にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

DM CrossCode ep-4th 巫女と弾丸-11

「事あるごとに拳銃をぶっ放す問題児。治安維持局の『狂犬』……平和な田舎暮らしを強制されて鬱憤が溜まってるだろ? 発散したいだろ? 違うとは言わせねえぜ。俺はさっきのアンタの顔、見てるからな」
「…………」
 白斗の言う「さっきの顔」とはゾンビたちと戦っていたときの、生き生きとしていた赤星の表情のことだろう。心の底から戦いを楽しんでいる人間にしか、あんな顔はできない――白斗は自分も同じ穴のムジナだと言わんばかりに、笑みを濃くした。
「あんな雑魚共散らしたくらいじゃ物足りねえだろ。本部にいた頃は、上の命令でソイツは使えなかったみてえだしな」
 白斗が指差したのは、赤星が握るおもちゃの拳銃。術式によって作られた特別製の銃だ。
「だから、俺と殺り合おうぜ。この空間はそのために作ったもんだしな」
 その言葉で、ふと気付く。ここが隔離された空間ではなく、普通の山中であったとしたら、ゾンビ軍団を殲滅した赤星の攻撃は広範囲の木々を焼き尽くし、下手をしたら麓の温泉街からも光の柱が目視できたかもしれない。それほどの威力を持つ攻撃だった。
 にもかかわらず、この空間は静寂を保っている。赤星の術式では、揺るぎもしなかったのだ。
(奏儀白斗……コイツは……)
 背丈も年齢も、創志とそう変わらないように見える。それなのに、見ているだけで気圧されるような圧迫感を、白斗は纏っていた。新人警官のフリをしていたときは、微塵も感じさせなかったものだ。
 不敵な笑みを浮かべる白斗に対し、沈黙を守っていた赤星が口を開く。
「……お前、ウザいな」
 吐き捨てると、ほぼ同時だった。
 音もなく瞬時に構えられたおもちゃの拳銃から、光の銃弾が発射される。
 創志も、そして銃を向けられた白斗も、全く反応できなかった。
 放たれた銃弾は白斗の脇を通り過ぎ、背後にあった木をなぎ倒す。外れたのではなく、故意に外したことは誰の目から見ても明らかだった。
「こんなバカを容易く潜り込ませるとか、おっさんももうろくしたもんだな。俺が新人の頃は、人のうわべなんてすぐに見抜いていたもんだが……年の波には勝てねえってことか。ま、俺もお前の正体に気付けなかったんだから、エラそうなこと言えないけどな」
「……誰の話だ?」
「別に。お前には関係ねーよ。そんで、お前に付き合ってやるつもりもねえ」
 ゾンビ軍団と相対したときのような覇気はないものの、赤星の動きには隙がなかった。少しでも白斗がおかしな動きを見せれば撃つ――そんな鋭さを感じた。
 創志の目には、そう映った。
「面倒だが、放置するわけにもいかねえからな。適当にぶっ倒してからおっさんに丸投げする」
 煽るような赤星の言葉に、奏儀白斗は、
「――そうだな。今の一発で、俺も気が変わった」
 大袈裟に肩を落とし、表情を消した。そして、だらりと下がった右手を、わずかに握る。
「術式解放。<ドラゴニック・レギオン>――コード<ライトパルサー>」
 白斗が呟くと、今まで空だった右手に、刀の柄が現れる。
 それを握り、鞘から刃を引きだすように腕を引く。すると、何もないはずの空間から純白の刃が姿を見せた。一切の汚れがない、新雪のような刃。
 名刀として美術館に展示されていてもおかしくない美しさに、創志は一瞬だけ目を奪われてしまう。
 その一瞬で、赤星はすでにトリガーを引いていた。
 まさに光速と表現すべき速さで飛んだ光の弾丸が、白斗の構えた刀に命中し――
 純白の刃を、易々と砕いた。
 破片となった刃が、大粒の雪のように宙を舞う。
 振るう間もなく得物を折られた白斗は、刀の柄を強く握りしめ、
「やっぱ、アンタはダメだわ」
 心底呆れたような視線を、赤星に向けた。
 次の瞬間、赤星の体がぐらりと傾く。
 両膝を付き、力無く地面に突っ伏す。
 創志は、それを黙って見ていることしかできなかった。
 気付けば、宙を舞っているのは砕かれた刃の破片だけではなく。
 赤星の体が飛び散った鮮血が混じっていた。
「……とんだ期待はずれだったな。赤星ヒュウ」
 地面に積もった枯葉が、流れ出る血で染まっていく。
「二発目で確信した。アンタは、人を殺すために銃を撃てない。俺が望んでるのは、戦いじゃなくて殺し合いなんだよ。俺を殺す気がないヤツの相手なんて時間の無駄……例えそいつがどんなに強いヤツでもだ」
 刃の折れた刀を右手で弄びながら、白斗はため息をついた。