にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

デュエルモンスターズ CrossCode ep-8th プロローグ-23

◆◆◆

 自分は、誰かに必要とされたことがあっただろうか。
 深海を思わせるような闇に沈み、感覚のほとんどが遮断されている中で感じる、穏やかな波に揺られているような心地よさ。それに身をゆだねながら、多栄はふと思う。
 恵まれた家に生まれた多栄だったが、それを理由にいじめを受けたり仲間外れにされたりした記憶はない――少なくとも、多栄が見ることができた表側では。
 苦労がなかったと言えば嘘になるが、多栄は今日まで何不自由ない幸せな生活を送ってきたはずだ。誰かに疎まれることもなく、蔑まれることもなく。
 けれど、誰かに求められたこともなかった。
 もし、多栄が命を落としたとして、悲しむ人間は大勢いるだろう。生木院家という名家のこれからについても、多少なりとも影響を与えるはずだ。
 だがそれは、どちらも決定的な痛手になりはしない。
 年老いるまで多栄の死を引きずる人間はいないだろうし――真琴がそうであってほしいと願うが――空いた穴は他の誰かが埋める。そうして生木院多栄は、人々の記憶からも消えていくのだ。
(ああ、そうか……)
 どうしてクロガネの師匠になることを引き受けたのか。
 どうしてデュエルの勝敗に固執したのか。
(あたし、誰かに頼られたかったんだ……)
 デュエルに勝つことで自分の力を証明する。そして、誰かがその力を頼ってくれることを期待していたのだ。だから、その力を真琴に否定されたとき、怒ったのだ。悲しんだのだ。
(あたしも、真琴みたいに――)
 さらに薄れゆく意識の中に、声が響く。

「――僕は勝ちます。勝って、多栄さんを取り戻します」

 黒一色だった世界に、白い光明が差し込む。

「――僕はまだ、多栄さんに教わりたいことがたくさんあります。だから!」

 白い光は、瞬く間に闇を振り払い――

「――僕の力で! 大切な人を守ってみせます!」

◆◆◆

「僕はレベル6の<聖刻龍-トフェニドラゴン>にレベル2の<炎龍>をチューニング!」
 手札から特殊召喚された<聖刻龍-トフェニドラゴン>の体を、紅色のリングへと姿を変えた「チューナーモンスター」、<炎龍>が囲う。

<炎龍>
チューナー(効果モンスター)
星2/炎属性/ドラゴン族/攻1400/守 600
このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与える度に、
このカードの攻撃力は200ポイントアップする。

「正しき光は、己が体をも灼く。それでも終わりを求めるなら、朽ち果てる前に前進せよ!」
 そして、リングの中心を白い閃光が駆け抜けた。

シンクロ召喚! 白き終焉を――<ライトエンド・ドラゴン>!」

 一切の汚れがない純白の光が、竜の体と天使の羽を形作っていく。
 力強く羽ばたいた二対の翼が、白き竜を曇天の空へと飛翔させる。
 額から首までを覆う金色の王冠にはエメラルドの宝玉が埋め込まれており、調和のとれた美しさを醸し出している。同じ意匠の装具が翼を繋ぎとめるように背中と腹に装着されており、人間でいえばちょうど胸の位置になるであろう場所にある大きな宝玉は、見ているだけで吸い込まれそうな深い輝きをたたえていた。

<ライトエンド・ドラゴン>
シンクロ・効果モンスター
星8/光属性/ドラゴン族/攻2600/守2100
チューナー+チューナー以外の光属性モンスター1体以上
このカードが戦闘を行う場合、
モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
このカードの攻撃力・守備力は500ポイントダウンし、
このカードと戦闘を行う相手モンスターの攻撃力・守備力は
エンドフェイズ時まで1500ポイントダウンする。

「その力は……!」
 守護者の声に、初めて緊迫感がこもる。フードの下から除く鋭い視線が、クロガネのフィールドに降臨したモンスターを捉えていた。
「貴方がシンクロモンスター<ライトエンド・ドラゴン>を所持していることは知っていましたが……よもや世界の理を一時的に書き換えてまで強引に召喚するとは。貴方に対する認識を改めざるを得ないようです」
 この世界のデュエルディスクに「シンクロ召喚」なるシステムは組みこまれていない。そのため、本来ならそれを行おうとしても何も起こらないか、カードデータが読み取れないといった類のエラーが発生するはずだった。
 それを、どういう理屈かは分からないが――おそらく本人も無意識のうちに行ったのだろう――ディスクに「シンクロ召喚」のシステムを理解させ、使用可能にした。それは、下手をすればこの世界の在り方そのものを変えてしまいかねない、恐ろしい力である。
「貴方は危険だ。これ以上野放しにはしておけない」
「……それでも、約束は守ってください」
 クロガネがデュエルに勝てば、生木院多栄は解放する――守護者は首肯した。
「う、うう……クロガネ……?」
 そこで、ずっとベンチに横たわっていた多栄が、もぞもぞと体を起こした。
「多栄さん! よかった……!」
 多栄が動いている姿を見て、胸のつかえがひとつとれる。これで、もっとデュエルに集中できる。
「どうなってるの……? ここは……」
「多栄さん」
 目覚めたばかりで状況を把握していない多栄に向けて、クロガネははっきりと告げる。
「見ていてください。僕のデュエル」