にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

デュエルモンスターズ CrossCode ep-8th プロローグ-7

「ごめん。無理」
「ええっ!?」
「協力してあげたいのはやまやまだけど、あたし人に教えるのって苦手なのよ。デュエルは特に」
「そ、そんなぁ……」
 多栄の無慈悲な返答に、クロガネは明らかにしょんぼりする。
 別にクロガネを信用していないわけではない。未だ素性すら明かそうとしない謎の多い子供だが、少なくとも悪い人間には見えないし、万が一のときの「セーフティ」は用意してある。弟子入りを断った理由は、言った通り自信がないからだ。
(今は特に……ね)
 真琴の寂しそうな表情がちらつき、多栄は無意識のうちに拳をギュッと握る。あんな思いはもうしたくない。だからクロガネには悪いが弟子入りを受けることはできない。
 しばらくうなだれていたクロガネは、やがて水を払う犬のように首を振ると、
「いえ、この程度では諦めません! 僕は、竜王さんのデュエルに憧れたんです! あの人みたいに強くなりたいって思いました! あの人みたいにカッコよくドラゴンを従えてみたいって思いました! だから、デュエルを教えてくれると約束するまではここを動きません!」
 背筋を伸ばして、大声で宣言した。
「ちょ、ちょっと! 声が大きい!」
 隣の部屋まで聞こえるほどのボリュームに、多栄は慌てて注意する。この時間なら隣人は学校か会社に行っているだろうが、誰かに聞かれていたらたまったものではない。
「お願いします! 僕は、あなたに教えてもらいたいんです! あなたの下で強くなりたいんです!」
「って言ってもなぁ……」
「ダメ、ですか?」
 顔を少しだけ上げ、瞳を潤ませながら上目遣いで訊いてくるクロガネ。その表情は、多栄の母性と庇護欲とお姉さん属性を最大限に刺激してくる。これは、男でもやられてしまうような卑怯な表情だ。
「……いや! やっぱダメ! いくら頼んでもダメなものはダメ! あたしは一応デュエルを禁止されてる身なんだから!」
 それでも、過去のトラウマが最後の壁となり、多栄は拒否の姿勢を貫くことができた。
「大体、デュエルが強い人なら他にもいっぱいいるでしょ? あたしより教えるのが上手な人だって、探せばたくさんいるはずだよ」
「でも、僕は――」
「<聖刻>だってあたしだけが使っているわけじゃない。悪いけど、他を当たってもらえる?」
 これ以上食い下がってくるようなら、妥協案として「竜王」を生み出したといっても過言ではない、ショップの店長を紹介しようと思っていた矢先だった。
「……例えわがままと言われようと、僕はここで引き下がるわけにはいきません。だって、僕には時間が――」
 そこまで言いかけたクロガネの視線が、とある一点で止まる。
 一瞬、自分の顔をジッと見られていると思い心拍数が跳ねあがる。が、よく見るとクロガネの視線は、自分の背後にあるコルクボードに注がれていた。学校の予定が一覧で書かれたプリントや、ゴミ出しのスケジュール表などが画鋲で留められている。
 クロガネはふらふらとした足取りでそのボードに近づくと、小さな額に収めて飾られていた1枚のカードに顔を近づける。
「<ラビードラゴン>……初めて見るカードです」
「そうなの? 特別珍しいカードじゃないと思うけど」
 <ラビードラゴン>。レベル8光属性のドラゴン族モンスターだ。何の効果も持たない代わりに攻撃力守備力の値が高いが、同じようなステータスを持ちサポートカードが豊富な<青眼の白龍>と比べると優先度合いは下がってしまう。多栄の<聖刻>デッキでもサポートカードが共有できる<神龍の聖刻印>が優先され、<ラビードラゴン>がデッキに入ることはまずない。
 だが、多栄はこのカードが好きだった。「寂しいと死んでしまう」なんて迷信が広く浸透するほどの弱さの象徴であるウサギが、自分の力だけで雄々しく羽ばたくその姿に、不思議と憧れを抱いたのだ。いつでも家の力に守られている自分も、いつかは<ラビードラゴン>のように羽ばたきたいと、多栄の中ではいつの間にかお守りのような存在になっていた。ちなみに、後になって「ウサギが進化したわけではなく、ドラゴンの突然変異種」という設定を知り、ちょっとがっかりしたものだが。

<ラビードラゴン>
通常モンスター
星8/光属性/ドラゴン族/攻2950/守2900
雪原に生息するドラゴンの突然変異種。
巨大な耳は数キロ離れた物音を聴き分け、
驚異的な跳躍力と相俟って狙った獲物は逃さない。

 クロガネは<ラビードラゴン>のイラスト部分を穴が開くほど見つめたあと、
「……かわいいのにカッコいい。不思議なモンスターですね。うまく言葉にできないですけど……なんていうか、心惹かれる感じがします」
「そ、そう。そうなんだ」
 まるで自分のことを褒められたようにうれしくなり、自然と頬が緩む。初見で<ラビードラゴン>のことを気に入ってくれた人は、クロガネが初めてだった。
「……そのモンスターの良さが分かるなら、素質はあるのかもね」
 我ながら現金だと思うが、大事なカードを褒めてもらえたことで気分がよくなり、クロガネの頼みをつっぱねていた最後の壁が崩れる。
 だって、<ラビードラゴン>が好きな人間に、悪い人はいない。
「しょうがない。あたしにどこまでできるか分からないけど――君の師匠になってあげる」
「ほ、本当ですか!?」
「半端なことはしない。あたしはあたしなりのやり方で、全力で君を強くする。ついてこれる?」
「もちろんです! どんなことでもします!」
「……分かった。これからよろしくね。クロガネ」
「はい! よろしくお願いします! お師匠様!」
「恥ずかしいからその呼び方はやめて……」
 こうして、生粋のお嬢様であり、仮面のデュエリスト竜王でもある生木院多栄に、奇妙だがやる気満点の弟子ができたのだった。