にわかオタクの雑記帳

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デュエルモンスターズ CrossCode ep-8th プロローグ-1

 記憶の中の彼は、血の海の中心で微笑んでいた。

 ――その光景が脳裏に浮かんだ途端、一気に意識が覚醒する。
 四肢に力を込め、地に伏した体を無理矢理持ち上げる。体のあちこちが悲鳴を上げるが、悠長に構えていられる状況ではない。
「これ以上手荒な真似はしたくない。大人しく君が元いた場所に帰りなさい」
 目の前に立つのは、金の刺繍があしらわれた純白のローブを纏った男。相手の警戒心を解きほぐし、諭すような落ち着いた声色だったが、それに従う気などさらさらなかった。
 近くに転がっていた自分の武器――大剣の柄を握りしめる。
 周囲をビルに囲まれた一角。夜空に浮かぶ月明かりを受けて鈍く煌めくのは、漆黒の刃だ。斬ることよりも叩き潰すことを目的とした大剣は、常人ではピクリとも動かせないほどの重量を持つ。
 それを軽々と持ち上げ、肩に担ぎ直す。たったそれだけの動作で風がかき乱され、男のローブがはためく。そして、相手の警戒心が増した。
「……まだ、帰れません。僕にはここでやるべきことがありますから」
「――それは、この世界の理を犯し、無用な混乱を生んでまですべきことなのですか?」
「はい」
 間を置かずに、はっきりと告げる。譲る気持ちは一切なかった。
 目的を果たすまでは、死んでも帰るつもりはない。もちろん死ぬつもりもない。
 つまり――
「……実力行使を続けるしかないというわけですか」
 声色に失意の感情を乗せたローブの男は、懐から1枚のカードを取り出す。
「<ガルドニクス>。彼の戦意を根こそぎ焼き尽くしなさい」
 カードから生まれた炎の渦は、周囲の温度を上昇させ、コンクリートの壁を焦がす。炎の渦はやがて形を為し、赤を基調とした鮮やかな色合いの巨鳥が現れる。
 炎の巨鳥は窮屈そうに翼を広げる。本来の大きさはこの一角に収まりきらないほどなのだろう。目立つことを嫌ったローブの男が、サイズを縮小した状態で「実体化」させたのだ。
 <炎王神獣 ガルドニクス>。そう呼ばれているモンスターを前にして、相手に聞こえないよう注意を払いながら小声で詠唱を行う。
 「クアアアアアアッ!」という巨鳥の鳴き声を合図に、駆けた。
 宙に浮かぶ標的を屠る為、巨鳥の遥か手前で跳躍。途端に翼の周囲に漂っていた炎が弾丸となって襲いかかってくる。
「でえいッ!」
 片手一本で力任せに大剣を振るう。轟風が巻き起こり、炎の弾丸をかき消した。
 が、同時に跳躍の勢いを殺してしまう。このままでは、<炎王神獣 ガルドニクス>に一太刀を浴びせることはできない。ローブの男もそれが分かったようで、フードの隙間からわずかに見える口元が緩んだ。
 だから、炎の巨鳥は次の一手に対応できなかったのだろう。
「――これでッ!」
 左手に握った純白の刃のナイフを突き出す。当然ながら、ナイフの切っ先が巨鳥を捉えることはない。第三者が見れば、苦し紛れにもがいたようにしか思えなかったはずだ。
 ナイフの切っ先から、刃の色と同じ純白の閃光が迸る。
 矢のように細く、鋭く尖った閃光は、一直線に巨鳥へと向かい――
 易々とその胸を貫いた。
 「ギエエエエエッ!?」と悲鳴を上げる<炎王神獣 ガルドニクス>。その手前に着地し、黒の大剣を下段に構え直したあと、再度跳躍する。
 一閃。
 真下から真上にかけての斬り上げ。咄嗟に両翼を畳んで身を守った巨鳥に、縦一文字の刀傷が刻まれる。
「本気を出していなかったのはお互いさまということですか――<ガルドニクス>!」
 大きな傷を受けつつも、翼を羽ばたかせて体勢を整え直した<炎王神獣 ガルドニクス>は、嘴から炎を吐き出す。
 空中にいる状態では、回避は不可能。そう判断し、白のナイフから閃光を撃ちだす。
 炎と光。
 2つの力がぶつかり合い、爆発的な衝撃波が生まれる。
 そして――