にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

デュエルモンスターズ CrossCode ep-8th プロローグ-6

「実はあたし、家からデュエルを禁止されてるのよ」
「それは……一体どうしてなんです?」
「あたしってデュエルに限らず、勝負事には熱くなり過ぎるところがあって。自覚はしてるんだけど、カードに関してはどうしても治らなくてさ。生木院家の品格が疑われるような行動は慎むようにってデュエルを禁止されちゃった」
「ひんかく……ですか」
「自分で言うのもなんだけど、あたしの家は結構有名なお金持ちなの。あたしも学校を卒業したら家のことを手伝わないといけないし、デュエルをやってる時間なんてたぶんない。だから、デュエルをやるのは学生のあいだだけって決めてたんだ」
「そうなのですか……大変なんですね」
「大変だって思ったことはないけどね。それが当たり前だったから。デュエルは好きだけど、いつかは卒業しなきゃってずっと思ってる」
「何だか勿体ないです……」
「お父さんとお母さんはカードに興味がなかったから、女の子のあたしがデュエルをやってることをあまりよく思ってなくてね。最初はさすがにカードを取り上げたりはしなかったけど、何度も他の趣味を勧められた。家の中じゃ両親の目が気になるし、外でデュエルするときはあたしが生木院家のお嬢様だって分かった途端、みんな態度が余所余所しくなったの。だから、心の底からデュエルを楽しめたことって数えるくらいしかなかったんだ」
「僕は、デュエルをするのにその人の立場は関係ないと思います!」
「そうは言うけど、黒服着た強面のおじさんがショップの外に張り付いてたら誰だってビビるわよ。小学生のころはどこに行くのでも護衛の人が一緒だったの」
 その護衛の人はデュエルにも理解を示してくれる優しいおじさんで、任を離れた今でも交流がある。が、基本は無口で仏頂面なので、何かと誤解されやすかったのだ。
「それでも、あたしの立場を気にせずデュエルをしてくれる友達も何人かいて、暇があるときはいっつもデュエルしてた。けど、夢中になりすぎたせいでデュエルは禁止って言われちゃって……中学になってからはカードに触る機会が極端に減った。デュエル友達とはみんな疎遠になって、中学でできた友達にはデュエルが好きなことは秘密にしてて……そんな時、行きつけだったショップの店長さんから『変装して大会に出てみないか』って誘われてね」
 君の実力は腐らせてしまうには惜しい。もっと大きな舞台で披露するべきだ――そんな感じの口説き文句だったと思う。
「その時は断ったんだけど……生木院多栄じゃなく、別人としてデュエルすることにはすごい興味があった。高校に入学して一人暮らしできるようになってから、店長に連絡したんだ。そこからトントン拍子に話が進んで、あたしは『竜王』になった」
「余計な飾りを取り払い、自分の力だけでデュエルをするために――多栄さんは竜王になったんですね」
「そういうこと」
 かいつまむつもりが余計なことまで話してしまった気がするが、理由はきちんと伝わったらしい。ようは、デュエルを純粋に楽しみたかったのだ。
「あと、衣装は店長が勝手に作ったやつだからね」
「そうなんですか? 完璧に着こなしていたので、多栄さんの趣味なのかと思ってました」
「ち、ちがう!」
 本当は図星だったのだが、語気を強めて否定する。多栄の中で、竜王のことは別人格のような扱いなので、素の状態のときに突っ込まれると恥ずかしくて消えたくなってしまう。正体がばれないという安心感があるからこそ、「あんな演技」ができるわけで。
「じゃ、じゃあ今度はこっちから質問!」
 もう一度大袈裟に咳払いをして、クロガネの反応を待たずに話題を切りかえる。
 年齢のことも気になるが、それよりも先に確認しておきたいことがあった。
「クロガネ君はさ――」
「呼び捨てで結構です」
「……クロガネはさ。どうしてあたしに――竜王に弟子入りしようと思ったの?」
 今までのクロガネの調子ならすぐにはっきりとした答えが返ってきそうなものだったが、予想に反して少年はうつむき、大きく息を吐いた。長い髪が前に流れ、表情を隠す。
「……強く、なりたいからです」
 静かな声だったが、簡単に流すことはできないほどの真剣さがこもっていた。
「デュエルが、ってこと?」
「それはもちろんですが……それ以外のこともです。僕には、倒さなくてはならない敵がいますから」
 その言葉を口にしたときのクロガネは、ひどく冷たい目をしていた。多栄は実際に見たことはないが、人殺しの目という表現がしっくりくるような――今までの純朴な少年とは打って変わった別人になったようだった。そんなクロガネに気圧されてしまい、多栄は続く問いを呑みこんでしまう。
 少しの沈黙の後、いきなりクロガネが椅子から立ち上がる。多栄が驚く間もなくクロガネは勢いよく頭を下げた。
「だから、お願いです! 生木院多栄さん。僕を弟子にしてください!」
 クロガネが語った強くなりたい理由は簡潔なものだったが、下げた頭には言葉以上の思いが込められている気がした。それに、先程見せた冷たい目が脳裏に焼き付いてしまい、怖さは残るが、それと同じくらい詳しい事情を訊きたい衝動にかられる。
 何より、年下の男の子(?)が、ここまで必死に頼みこんでいるのだ。年上のお姉さんとしては――