にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

デュエルモンスターズ CrossCode ep-8th プロローグ-25

「貴方の勝ちです。約束は守りましょう。非常に惜しくはありますが……生木院多栄は諦めます」
 肩をすくめた守護者は、その証だと言わんばかりに多栄から離れる。守護者の動きを注視しながら、クロガネは多栄に駆け寄った。
「多栄さん! 大丈夫ですか? どこか怪我はしていませんか?」
「だ、大丈夫……だとおもう。けど、何が何だかわけ分からないっていうか……あの人に首を絞められたところまでは覚えてるんだけど……」
「ええと、どこから説明したらいいのかな……」
 クロガネが迷っていると、突然ビルの中へと続く扉が開いた。
「はあっ、はあっ、はあっ……」
 息を切らせながら現れたのは、真琴だった。彼女はせわしなく周囲を見回し、
「多栄! クロガネ君!」
 2人の姿を見つけると、表情を明るくしながら駆け寄ってくる。
「無事でよかった……多栄の部屋に行っても誰もいないし、クロガネ君は突然消えるし、生木院家のガードマンの人たちに質問攻めされるしで混乱しっぱなしだったよ。ガードマンの人たちもよく状況が分かっていないようだったけど、とにかく多栄がいなくなったことだけは確かだったから、無我夢中で探していたんだ。ペンダントのGPSは役に立たないようだったからね。思ったより早く見つけられて、神に感謝したい気分だ」
 真琴は勢いよくまくしたてるが、それだけ焦っていたということだろう。いつも冷静な彼女にしては珍しい反応だった。
「それにしても、どうしてこんなところに――」
「その説明は、後日ゆっくりさせていただきます」
 注意を引くようにパン、と手を叩いた守護者が、ゆっくりと歩み寄ってくる。
 その先にいるのは、多栄――ではなく、クロガネだ。
「私が言いたいことが分かりますか?」
「……はい」
 守護者の問いに、クロガネは渋々ながら頷く。
「クロガネ君? 彼は一体――」
「真琴さん! 多栄さん!」
 真琴の言葉を遮り、クロガネは2人に向き直ると、
「今までお世話になりました! このご恩は、一生忘れません!」
 最初に会ったときと同じように、丁寧に頭を下げた。
「え……? それってどういうこと……?」
 未だ困惑の表情が抜けきらない多栄が、瞳を潤ませながら呟く。
 それを見たクロガネは、一瞬だけ躊躇するが、それを振りきり言葉を続けた。
「僕は元の世界に帰ります。これ以上この世界にいると、色んな人に迷惑をかけますから」
「そんな……」
「彼はこの世界に対して『害を与えることができる』と証明してしまった。これ以上は他の守護者が黙っていないでしょう。すぐにでもここに駆けつけてくるはずです。守護者の全員が私のような穏健派とは限りません。彼を元の世界に返すためなら、手段を選ばない――それこそ貴女方に直接的な危害を及ぼす者もいるでしょう」
 世界に存在しないものを行使する……言い方は大袈裟だが、それは神の所業とも呼べるものだ。過ぎた力は争いを呼び、無力な人間を嫌が応でも巻き込む。
 多栄も、クロガネと出会わなければ守護者に目をつけられることもなかっただろう。そういった意味でも、自分はこれ以上ここに留まるべきではない。
 この世界に来たときは、どんなことがあろうと納得できるだけの強さを手にするまでは帰らないつもりだった。だが、クロガネがここに残ることで、多栄や真琴が傷つく姿は見たくない。
「これ、ありがとうございました。僕のカードも混ざってますけど……それはせめてものお礼として受け取ってください」
 そう言って、クロガネは左腕からデュエルディスクを外すと、そのまま多栄に差し出す。
 が、なかなか多栄が受け取ろうとしないので、無理矢理押し付けた。
「それじゃ、お願いします」
「……分かりました」
 有無も言わさず背を向けたクロガネは、守護者に元の世界への送還を頼む。それを承諾した守護者は、二、三言何かを呟いた後、クロガネの肩に手を置いた。
 途端、クロガネの体が淡い光に包まれ、足のほうから徐々に消えていく。
「これは『守護者』ではなく私個人としての言葉ですが……貴方とのデュエル、なかなか楽しかったですよ。これで当分は自我を保てそうです。侵入者を排除するだけの機械には、まだなりたくありませんから」
「……こちらこそ、勉強になりました」
 クロガネにとっては楽しさなど感じている余裕のないデュエルだったが、単なる勝敗以上のものを賭けた守護者との攻防からは、多くのことを学ばせてもらった。それを生かすことで、また強くなれる。

 ――いつか、あの人を殺すために。