にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

デュエルモンスターズ CrossCode ep-8th プロローグ-8

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「ふは~……こんなにおいしいハンバーグを食べたのは久しぶりです。ごちそうさまでした」
「まだ付け合わせのサラダが残ってるでしょ。ちゃんと食べなさい」
「……野菜、苦手なのです。特にニンジン」
「どんなことでもするって言ったよね? サラダ食べなきゃ、デュエル教えてあげない」
「た、食べます! 食べますとも!」
 多栄が意地の悪い笑みを向けると、焦ったクロガネは皿に残っていたサラダを一気にかきこんだ。咀嚼は最低限に、コップの水をがぶ飲みして流し込んでしまう。
「うー……今度こそごちそうさまでした」
「はい。お粗末さまでした」
 先に食べ終えていた多栄は、クロガネの皿を下げると、そのまま洗い物を始める。
 時刻はようやく正午を回ったところ。昼食にはやや早い時間だったが、クロガネが腹を空かせていたこともあり――本人は遠慮したのだが――先に食べてしまうことにした。今日の夕食用に買っておいた豚のひき肉を使ってハンバーグを作ったのだが、クロガネには好評だったようだ。付け合わせのサラダ以外は。
「では、お腹もいっぱいになったことですし、早速――」
「はい。デザートのプリン」
「うわー! すごいおいしそう! いただきます!!」
 皿に盛られたプリンに目の色を変えてがっつくクロガネを見ていると、弟ができたみたいで微笑ましさを感じる。多栄には妹がいるが、家の教育のおかげか聞き分けのよい子で、あまり手を焼かせなかったせいか、お姉さんらしいことをしてあげられた記憶が薄い。自分はそれを欲求不満だと感じていたようで、自分を慕ってくれる子にはついつい世話を焼きたくなってしまうのだ。真琴のお弁当を作ってあげようと思ったのも、この辺の理由から来ているのかもしれない。
 そんなことを考えているうちに、クロガネはプリンを食べ終えてしまう。スーパーで安売りしていたものだが、満足気な笑顔を見るにお気に召したらしい。そして、クロガネの視線は自然と多栄の前に置かれたプリンに注がれる。
「……あたしのも食べる?」
 手つかずだった自分の分のプリンを差し出すと、クロガネは瞬時に目を輝かせるが、
「い、いえ! 結構です! これ以上施しを受けるのはさすがに悪いです!」
「遠慮しなくていいのに」
「遠慮はしていません! 僕はもうお腹いっぱいですから!」
「そっか。あたしも満腹だし、勿体ないけど捨てちゃうしかないかなぁ……」
「えっ……」
 途端に悲しそうな顔を見せるクロガネ。もし犬のように頭に耳が付いていたら、しょぼんと垂れ下がっているだろう。
「なーんてね。冗談よ。冷蔵庫にしまっておくから、また後で食べましょ」
「は、はい! そうですね!」
 餌付けしてるみたいだなぁ……と思いつつ、多栄はラップをかけてからプリンを冷蔵庫にしまう。代わりに野菜ジュースを取り出しコップに注ぎながら、
「で、デュエルを教えてほしいってことだけど、具体的にどの辺の知識が欲しいの? デッキの構築? それともプレイングのこと?」
 冷蔵庫を熱心に見つめている弟子に問いかけてみた。
 クロガネはハッと背筋を伸ばしてから、表情を引き締める。
「……今の僕には、新しい力が必要だと思うんです」
「新しい力?」
「お師匠さ……多栄さんがやってた、えくしーず……でしたっけ? あれが使えるようになれば、僕はもっと強くなれるはずなんです」
「使えるようにって……そんなに難しいものじゃないと思うけど」
「そうなんですか?」
 エクシーズ召喚とは、同じレベルの表側表示のモンスターを素材として複数用意し、エクストラデッキから条件に合致したエクシーズモンスターを特殊召喚することである。素材となったモンスターはエクシーズモンスターの下に重ねて置かれ、効果を発動する際にコストとして使用される場合が多い。中にはエクシーズモンスターの上に重ねてエクシーズ召喚を行う方法や、特殊な魔法カードを使用する場合もあるが、基本的なエクシーズ召喚は同じレベルのモンスターを表側表示で並べれば行うことができる。選ばれし者しか扱えないといった大仰な方法ではない。
「ちょっとデッキ見せて」
 もしや、エクシーズモンスターを1枚も持っていないのでは……そう考えた多栄は、「どうぞ」と差し出されたクロガネのデッキを流し見する。ちなみに、エクシーズモンスターは市販されているパックに普通に封入されているので、レアリティの低いものならば簡単に手に入る。
「何これ……」
 エクシーズモンスターの有無を確認する以前に、あまりにもひどいデッキの構成に絶句する。言いたくはないがこれではただの「紙束」だ。
 ドラゴン族を中心としたデッキなのは分かるが、上級モンスターが多過ぎる上に特殊召喚や妥協召喚ができるカードは少ない。下級モンスターもステータスの高さだけを見て選んだだろう通常モンスターが溢れており、中にはドラゴン族とシナジーが皆無な機械族や戦士族のモンスターまで入っている。魔法・罠カードはモンスターを強化するものばかりで、相手の行動に干渉できるカードは1枚も入っていなかった。
「これでよく『新しい力が必要』だなんて言えたものね……」
「?」
 クロガネは何が悪いのか分からないといった調子で首をかしげる。これは基礎から叩き直す必要がありそうだ。
「色々言いたいことはあるけど……とりあえず、カッコいいからって自分で作ったカードをデッキに入れるのはやめなさい」
「自分で作ったカード? そんなものはありませんが……」
「じゃ、お店が冗談で作ったのを使えるって勘違いしちゃったのかな」
 言いながら、多栄はデッキの一番上に置かれていた「白い枠」のカードを手に取る。
「これは実際のデュエルじゃ使えないわ。あくまで観賞用として作られた、非公式のオリジナルカードだと思う」
 そのカードには、イラストこそ見たこともない白いドラゴンが描かれているが、名前や効果を記したテキストは文字がかすれてしまっているせいで、読み取ることができない。きっと作られてから大分時間が経ったものなのだろう。
「え? でも、このモンスターは、僕の切り札なんですけど……」
 クロガネは戸惑いを顕わにする。この分だと、デュエルのルールを正確に理解しているかも怪しい。
 何故なら、この世界のデュエルモンスターズに、白い枠で区分されたカードなど存在しないからだ。