白斗は、相も変わらず挑戦的な言葉を投げかけてくる。
 花月は死んだ。
 守ることはできなかった。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」
 創志は絶叫する。
 それは、皆本創志が初めて味わう、本当の意味での敗北だった。