デュエルモンスターズ CrossCode ep-8th プロローグ-18
「ギギギィ!」
「……ッ!?」
間にあったのは奇跡に近い。背後から感じた異形の気配に、クロガネは急速で体を反転させる。直後、間近まで迫っていた鳥人間の爪が振り下ろされた。
ガキィッ! と鈍い音が響く。漆黒の大剣で爪撃を防いだものの、バランスを崩してしまい、背中から落下してしまう。
基礎術式の力によって常人を上回る身体能力を得ているクロガネだが、ローブの男や使い魔のように背中に羽が生えているわけではない。足場から落ちれば、重力に捕まって地面に叩きつけられるのが関の山だ。最初に落ちた場所が微妙に悪いせいで、他の階のベランダには手が届かない。
急速に落下していることにより体全体が暴風に晒される中、見る。多栄の部屋のベランダから2体の使い魔がこちらに向かって降下してくる。
(仕留めそこなったわけじゃなくて、最初から複数いたのか!)
それを見抜けなかった勘の鈍さを悔いながら、クロガネは大剣を逆手に持ちかえると、
「このっ!」
マンションの壁に向かって思いきり突き刺す。
ガガガガガガガッ! とコンクリートを削る振動が柄を握った手の平に伝わるが、それを力で強引に押さえつける。5メートルほどの傷を刻んだところで、落下は止まった。
それを待っていたかのように、滑空してくる使い魔。そのうち1体が、爪を剥き出しにした五指をすぼませ、刺突を放ってくる。
クロガネは、突き刺した剣を支点に、足を振り子のように振って勢いをつけたあと、
「しつ……こいっ!」
足を蹴りあげ、逆上がりの要領で半回転。ついでに使い魔の腹に足先を突き刺す。
くぐもった鳴き声と共に、使い魔の体がふわりと持ち上がる。
つま先が頂点に達したところで、掴んでいた剣の柄を押すようにして手を離したクロガネは、空中で器用に体勢を整え、突き刺した刃の上に着地する。そして、悶絶していた使い魔の腹に、右拳によるアッパーカットで追い打ちをかける。
「ギギ……ィッ!」
だが、それだけでは使い魔は活動を停止しない。開かれたくちばしの奥には、クロガネを火だるまにするための炎がちらついていた。
クロガネは、腕を鞭のようにしならせ、左フックを放つ。
が、その拳はアッパーカットによってさらに浮かび上がった使い魔の体には届かない。
それでいい。狙いは、打撃ではないからだ。
「…………!?」
鳥人間型の使い魔の体が、断末魔を上げる暇もなく両断される。
「――コード<ライトパルサー>」
いつの間にか、クロガネの左手には純白の刃を持つナイフが握られていた。
仲間がやられたことに焦ったもう1体の使い魔が、やや離れた位置から炎を吐き出してくる。
マンションの壁に突き刺さった大剣が、瞬く間に灼熱に包まれた。
しかし、すでに標的の姿はそこにない。
上空に向けて跳躍していたクロガネは、マンションの壁を足底で踏みつける。
瞬間、爆発的な推力が生まれる。
弾丸と化したクロガネは、白いナイフで使い魔の胸を突き刺すと、そのまま隣のビルの壁に叩きつけた。
豪快な破砕音と共に壁にめり込んだ使い魔は、放射状に刻まれたヒビだけを残して消える。
「……ふうっ。この程度の相手に時間をかけてるようじゃ……」
言葉の先を呑みこむ。ビルの壁を軽く蹴ってマンションのベランダに着地したクロガネは、ローブの男が消えた先を目指して跳んだ。
「……ッ!?」
間にあったのは奇跡に近い。背後から感じた異形の気配に、クロガネは急速で体を反転させる。直後、間近まで迫っていた鳥人間の爪が振り下ろされた。
ガキィッ! と鈍い音が響く。漆黒の大剣で爪撃を防いだものの、バランスを崩してしまい、背中から落下してしまう。
基礎術式の力によって常人を上回る身体能力を得ているクロガネだが、ローブの男や使い魔のように背中に羽が生えているわけではない。足場から落ちれば、重力に捕まって地面に叩きつけられるのが関の山だ。最初に落ちた場所が微妙に悪いせいで、他の階のベランダには手が届かない。
急速に落下していることにより体全体が暴風に晒される中、見る。多栄の部屋のベランダから2体の使い魔がこちらに向かって降下してくる。
(仕留めそこなったわけじゃなくて、最初から複数いたのか!)
それを見抜けなかった勘の鈍さを悔いながら、クロガネは大剣を逆手に持ちかえると、
「このっ!」
マンションの壁に向かって思いきり突き刺す。
ガガガガガガガッ! とコンクリートを削る振動が柄を握った手の平に伝わるが、それを力で強引に押さえつける。5メートルほどの傷を刻んだところで、落下は止まった。
それを待っていたかのように、滑空してくる使い魔。そのうち1体が、爪を剥き出しにした五指をすぼませ、刺突を放ってくる。
クロガネは、突き刺した剣を支点に、足を振り子のように振って勢いをつけたあと、
「しつ……こいっ!」
足を蹴りあげ、逆上がりの要領で半回転。ついでに使い魔の腹に足先を突き刺す。
くぐもった鳴き声と共に、使い魔の体がふわりと持ち上がる。
つま先が頂点に達したところで、掴んでいた剣の柄を押すようにして手を離したクロガネは、空中で器用に体勢を整え、突き刺した刃の上に着地する。そして、悶絶していた使い魔の腹に、右拳によるアッパーカットで追い打ちをかける。
「ギギ……ィッ!」
だが、それだけでは使い魔は活動を停止しない。開かれたくちばしの奥には、クロガネを火だるまにするための炎がちらついていた。
クロガネは、腕を鞭のようにしならせ、左フックを放つ。
が、その拳はアッパーカットによってさらに浮かび上がった使い魔の体には届かない。
それでいい。狙いは、打撃ではないからだ。
「…………!?」
鳥人間型の使い魔の体が、断末魔を上げる暇もなく両断される。
「――コード<ライトパルサー>」
いつの間にか、クロガネの左手には純白の刃を持つナイフが握られていた。
仲間がやられたことに焦ったもう1体の使い魔が、やや離れた位置から炎を吐き出してくる。
マンションの壁に突き刺さった大剣が、瞬く間に灼熱に包まれた。
しかし、すでに標的の姿はそこにない。
上空に向けて跳躍していたクロガネは、マンションの壁を足底で踏みつける。
瞬間、爆発的な推力が生まれる。
弾丸と化したクロガネは、白いナイフで使い魔の胸を突き刺すと、そのまま隣のビルの壁に叩きつけた。
豪快な破砕音と共に壁にめり込んだ使い魔は、放射状に刻まれたヒビだけを残して消える。
「……ふうっ。この程度の相手に時間をかけてるようじゃ……」
言葉の先を呑みこむ。ビルの壁を軽く蹴ってマンションのベランダに着地したクロガネは、ローブの男が消えた先を目指して跳んだ。
多栄の住む高層マンションの隣に建つビルは、マンションよりも10ほど階数が多く、中は大小様々な企業の事務所が入っているオフィスビルである。
屋上は関係者が利用できる休憩所として開放されており、備えつけられたベンチの傍には観葉植物が植えられている。喫煙スペースや自動販売機も完備されており、ビルの上階に事務所を構えている会社の社員はよく利用している。
転落防止用に背の高い柵で囲われている屋上に、その柵を飛び越えて長髪の少年が颯爽と降り立った。散歩の途中に邪魔な塀があったから飛び越えました、といったような軽やかさだったが、彼は隣の高層マンション、しかも階下からここまで辿りついている。
「多栄さん!」
クロガネの探し人は、屋上への出入り口にほど近いベンチに横たわっていた。
「安心してください。気を失っているだけですよ。今はまだ、ね」
「……ッ」
その傍らには、白いローブの男――この世界の守護者が、悠然と待ち構えている。
「やはり、あの程度の使い魔では時間稼ぎにもなりませんか」
そう言って、守護者はわざとらしくため息を吐く。
「――嘘を吐かないでください。僕がここに来るまで、あなたなら十分逃げ切れるほどの時間がかかったはずです。どうして逃げなかったんですか?」
間を置いたことで幾分か冷静になり、普段の口調に戻ったクロガネが問う。頭は冷えていたが、決して怒りが収まったわけではなく、隙あれば守護者に一撃をお見舞いして多栄を奪い返そうと機を窺っている。
「……人間が守護者へと生まれ変わった時、元の人間に関する全ての情報は抹消されます。親や兄妹、親友や恋人……その人間に関わったありとあらゆる人々の記憶からも。忘れるのではなく、最初からいなかったことになるのです」
存在の抹消――もしクロガネが間に合わなければ、多栄の親友である真琴は、何の用事でマンションのエントランスにいたのか思い出すことができずに、そのまま登校していただろう。その光景を想像しただけで、寒気がする。
「しかし、貴方は異世界からの来訪者だ。この世界のルールが適応されるのか……貴方の記憶からも生木院多栄に関するものが消えるかどうかは定かではない。もし消えなかった場合、貴方は私を許さないでしょう。この世界の守護者全てから狙われることになっても、私を追い続ける……そんな予感がするのです」
正解だった。クロガネは肯定する代わりに、守護者を睨みつける。
「それに、守護者になりたての彼女を貴方が刺激することで、記憶が蘇るような事態になればたまったものではありません。ですから、後顧の憂いは断っておこうと思いまして」
「逃げるよりも、始末するべきだと……そういうことですか?」
「察しがよくて助かります」
守護者はうれしそうにパチンと指を鳴らして見せる。それを開戦の合図と取ったクロガネは、左手に握ったままの白いナイフを構えた。
「おっと。始末という言い方は語弊がありました。私は、貴方と勝負がしたいのです。野蛮なものではなく、もっとシンプルで美しいやり方でね」
言いながら、守護者はローブの隙間から懐に手に入れる。
口と手が同一とは限らない。クロガネは警戒を強めるが、出てきたのは明らかに懐に収まりきらないであろう物体――円盤に幅広の刃を取り付けたような器具、デュエルディスクだった。
「デュエルで雌雄を決しましょう。貴方は、これで勝てるように師事を仰いだのでしょう?」
「…………」
「なら、師匠に特訓の成果を見せるときではありませんか」
こちらの反応を待たずに、守護者はデュエルディスクを投げてよこす。反射的にキャッチしてしまったクロガネは、
(あいつの言う通りだ。僕は、どんな相手にも勝てるように強くなりたかったんだ。ここであいつに負けるようじゃ、多栄さんに認めてもらうなんて夢のまた夢だ!)
左腕にディスクを装着し、デッキをセットした。
「……結構!」
それを見た守護者は、満足気に手を叩く。そして、自らもまた懐から取り出したデュエルディスクを左腕に装着する。
「これは生木院多栄の存在を賭けたデュエルです。貴方が勝てば、彼女のことは諦めましょう。私が勝てば、貴方は即刻元の世界に帰っていただきます。無論、生木院多栄は守護者として生まれ変わることになります。構いませんね?」
クロガネは無言のまま頷く。仮に負けたとしても命が取られるわけではないが――かといって敗北は絶対に許されない。
(僕はまだ、多栄さんに何も返しちゃいない!)
デュエルディスクが展開する。もう後には引けない。
極限の緊張感の中で行われるデュエルに勝つために、クロガネは多栄に弟子入りしたのだ。それが間違いでなかったことを、ここで証明する。多栄を取り戻してみせる。
(見てもらうんだ。多栄さんに教えてもらったからこそ組むことができた、僕だけのデッキを!)
「――それでは! デュエルを始めるとしましょう!」
屋上は関係者が利用できる休憩所として開放されており、備えつけられたベンチの傍には観葉植物が植えられている。喫煙スペースや自動販売機も完備されており、ビルの上階に事務所を構えている会社の社員はよく利用している。
転落防止用に背の高い柵で囲われている屋上に、その柵を飛び越えて長髪の少年が颯爽と降り立った。散歩の途中に邪魔な塀があったから飛び越えました、といったような軽やかさだったが、彼は隣の高層マンション、しかも階下からここまで辿りついている。
「多栄さん!」
クロガネの探し人は、屋上への出入り口にほど近いベンチに横たわっていた。
「安心してください。気を失っているだけですよ。今はまだ、ね」
「……ッ」
その傍らには、白いローブの男――この世界の守護者が、悠然と待ち構えている。
「やはり、あの程度の使い魔では時間稼ぎにもなりませんか」
そう言って、守護者はわざとらしくため息を吐く。
「――嘘を吐かないでください。僕がここに来るまで、あなたなら十分逃げ切れるほどの時間がかかったはずです。どうして逃げなかったんですか?」
間を置いたことで幾分か冷静になり、普段の口調に戻ったクロガネが問う。頭は冷えていたが、決して怒りが収まったわけではなく、隙あれば守護者に一撃をお見舞いして多栄を奪い返そうと機を窺っている。
「……人間が守護者へと生まれ変わった時、元の人間に関する全ての情報は抹消されます。親や兄妹、親友や恋人……その人間に関わったありとあらゆる人々の記憶からも。忘れるのではなく、最初からいなかったことになるのです」
存在の抹消――もしクロガネが間に合わなければ、多栄の親友である真琴は、何の用事でマンションのエントランスにいたのか思い出すことができずに、そのまま登校していただろう。その光景を想像しただけで、寒気がする。
「しかし、貴方は異世界からの来訪者だ。この世界のルールが適応されるのか……貴方の記憶からも生木院多栄に関するものが消えるかどうかは定かではない。もし消えなかった場合、貴方は私を許さないでしょう。この世界の守護者全てから狙われることになっても、私を追い続ける……そんな予感がするのです」
正解だった。クロガネは肯定する代わりに、守護者を睨みつける。
「それに、守護者になりたての彼女を貴方が刺激することで、記憶が蘇るような事態になればたまったものではありません。ですから、後顧の憂いは断っておこうと思いまして」
「逃げるよりも、始末するべきだと……そういうことですか?」
「察しがよくて助かります」
守護者はうれしそうにパチンと指を鳴らして見せる。それを開戦の合図と取ったクロガネは、左手に握ったままの白いナイフを構えた。
「おっと。始末という言い方は語弊がありました。私は、貴方と勝負がしたいのです。野蛮なものではなく、もっとシンプルで美しいやり方でね」
言いながら、守護者はローブの隙間から懐に手に入れる。
口と手が同一とは限らない。クロガネは警戒を強めるが、出てきたのは明らかに懐に収まりきらないであろう物体――円盤に幅広の刃を取り付けたような器具、デュエルディスクだった。
「デュエルで雌雄を決しましょう。貴方は、これで勝てるように師事を仰いだのでしょう?」
「…………」
「なら、師匠に特訓の成果を見せるときではありませんか」
こちらの反応を待たずに、守護者はデュエルディスクを投げてよこす。反射的にキャッチしてしまったクロガネは、
(あいつの言う通りだ。僕は、どんな相手にも勝てるように強くなりたかったんだ。ここであいつに負けるようじゃ、多栄さんに認めてもらうなんて夢のまた夢だ!)
左腕にディスクを装着し、デッキをセットした。
「……結構!」
それを見た守護者は、満足気に手を叩く。そして、自らもまた懐から取り出したデュエルディスクを左腕に装着する。
「これは生木院多栄の存在を賭けたデュエルです。貴方が勝てば、彼女のことは諦めましょう。私が勝てば、貴方は即刻元の世界に帰っていただきます。無論、生木院多栄は守護者として生まれ変わることになります。構いませんね?」
クロガネは無言のまま頷く。仮に負けたとしても命が取られるわけではないが――かといって敗北は絶対に許されない。
(僕はまだ、多栄さんに何も返しちゃいない!)
デュエルディスクが展開する。もう後には引けない。
極限の緊張感の中で行われるデュエルに勝つために、クロガネは多栄に弟子入りしたのだ。それが間違いでなかったことを、ここで証明する。多栄を取り戻してみせる。
(見てもらうんだ。多栄さんに教えてもらったからこそ組むことができた、僕だけのデッキを!)
「――それでは! デュエルを始めるとしましょう!」