にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

DM CrossCode ep-4th 巫女と弾丸-10

「ハッハァ! 最高だぜェ!」
 絶え間なくトリガーを引き続けながら、愚直に前進する赤星が、創志を追いぬく。
 光の銃弾を受けて倒れたゾンビたちの体には、パチパチと弾ける電流が残存していた。それを見た創志はふと「レールガン」という単語を思い浮かべるが、あれは電流を発射しているわけではなく、物体を電磁誘導によって加速させ撃ち出すものだ――と信二が解説してくれたことも同時に思い出した。
(術式の力で電気を生み出してる……ってよりも、雷の属性を帯びた攻撃ってとこか?)
 サイコパワーによる実体化でも同じだが――例えば<ライトニング・ボルテックス>のカード効果を具現化したとして、傍から見れば突如発生した雷が対象を焼き焦がしているように見えるだろう。その対抗策として背の高い木の近くに移動したり、避雷針のようなものを用意したりしたとしても、発生した雷を誘導することはできない。何故なら実際に雷が発生したわけではなく、「相手フィールド上に存在する表側表示モンスターを全て破壊する」という効果を具現化した結果が雷の形を取っているだけだからだ。これを防ぐためにはサイコパワーや術式の力を用いるか、単純に強度の高いものを壁に使うしかない。
 もっとも、電気に対する一般的な対策が全く無意味かといわれれば、そうとは限らない。サイコパワーによる具現化や術式のコードには「属性」を帯びた攻撃が存在しており、炎の属性を帯びた攻撃を防ぐために水の中に飛びこめば、多少は威力を軽減することができる。デュエルモンスターズにおいて電気は光属性に分類されるため光を遮断する黒い壁などに隠れれば、効果はある――
「ボサっとしてんな皆本! さっさと花月を助けて避難しやがれ!」
 神楽屋から教わった知識を思い出していた創志は、赤星の鋭い叫び声によって我に帰る。こんな悠長なことを考えていられる状況ではなかった。
「分かった!」
 赤星が突撃したことによってゾンビたちがそちらに集中し、一時は化け物たちに覆い隠されてしまった花月の姿が視認できるようになっている。創志は具現化させた<A・ジェネクストライフォース>を伴い、花月の元へと一目散に駆けだす。
 創志の動きに気付いた何体かのゾンビがこちらに向かってくるが、
「てめえらは俺の獲物だ! 一匹だってくれてやるかよォ!」
 おもちゃの銃から放たれた光弾が、脳天や足を貫いていく。
「赤星さん……」
 今の赤星ヒュウは、獣そのものだった。ようやくありつけた獲物に、一心不乱に齧り付く――その姿に創志は危うさを感じるが、すぐに思考を切り替え、倒れる花月を目指す。
「寄らせねえよ! クソ雑魚共が!」
 ゾンビたちの動きは確かに洗練されていたが、彼らが手にしていたのは剣や斧などの接近戦用の武器だ。敵の懐に飛び込むころには、すでに蜂の巣にされている。身に付けた鎧も役に立たないとなれば、もはやただ数が多いだけの烏合の衆。術式を使う赤星に疲労の色は見えないので、殲滅されるのは時間の問題だろう。
(――いや、待て。確か魔法使いみたいな恰好をしたヤツがいたような――)
 創志がその個体を探し始めるのと同時、全身を覆い隠すほどの巨大な盾を持ったゾンビたちが、集団の先頭に躍り出た。横一列に隙間なく並んだいくつもの盾が、即席の壁を形成する。
 赤星は構わず光弾を連射する――が。
 盾に激突した弾は、バチバチィ! と音を立てて弾けた。盾には傷一つない。
「赤星さん! あれは――」
「ただの盾じゃねえってことくらい見りゃ分かる。たぶん、こいつらを操ってるヤツの差し金だろ」
「操ってるヤツ……? こいつらを実体化させてるやつがいるってことか!?」
「実体化させてんのかどっかから連れてきてんのかは知らん。俺にとっちゃどうでもいいことだからな。そんで――」
 赤星が言い終わらないうちに、並んだ盾の頭上を追いこすようにして、直径三十センチメートルほどの炎の玉が無数に放たれた。見た瞬間に察する。今まで隠れていた魔導士風のゾンビの攻撃だ。矛先は、当然赤星。
 創志は足を止め、逡巡する。赤星を助けに行くべきか、それとも花月の安全を確保するべきか。だが、迷ったのはほんの一瞬。
「<トライフォース>!」
 随伴していた銀色の機械兵を赤星の元へと向かわせ、自分は変わらず花月の元へ走る。
 が、それは愚策だった。
「――防がれたんならよ、次はもっとデカイ弾ブチ込めばいいだけの話だろーが!」
 向かってくる炎の玉を見据えながら、赤星が吠えた。
 構え直したチープなおもちゃの銃口が、今度は徐々に広がっていく。
「食らいな! <超電磁稼働ボルテック・キャノン>!」
 赤星がトリガーを引いた瞬間、目を焼くような閃光が辺りを覆う。
 眩い光は急速に収束し、一筋の光条を形成する。それは、最初に赤星が放ったレーザーよりも遥かに太い、柱と表現すべき光条だった。
「やべえ――花月!」
 創志は倒れている花月を抱きかかえると、即座に手近な木の幹に隠れる。それだけでは不十分だと判断し、罠カード<スクラップ・シールド>を具現化させる。
「消し飛べえええええええええええええええええッ!」
 この空間ごと破壊してしまうのではないのかと錯覚するほどの密度を持った光条が、迫る炎の玉を、壁を形成していた盾を、それを保持していたゾンビを、後ろに控えていたゾンビたちを、そして射線上にあった木々をまとめて薙ぎ払っていく。風が荒れ狂い、落ち葉が吹きあがっては光の中に消えていく。創志は吹き飛ばされないように身を屈め、花月をきつく抱きしめた。
(これが……赤星さんの術式の力かよ……!?)
 敵の防御を強引にねじ伏せる、驚異的なまでの破壊力。
 味方を巻き込んだ攻撃に怒りを覚えた創志だったが、すぐにその威力に圧倒されてしまう。創志の周りには強い力を持ったサイコデュエリストが何人かいるが、それらと同等かそれ以上の力だった。
 それが術式によるものなのか、それとも赤星自身の力なのか……今の創志に判別はできない。
 だが、自分が遥か格下だという事実は、瞬時に理解できた。
 やがて光条の勢いが弱まり、広間に静寂が戻ると、
「……これやると全部終わっちまうの忘れてたな。失敗した」
 先程までとは打って変わって、気の抜けた声で赤星が呟いた。
「……ったく。やりすぎだぜ赤星さん」
「悪かった。ちっとテンション上がり過ぎた」
「そういう問題なのかよ……」
 創志は大きく息を吐き出して、ゾンビたちが残らず消えていることを確認してから<トライフォース>と<スクラップ・シールド>の実体化を解除。
花月! 大丈夫か!?」
 そして、抱えたショートカットの少女の体を軽く揺すりながら、反応を促す。すると、花月は苦しそうに眉根を寄せて「う……」と呻いた。
「よかった……生きてるみたいだ」
 脈もあるし、最悪の事態は回避できたようだった。だが、花月の意識ははっきりしておらず、顔からは血の気が引いている。持病のこともあるので、一刻も早く安心して休める場所に移動させるべきだ。
「色々気になることはあるけど……とりあえずここを出よう」
 赤星に手伝ってもらい花月を背負った創志は、周囲を警戒しつつ、元来た道を引き返そうと一歩を踏み出した。
「――待て」
 それを、赤星が手で制した。彼の鋭い視線は、これから創志たちが進もうとしていた方向にある、一本の木に向けられていた。
 赤星の様子を見て、創志は事態を悟る。あそこに、誰かがいる。おそらくは――
「――ありゃ、見つかっちゃったか」
 ゾンビたちを操っていた、黒幕が。
 そう思っていた創志は、出てきた人影を見て面を食らう。その姿には、創志にも見覚えがあったからだ。
「あれ? あんた確か――」
「つい最近伊奈妻温泉街に配属になった、赤星サンの後輩っす。どうもこんちは」
 害のなさそうな締まりのない笑顔で頭を下げたのは、今朝車の燃料を届けるためにやってきた新人警官だ。
「なんであんたがここに……」
「いやあ、燃料入れ終わったんで赤星サンに報告しようと思って探してたんすよ。そしたら急にドンパチ始まったんで、ビビって隠れてたんです」
 わざわざ身振り手振りを交えて説明する新人警官。「もーホント怖かったっすよー」と笑いながら、こちらに近づいてくる。その姿に、創志は言いようのない不気味さを感じた。
「――そんなわけねえだろ。テメエ、何者だ」
 新人警官の動きを制止するように、低く、凄みのある声で赤星が告げる。
 足を止めた新人警官の口元が、ニヤリと歪んだ。
「そういや、赤星サンは俺の名前知ってます? 知らないっスよね? まだ自己紹介してないですから」
 若者は帽子に手をかけると、鬱陶しそうに脱ぎ捨てる。顕わになったのは、純白の髪。

「俺の名前は奏儀白斗。赤星ヒュウ……アンタと殺し合いしに来た」

 奏儀白斗――若者がそう名乗った瞬間、彼の軽薄な笑みの裏に潜む黒いものが垣間見えたような気がした。