にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

デュエルモンスターズ CrossCode ep-8th プロローグ-17

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「おや、クロガネ君」
「真琴さん……」
 多栄の住む高層マンションのエントランス。今まさに多栄の部屋番号をプッシュしようとしていたクロガネを見かけた真琴は、驚かせないように隣に並んでから声をかけた。
「君がここにいるってことは……納得のいくデッキができたということかな」
「……はい。真琴さんは?」
「学校に行く前に、多栄の様子を見ておきたいと思ってね。結局電話は繋がらなかったし、メールの返信もなかった。原因である私が顔を見せれば、また機嫌を損ねてしまうかもしれないが……じっと待っていられる期間はとうに過ぎたからね。当たって砕けろだ」
「当たって砕けろ……僕もそのつもりです。簡単に砕けてやるつもりはありませんけど!」
「はは、その意気だ」
 意気込むクロガネの目の下には、深いクマが刻まれている。きっと寝ずにデッキを組んでいたのだろう。
 ショップ大会後、逃げ出した多栄を見失ったクロガネと真琴は、彼女が家に帰宅しているであろう予想を立てつつも、先回りをしなかった。錯乱状態……とは言いすぎかもしれないが、周りが見えなくなっている多栄を強引に捕まえても、まともに話ができないと思ったからだ。
 そして、クロガネは「多栄さんに僕の力を認めてもらいます!」とショップに戻りデッキの改築を始めた。自分で作り上げたデッキで多栄に勝負を挑み、勝つことで自分の力を認めてもらうと。その考えに賛同した真琴は、店員のアドバイスをもらいつつデッキの改築に協力した。
 日が落ちきる前に真琴は帰宅したのだが、クロガネはその後もデッキ改築とテストプレイを続けていたようだ。
 多栄に嫌われるのはなるべく避けたいところだが、彼女のデュエルに対する視野は狭すぎる。クロガネとのデュエルをきっかけに、過ちに気付いてくれるといいのだが……
 その前に、まずは真琴たちを迎え入れてくれるかが問題だ。多栄とここまでひどい喧嘩をしたのは初めてだし、何しろ昨日の今日だ。まだ考えが整理できておらず、「今は話したくない」と追い返されてしまうかもしれない。
 そんな恐怖を感じながら、真琴は多栄の部屋番号をプッシュする。これでインターフォンが鳴ったはずだが、すぐに反応はない。
「まだお休み中でしょうか?」
「だといいけどね」
 居留守を使われている可能性もある。真琴がもう一度インターフォンを鳴らそうと、指を伸ばした瞬間だった。
「この気配――!」
 呟いたクロガネが、恐るべき速度でエントランスから飛び出していく。
「え? おい、クロガネ君!?」
 突然の行動に面食らった真琴は、多栄の反応がないことを確かめてからクロガネの後を追う。
 が。
「……あれ?」
 先に出て行ったはずのクロガネの姿は、影も形も見当たらなかった。
 いや、正確にはすでに真琴の目が届かない場所に移動していたのだ。
 外に出たクロガネは、とある気配を鋭敏に察知し、最上階付近にある多栄の部屋に向かって「跳躍」していた。


「多栄さんッ!」
 クロガネが部屋に入ったとき、すでに多栄は事切れているように見えた。
「…………ッ!!」
 その光景を目にした瞬間、全身の血が沸騰したかのような怒りが駆け巡る。クロガネはそれに身を任せ、爪が食いこんで血が出るほど握りしめた拳を叩きこむために、白いローブを纏った男に向かって駆ける。
「お前ええええええええええええッ!」
「おや。ここで貴方が出てくるとは……少々想定外ですね」
 放たれた拳は、しかしローブの男が発生させた不可視の障壁によって阻まれてしまう。
「お前ッ! 滅多なことがなきゃ手出ししないって言ったくせにッ!!」
「約束は現在進行形で守られていますよ。貴方に手出しはしていない。私はただ、彼女……生木院多栄を我々の仲間に引き入れているだけです。これはこの世界の問題です。滞在期間はまだ1週間も残っていますから、目的を果たすために他のデュエリストを探すことをオススメしますよ」
「ふざけるなッ!!」
 ミシミシ、と音を立てて障壁に亀裂が走る。そのまま強引に拳を振り抜くと、不可視の障壁はガラスのように砕け散るが――そのときにはすでにローブの男の姿はベランダにあった。意識を失った多栄を、眠り姫のように抱えながら。
「まだ彼女の『書き換え』は終わっていない。貴方を撒いた後、ゆっくり続きをさせてもらいます」
 ローブの男はその言葉を置き土産にするように、ベランダから飛び降りる。
 そして、背中から天使のような白い翼を広げると、曇天の空に向かって羽ばたいて行った。
「待て!」
 クロガネは後を追うために、すぐさまベランダに向かおうとするが――
「ギイッ!」
 その前に、ローブの男の「置き土産」――彼の使い魔というべき異形が、クロガネの進路を阻むように現れた。形や大きさは人間に近いが、その体表は真っ赤な羽毛で覆われており、五指には鋭い爪。ギョロリと蠢く黄色の瞳に、尖ったくちばし。そして背中に生えた赤い羽根……鳥人間と形容するのがしっくりくるであろう異形は、敵意を剥き出しにしてクロガネに襲いかかってくる。
「邪魔……するな!」
 クロガネは疾駆の勢いのまま飛び蹴りを放ち、鳥人間の顔面を蹴飛ばす。
 呻き声を上げながら吹き飛ばされた使い魔を尻目に、空中で体勢を整え着地したクロガネは、再び地を蹴りながら叫ぶ。
「術式解放! <ドラゴニック・レギオン>!」
 刹那、クロガネの右手から黒い光が渦巻き、徐々に得物を形作っていく。
「――コード<ダークフレア>ッ!」
 黒の光が四散する。
 少年の右手に握られていたのは、漆黒の刃を煌めかせる、身の丈ほどの大剣だった。
「ギギィ!」
 両翼を羽ばたかせて何とか壁への激突を回避した使い魔は、クロガネの大剣を見ても恐れず強襲を仕掛けてくる。
 互いの体が交錯する一瞬。
 漆黒の刃が、使い魔の体を腹から両断した。
 真っ二つになった使い魔の体は、瞬く間に炎に包まれ、消える。
「多栄さんは……!?」
 飛びこむような勢いでベランダに躍り出る。見上げた先に、多栄を抱きかかえたまま白い翼で飛翔し、隣のビルの屋上へ消えて行くローブの男の姿があった。
「逃がすものか……!」
 ベランダの手すりに足をかけたクロガネは、そのまま屋上に向かって跳ぼうとするが――