にわかオタクの雑記帳

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デュエルモンスターズ CrossCode ep-8th プロローグ-13

 結果だけ述べると、真琴の辛勝といったところだ。実力の拮抗した2人のデュエルは白熱し、最後までどちらが勝ってもおかしくない展開だった。
「くそー……あとちょっとだったのに……悔しいです」
「こっちも危なかった。最後のクロガネ君のターンであともう1体モンスターを召喚されていたら、防ぎきれなかったよ。あのドローが<死者蘇生>のような1枚でモンスターを呼べるカードだったら、勝敗は逆転していただろうね」
「でも、真琴さんって『何かあるな』って雰囲気を出すのが上手いっていうか……ブラフの生かし方が上手ですよね。それでいて<サイバー・エンド・ドラゴン>のダイナミックな攻撃! カッコよかったです!」

<死者蘇生>
通常魔法(制限カード)
自分または相手の墓地のモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。

<サイバー・エンド・ドラゴン>
融合・効果モンスター
星10/光属性/機械族/攻4000/守2800
「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」
このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

「ありがとう。<聖刻>は相手の手を事前に潰すことには長けているが、戦闘勝負に持ち込まれるとやや力不足なところがあるからね」
「さすがに<突進>じゃ<リミッター解除>には対抗できないですよね……」
「光属性という部分を生かすなら、<光子化>なんてどうだい? 相手の攻撃を防ぎつつ、次の自分のターンで――」

<リミッター解除>
速攻魔法(制限カード)
このカード発動時に、自分フィールド上に表側表示で存在する
全ての機械族モンスターの攻撃力を倍にする。
この効果を受けたモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

<光子化>
通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、
その相手モンスターの攻撃力分だけ、
自分フィールド上に表側表示で存在する光属性モンスター1体の攻撃力を、
次の自分のエンドフェイズ時までアップする。

 バン! と。
 気付けば、テーブルを叩いて立ち上がっていた。驚いた2人の視線が、多栄に集中する。
「あ……」
 どうして2人の邪魔をするような真似をしたのか、自分でも分からない――いや、分かってはいるが気持ちの整理ができていない。うろたえた多栄は、救いを求めるように弟子であるクロガネに視線を向けてしまった。クロガネは、何があったのだろうかと心配そうな眼差しを返してきた。それを見て、胸がズキリと痛む。
 けれど、楽しげに笑いあいながらデュエルに興じている2人を見ていたら、途方もなく胸が苦しくなって、いてもたってもいられなくなってしまったのだ。
 クロガネが、真琴に取られてしまうような気がして。
「……出過ぎた真似をしてしまったかな」
 テーブルに広がったカードを片付けながら、真琴が寂しげに呟く。
「あ、違うの。これは……」
「――何も違わないよ。無理に取り繕わなくていい」
 多栄の心中を見透かしたかのように、真琴は優しい声で告げる。
「今日は帰るよ。邪魔をしてすまなかった」
「…………」
「クロガネ君。明日の大会がんばってくれよ」
「真琴さん……」
 淀みない動作で立ちあがった真琴は、そのまま玄関に向かって歩いていく。
 その背中は引き留める声を待っている――それが多栄には分かっていた。真琴はいつでも冷静沈着で、頼りがいがあって……けど、それに応えようとして自分の気持ちを押し殺してしまうことがある。親友である多栄に対しては遠慮をしないが、それでも最後の一線は絶対に越えようとしないのだ。
 真琴の心は、「あの一件」以来傷ついたままだ。そして、多栄にはその傷を癒すことができる。
 にもかかわらず。
 多栄は、真琴を引き留めることができなかった。
 扉が開き、閉じる音がリビングに響く。今なら、まだ走れば間に合う。
「……多栄さん」
 多栄の心中を気遣うような慎重な声色で、クロガネが口を開いた。
「……なに? クロガネ」
 かろうじて答えることができた。けど、視線は無意識のうちに逸れた。
「真琴さんと何かあったんですか?」
「……答えないわけにはいかないよね」
 クロガネの疑問は当然のものだ。あまり話したくはなかったが、はぐらかすことは彼の信頼を裏切ることになる。
「実はね、真琴にデュエルを教えたのも、あたしなんだ」
 覚悟を決めた多栄は、「あの時」に至る出来事を話し始めた。


 半場真琴とは中学の時に知り合い、友達になった。彼女は多栄が生木院家の娘だと知りつつも、普通に接してくれた。大人びた容姿と理知的な言動は多栄が将来必要とするものであり、それでいて自分の長所を鼻にかけない気さくな態度は、尊敬の念さえ抱かせた。真琴と出会うことがなければ、多栄は親の勧めるまま上流階級の子供が多く進学している高校へ入学しただろう。
 そんな真琴にも、デュエルが好きだということを明かすのは躊躇われた。中学時代は多栄がもっともデュエルから遠ざかっていた時期であり、「カードゲームなんて男の子のやる遊び」という固定観念の影響を一番受けていたときでもあった。どうせやめることになるなら、ここで手放してしまってもいい――真琴と遊ぶのが楽しかったせいで、その思いは日増しに強くなっていった。
 だが、デュエルモンスターズから手を引くことはできず、高校進学をきっかけに店長からの話を受け、「竜王」としてのデュエルを始めた。
 実力者との手汗握る攻防は冷めかけていた熱を高ぶらせるのに十分であり、大会には多栄とそう変わらない年齢の女の子や、年上の女性も参加していることを知った。
 竜王としてデュエルをできる時間は限られている。再燃してしまったデュエル熱を満たすには、仮面を被る時は短すぎる――竜王となってからまだ間もないころから、そういった不満が募っていた。
 そして、夏休みに入った初日。多栄は真琴にデュエルモンスターズをやっていることを明かした。
 最初こそ戸惑ったものの、ドラゴングッズだらけの部屋を見ていた真琴は「そういうことだったのか」と納得し、多栄の相手を務めるためにデュエルを始めてくれた。
 全くの初心者だった真琴だが、元来の能力の高さも相まって基礎ルールからデッキの組み方、デュエル中の駆け引きに至るまで瞬く間に習得し、ほんの一週間ほどで多栄が教えることはなくなった。
 親友がデュエルを始めてくれたことに舞い上がった多栄は、毎日のようにデュエルに明け暮れた。竜王のときと違い、生木院多栄の対戦相手は身内の数人に限られており、真琴とのデュエルは何もかもが新鮮だった。
 充実していた。秘密の一部を打ち明けたことによって真琴との距離も縮まった気がした。
 ――そう思っていたのは、多栄だけだった。
 夏休みも終わりに差しかかかった日のこと。いつも通り2人でデュエルをし、多栄の勝利で終わった後、真琴は思いつめた顔でこう告げた。

「君のデュエルは独りよがりすぎるよ、多栄。君と対戦していても……楽しくない」

 真琴の成長速度は目を見張るものだったが、それでも積み上げてきた経験を覆せるほどではない。デュエルの勝率は多栄が圧倒的に上だった。
 負けて悔しいのは当然だ。しかし、真琴はこんな負け惜しみを言う人間ではない。
 ショックだった。どうして真琴がこんなことを言ったのか分からず、混乱した。頭が真っ白になり、わけが分からないままその日は真琴を追い出してしまった。
 翌日、真琴は「昨日はすまなかった」とこちらが申し訳なくなるくらい丁寧に謝罪してくれたので、表面上は仲直りをした。だが、多栄はショックが抜け切っていないせいでこれまで通り真琴と接することができず、いつの間にかデュエルモンスターズのことには触れないという暗黙の了解ができ上がっていた。
 鬱憤を晴らすように竜王としてのデュエルで圧勝を重ねたが、ひび割れた多栄の心が元通りになることはなかった。


「クロガネと真琴がデュエルをしているのを見て、気付いたの。真琴が<サイバー・エンド・ドラゴン>を召喚したの初めて見たことに」
「え……?」
「あたしとデュエルしている時は、いつもその前に潰しちゃってたから」
 2人のデュエルは、お互いに理想の盤面を展開し、正面からぶつかったものだった。多栄と真琴のデュエルはそれとは違い、真琴の展開したモンスターを各種罠カードで潰しつつ、多栄が制圧戦を仕掛けることがほとんどだった。多栄からしてみれば理想的な展開だが、真琴がどう思っていたのかは分からない。
「デュエルは楽しむことも大事だけど……最終的には勝つためにやるものだと思う。そのためには、相手にやりたいことをやらせてばかりじゃいけない。それが楽しさを奪うことだとしても、やらなきゃ勝てないの。あたしの考え、まちがってるかな?」
 真琴とぎくしゃくしてしまった経緯を話し終え、多栄はずっと疑問に思っていたことをクロガネに問いかけた。
 デュエルモンスターズに限らず、全てのカードゲームには必ず勝者と敗者が生まれる。例え子供の遊びと揶揄されようとも、そこに勝敗が存在している以上勝ちを目指して戦うのは当然だと思うのだ。
 クロガネは両目を閉じ、多栄の問いを吟味するように二、三度頷いてから、口を開く。
「僕は、多栄さんが正しいと思います」
 はっきりと告げたクロガネの姿に、多栄の心が軽くなる。この子は自分のことを分かってくれている――
「けど、正しいことの全てが賛辞を受けるわけじゃないです。たくさんの人から非難を浴びる正しさも、あると思います」
 続いた言葉は、多栄を全面的に肯定するものではなかった。その言葉は、14歳の少年の口から出たものとは思えないほど重苦しいものだ。初めてクロガネと会ったときに見せた刹那の冷たさが再び蘇ったようで、多栄は押し黙ってしまう。
「ごめんなさい。答えになってないですね」
 たはは、と苦笑いしたクロガネは、空気を切り替えるように「さて!」とわざとらしく大声を出す。
「明日の大会に向けて、最後のご指導よろしくお願いします。多栄さん」
「う、うん……」
 もやもやした心は晴れないまま、多栄はクロガネの対面に座る。
(クロガネには気を使わせて、真琴のことは傷つけて……)
 分かっているのに歩み寄れない不甲斐ない自分を認識して、ますます気分が曇る。
(あたし、最低だ……)