にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

DM CrossCode ep-4th 巫女と弾丸-12

「赤星さんッ!!」
 ようやく事態が飲み込めた創志は、すぐさま倒れた赤星に駆け寄る。助け起こそうとして花月を背負ったままだったことに気付く。傍にあった太い木に花月の体を預けてから、うつ伏せの赤星を起こした。
「…………っ!」
 一目見ただけで、深刻さが分かる。右肩から左脇腹にかけて、バッサリと切られている。とても応急処置で何とかなる傷には思えなかったが、見た目に反して出血は少ない。おそらく、術式の力で肉体を保護しているからなのだろう。
 赤星は呼吸することすら辛そうに顔をしかめ、浅く肩を上下させている。意識はあっても朦朧としているだろうし、このまま時が進めば間違いなく死に至る。
「テメエ……ッ!」
 怒りで肩を震わせながら、創志は白斗を睨みつける。
「お、いいねえその目。今日まで我慢して警察ゴッコを続けてた甲斐があったってもんだ」
 白斗は怯むどころか、今まで消していた不敵な笑みを再び浮かべる。
「前にちょっとした機会があってな。お前のことも調べさせてもらったんだよ、皆本創志」
「俺のことを……!?」
「さらわれた弟を助けるために、デュエルギャング相手に大立ち回りを演じたって話じゃねえか。大切な家族のために、大切な仲間のために戦う……最高の素材だな」
 言いながら、白斗は品定めするような視線を創志に向ける。濁った瞳で頭のてっぺんから足先まで観察され、全身に怖気が走った。
「……大切なお仲間を傷つけられて怒ってんだろ? 俺にむかついてんだろ? なら、殺し合おうぜ。憂さの晴らし合いといこうじゃねえか」
「ふざけんな! 誰が殺し合いなんかするかよ!」
 白斗に対して煮えたぎった怒りを感じているのは事実だし、一発ぶん殴ってやりたいとも思っているが、相手が望むような命のやり取りをするつもりは到底なかった。……相手の土俵に上るのが嫌だった、という反抗心もあるが。
(――とはいえ、赤星さんを呆気なく倒しちまうようなやつだ。迂闊には突っ込めねえ。あいつの術式がどんな能力なのかも分からねえし、こっちは負傷者が二人。どうにか隙を作ってこっから脱出しねえと……)
 脱出したあとは完全なノープランだが、最優先すべきは現状の打破だと判断する。花月も赤星も、一刻も早く安全な場所で適切な処置を施さなければならない。時間が過ぎれば過ぎるほど、それこそ命に関わってくる。
 創志は白斗の動きに注意しつつ、周囲にくまなく視線を走らせる。何か――突破口を開くためのきっかけになるような何かを探すために。
 それに気付いた白斗は、わざとらしいため息を吐いた後、口を開く。
「おいおい、その反応は違うだろ。お前みたいな直情タイプは、頭に血を上らせて飛びかかってきてくれねえと。心配しなくても、避けずにちゃんと受け止めてやるから」
「……人をおちょくるのも大概にしろよ。そんなに殺し合いがしたいなら、その辺の暴力団にでも殴りこみしてろ」
「それはもうやった。それなりに楽しめはしたけど……どいつもこいつも腹の底では人殺しをビビってる連中ばっかりだったな。あれじゃダメだ。俺が望んでるのは、俺のことを殺したくて殺したくて仕方ないって思ってるヤツとのガチバトルなんだよ」
「…………」
 はっきりと分かった。白斗が言っていることが本心なら、創志は彼という人間を一生をかけても理解することができないと。
 狂気、という言葉で表すなら、創志にデュエルを教えてくれた光坂慎一も、狂気に駆られていたと言えるが――白斗のそれは、別次元にあるもののように思える。
「お前には、その素質がある。俺はそう思ってるんだぜ、皆本創志」
「……見込み違いもいいとこだ。眼科行ってから出直してこい」
「いいや。その必要はねえ。何故なら――」
 白斗が、弄んでいた刀の柄を握り直す。
(来るか――!?)
 創志はできる限り慎重に赤星の体を横たえると、彼をかばうように前に立つ。同時に、腰のデッキケースから<スクラップ・シールド>のカードを抜きだした。
 両者の間には、まだ十メートルほどの距離がある。だが、その状態でも赤星は大きな刀傷を受けたのだ。何らかの能力を発動したのは間違いない。
 白斗は砕けた刃の根元を手で覆い隠すと、スッと水平に腕を引く。
 すると、まるでマジックのように、砕けたはずの刃が姿を現していく。白斗が腕を振りきると、そこには純白の刃が蘇っていた。
「――お前は、俺を殺したくなるからな」
 言って、白斗は軽く地面を蹴って後方へと跳ぶ。そして、赤星の銃撃を免れた木の傍に着地すると、裏側に隠れていた何かを引きずりだした。
「なっ――!?」
 その何かを見て、創志は凍りつく。
 縄で体を縛られ、白い布で猿轡を噛まされている少女は、創志の近くで気を失っている花月の双子の姉――保根菜月だった。
 白斗は左腕で菜月の首元を押さえつけると、純白の刃を少女の頬に当てた。菜月の顔が恐怖でひきつり、瞳に浮かんでいた涙が流れる。
「この女を殺せば、いくらお前でもその気になるだろ。そうだよな、創志?」
「テメエエエエエエエエエエッ!」
 ここまで抑えてきた感情が爆発し、創志は吠えた。それでも、無策のまま突撃すれば返り討ちに合う――焼き切れそうになる理性で懸命に体を押さえ、何とかその場に踏みとどまる。
「いいねぇ! その顔が見たかったんだよ!」
「奏儀白斗とか言ったな……今すぐ菜月を離せ!」
「それはお前次第って言ったろ?」
「――これが答えだ! 文句あるかよ!」
 叫んだ創志の背後には、銀色の機械兵――<A・ジェネクストライフォース>が実体化していた。それを見た白斗は、乱雑に菜月を放り投げた。