にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

デュエルモンスターズ CrossCode ep-8th プロローグ-14

◆◆◆

「やれやれ……これ以上続けていても平行線ですね。ここはこちらが譲歩するしかありませんか。罪人とはいえ、人を殺したくはありませんし」
 大袈裟に肩をすくめた白いローブの男が、手袋をはめた右手で器用に指を鳴らして見せる。途端、灼熱の波動を振りまいていた巨鳥――<炎王神獣 ガルドニクス>は瞬く間に消え去った。
「貴方には、この世界への滞在を二週間許可します。世界の理に深刻な傷を付けたり、現地民に大きな危害を加えたりしなければ、原則として自由に活動していただいて結構です。無論、私の監視付きですが、滅多なことがない限り手出しはしません」
 相手の急な心変わりに、訝しむ。散々自分を追い返そうとした割には、条件が良すぎる。
「疑うのは構いませんが、貴方は真偽を確かめる術を持たない。そして、この提案を呑まなければ目的を果たすこともできない……それは承知しているはずです」
 悔しいが、男の言う通りだった。ここは押し黙るほかない。
 こちらの反応を承諾と受け取ったのか、ローブの男は仰々しく頭を下げ、
「それでは、異世界観光をごゆるりとお楽しみください。貴方の二週間が実りあるものになるよう、草葉の陰から見守っていますよ」
 その言葉を最後に、白いローブの男の姿が消え――
 視界が、開けた。
 
◆◆◆

「さぁ! 熱戦が続いたショップ大会もいよいよ終わりの時が近付いてきたぞ! 果たして、優勝の栄冠を手にするのはどちらのデュエリストだー!?」
 マイクを握った若い男性店員の実況に、観客から声援が上がる。個人経営のショップながら贔屓にしている客は多いらしく、大会も――ショップ主催のものにしては――大いに賑わっていた。
 店の裏手にある空きスペースに拵えられた簡易ステージで、決勝まで勝ち進んだ2人のデュエリストが相対している。その片方は、竜王の弟子である少年、クロガネだった。
 ここまでは難なく勝ちを積み重ねていたクロガネだったが、さすがに決勝まで進出した相手は手強い。年齢はクロガネとそう変わらないだろうが、このショップ大会では何回も優勝している猛者らしく、経験の差が出たのか劣勢が続いていた。
「僕のターン!」
 それでも、クロガネの瞳に諦めの色は微塵も浮かんでいない。観客の輪の中から見守る多栄にもそれが分かった。万が一夢ノ司学園の生徒に見られてしまったときのために、野球帽に薄手のパーカー、短パンと男の子がするような格好で変装はしてある。
(大丈夫。まだ勝機はある)
 クロガネの残りライフは800。相手ライフは1000。ほぼ互角だ。
 だが、クロガネのフィールドにはモンスターも伏せカードも無い。対し、相手の場には効果を使用して攻撃力が2倍になった<H-C エクスカリバー>がいる。そして、伏せカードが1枚。このターンが終われば<H-C エクスカリバー>の攻撃力は元に戻るが、それと同時にクロガネの敗北が決定するだろう。相手の手札は3枚……次のモンスターが出てこないとは考えにくい。

<H-C エクスカリバー>
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/光属性/戦士族/攻2000/守2000
戦士族レベル4モンスター×2
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を2つ取り除いて発動できる。
このカードの攻撃力は、次の相手のエンドフェイズ時まで元々の攻撃力の倍になる。

「僕は<聖刻龍-トフェニドラゴン>を特殊召喚!」
 クロガネがセットしたカードが、デュエルディスクのソリットビジョンシステムによって映像として浮かび上がる。その迫力は、モンスターが現実のものとなって現れたといっても過言ではないほどだ。

<聖刻龍-トフェニドラゴン>
効果モンスター
星6/光属性/ドラゴン族/攻2100/守1400
相手フィールド上にモンスターが存在し、
自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、
このカードは手札から特殊召喚できる。
この方法で特殊召喚したターン、このカードは攻撃できない。
このカードがリリースされた時、
自分の手札・デッキ・墓地からドラゴン族の通常モンスター1体を選び、
攻撃力・守備力を0にして特殊召喚する。

「さらに<トフェニドラゴン>をリリース――」
 よし、と多栄は思わずガッツポーズをしてしまう。
 クロガネの手札には、<聖刻龍-アセトドラゴン>がある。それをアドバンス召喚し、<聖刻龍-トフェニドラゴン>がリリースされたことでデッキからレベル8の通常ドラゴン族モンスターを特殊召喚。<聖刻龍-アセトドラゴン>の効果でレベルを合わせれば<聖刻神龍-エネアード>をエクシーズ召喚できる。あとは<聖刻神龍-エネアード>の効果で手札のモンスター2枚をリリースし相手の場のカードを破壊。ダイレクトアタックを通せばクロガネの勝ちだ。

<聖刻龍-アセトドラゴン>
効果モンスター
星5/光属性/ドラゴン族/攻1900/守1200
このカードはリリースなしで召喚できる。
この方法で召喚したこのカードの元々の攻撃力は1000になる。
1ターンに1度、フィールド上のドラゴン族の通常モンスター1体を選択して発動できる。
フィールド上の全ての「聖刻」と名のついたモンスターのレベルは
エンドフェイズ時まで選択したモンスターと同じレベルになる。
また、このカードがリリースされた時、
自分の手札・デッキ・墓地からドラゴン族の通常モンスター1体を選び、
攻撃力・守備力を0にして特殊召喚する。

<聖刻神龍-エネアード>
エクシーズ・効果モンスター
ランク8/光属性/ドラゴン族/攻3000/守2400
レベル8モンスター×2
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。
自分の手札・フィールド上のモンスターを任意の数だけリリースし、
リリースしたモンスターの数だけフィールド上のカードを破壊する。

(相手のデッキは、見たところ戦士族中心みたいだし……<ガガガガードナー>くらいは入ってるかもしれないわね)

<ガガガガードナー>
効果モンスター
星4/地属性/戦士族/攻1500/守2000
相手モンスターの直接攻撃宣言時、このカードを手札から特殊召喚できる。
また、このカードが攻撃対象に選択された時、手札を1枚捨てる事で、
このカードはその戦闘では破壊されない。

 <聖刻神龍-エネアード>のダイレクトアタックが通らなかった場合のことを想定していた多栄は、次の瞬間信じられない光景を目の当たりにする。
「――<ストロング・ウィンド・ドラゴン>をアドバンス召喚!」
 現れたのは<聖刻龍>ではなく、深緑の鱗を持つ筋骨隆々の竜だった。<ストロング・ウィンド・ドラゴン>……リリースしたドラゴン族モンスターの元々の攻撃力の半分を得ることができる、レベル6の上級ドラゴン族モンスターだ。

<ストロング・ウィンド・ドラゴン>
効果モンスター
星6/風属性/ドラゴン族/攻2400/守1000
このカードは同じ攻撃力を持つモンスターとの戦闘では破壊されない。
ドラゴン族モンスターをリリースしてこのカードのアドバンス召喚に成功した時、
このカードの攻撃力はリリースしたドラゴン族モンスター1体の
元々の攻撃力の半分の数値分アップする。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。 

(クロガネ、いつの間にあんなカードを……)
 昨日の最終調整が終わった後、自分で考えてデッキに入れたのかもしれない。相性は悪くないかもしれないが<ストロング・ウィンド・ドラゴン>のレベルは6。<聖刻神龍-エネアード>のエクシーズ召喚に直接は繋がらない。
「<トフェニ>がリリースされたので、僕はデッキから<ラビードラゴン>を守備表示で特殊召喚します!」

<ラビードラゴン>
通常モンスター
星8/光属性/ドラゴン族/攻2950/守2900
雪原に生息するドラゴンの突然変異種。
巨大な耳は数キロ離れた物音を聴き分け、
驚異的な跳躍力と相俟って狙った獲物は逃さない。

 クロガネのプレイングは、多栄にとってますます不可解なものになっていく。<ラビードラゴン>をまだデッキに入れていたことはまあよしとしても――久々に立体映像でかわいい姿を見られたし――この状況で特殊召喚する意味が分からない。
「そして! 手札から魔法カード<受け継がれる力>を発動!」
 ここに来て、多栄はクロガネの狙いをようやく理解する。
「<ラビードラゴン>を墓地に送ることで、<ストロング・ウィンド・ドラゴン>の攻撃力を2950ポイントアップさせます! これで、<ストロング・ウィンド・ドラゴン>の攻撃力は合計6400!」
 高攻撃力のボーダーラインとも言える4000を上回る数値に、観客からどよめきと歓声が上がる。
 <ストロング・ウィンド・ドラゴン>の攻撃力には、リリースされた<聖刻龍-トフェニドラゴン>の攻撃力の半分1050ポイントが加わっており、さらに<受け継がれる力>は墓地での攻撃力を参照にするため、攻撃力守備力が0になって特殊召喚されていた<ラビードラゴン>本来の数値を加えることができる。

<受け継がれる力>
通常魔法
自分フィールド上のモンスター1体を墓地に送る。
自分フィールド上のモンスター1体を選択する。
選択したモンスター1体の攻撃力は、
発動ターンのエンドフェイズまで墓地に送った
モンスターカードの攻撃力分アップする。

 なるほど、今の<ストロング・ウィンド・ドラゴン>に戦闘で勝てるモンスターはそうそういないだろう。
(けど――)
 多栄は悔しさで奥歯を強く噛む。<ラビードラゴン>を見られたうれしさなど、とうに消え去っていた。

 こんな方法は、自分が教えたデュエルではない。

「バトル! <ストロング・ウィンド・ドラゴン>で<エクスカリバー>を攻撃!」
 主人の命を受けた緑の竜が咆哮を上げ、両翼をめいっぱい広げた。その翼を振るい、巨大な竜巻を生み出す。
 巻き込んだものを容赦なく切り刻む破壊の竜巻が、剣闘士の王者へと迫る――
「<エクスカリバー>に正面から挑んでくる度胸は認めてやるが……通すわけにはいかねえな! リバースカードオープン! <聖なるバリア―ミラーフォース―>!」
「なっ……!?」
「<ストロング・ウィンド・ドラゴン>は破壊させてもらうぜ!」
 <H-C エクスカリバー>の前に出現した光の壁によって竜巻は弾かれ、代わりに飛来した光条が緑の竜を貫いた。

<聖なるバリア―ミラーフォース―>
通常罠(準制限カード)
相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。
相手フィールド上に攻撃表示で存在するモンスターを全て破壊する。

「僕の……<ストロング・ウィンド・ドラゴン>が……」
 砕け散る竜を呆然と見ていたクロガネは、悔しそうに顔を歪めた。
 クロガネはそれ以上何もできずにターンを終了し、次のターンで<H-C エクスカリバー>のダイレクトアタックを受けて敗北。大会は準優勝という結果で終わった。