にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

DM CrossCode ep-2nd プロローグ-13

(治安維持局の捜査官……!? なんでそんなやつがここで出てくるんですか!?)
 城蘭金融の社員や、雇われたガードマンならまだ話は分かる。だが、現れた術式使いの男――輝王正義は、治安維持局の人間であることを明かした。嘘をついているのでは、という考えが頭をよぎるが、輝王がコートの胸ポケットから取り出した電子手帳には、治安維持局の紋章がしっかりと刻印されていた。あれを偽造するには相当な手間とコストがかかる上に、発覚した場合は殺人と同程度の重犯罪として扱われるため、リスクとリターンが釣り合わない。よって、輝王が持つ手帳は本物と見て間違いないだろう。
(治安維持局も城蘭金融のことを探っていた、と考えれば辻褄は合いますけど――)
 例え目的が同じだったとしても、事情を話して協力を仰ぐのは不可能だろう。何しろ、犬子の務める人材派遣会社レイジ・フェロウ・ヒビキは、治安維持局の査察を受ければ一発で廃業に追い込まれてしまうほど違法な事案がごろごろ転がっているのだ。城蘭金融の悪行だけ暴き、自分たちの秘密は守り通すなんて都合のいい話は通らない。犬子個人としても明るみになっていないだけで前科は山ほどあるし、何より治安維持局の捜査官を簡単に信用する気にはなれない。
 だとすると、雇われメイドの設定を生かし、迷った末にここに辿りついてしまった、といった言い訳をするのが妥当だが、焦って先制攻撃を加えてしまった以上その言い訳は使えない。
 残された手段はひとつ。
(実力行使を続け、相手の意識を奪う……それしかないですね!)
 犬子が覚悟を決めると、それを感じ取ったのか、相対する長髪の男が手にしていた長刀を構え直す。
「……どうやら、会話をする気はなさそうだな」
 やや湾曲した刃を持つ片手剣は、犬子が持つ緑の球体と同じく術式によって作り出されたものだ。何らかの特殊効果が付与されていると見るべきだろう。
「――コード<パワーストーン>」
 犬子の左手の周囲に、緑の球体が3つ出現する。それぞれ親指、人差し指、中指から伸びた糸に繋がった魔力カウンターは、まだ使用用途を決められていない純粋な力の塊だ。これにコードを書きこむことにより、力は指向性を持つ。
(さすがに術式使いと戦うのは初めての経験です。まずは、もう一発<ストーン>を投げて牽制を――)
 犬子がそう考えた瞬間。
「――なら、こちらも相応の対応をさせてもらう」
 すでに相手は動き始めていた。
 輝王の姿が、一瞬で視界から消える。
「なっ――」
 瞬時に視線を切り替える。
 切っ先を前に向けて長刀を構えた輝王は、恐るべき加速力と静けさで、犬子に向けて真っ直ぐ駆けてきていた。相手の能力も判別しないうちに真正面から突っ込むのは愚策と言いたいところだが、これほどの速さなら反撃の隙を与えず倒すことができるだろう。奇襲にはうってつけだ。
(まったく! こっちの能力が中距離戦用って分かった途端、馬鹿みたいに距離を詰めてくるんですから!)
 心中で毒づきつつ、犬子は周囲の機材にぶつからないよう注意しながら後方へ跳ぶ。
「コード<SC・ストーン>!」
 そして、コードを刻まれた3つの魔力カウンターを、接近する輝王に向けて一斉に投擲する。犬子の命力を魔力へと変換し、それをシールドのように硬質化させ、球体を覆うように纏わせたのがコード<SC・ストーン>だ。球体の強度が増すことによって打撃力、破砕力が向上しており、単純に投げつけるだけでも人間の骨を砕くくらいの威力がある。基礎術式であるシールド・コードだけでは防げないはずだ。
 輝王の加速力を考慮したうえで、着弾点はかなり手前に設定。楕円を描く軌道で飛んだ魔力カウンターが、輝王の右側面を狙う。
 手にした長刀だけでは捌ききれないと判断したのだろう。防御よりも回避を優先し、一度地に足をつけた輝王はさらなる加速のために前傾姿勢になり――
「…………ッ」
 そのまま足を止めた。彼の視線の先には、犬子の左手に握られたもうひとつの魔力カウンターがあった。
(相手の能力が判別できない今だからこそできる牽制ですかね。おそらく、次は通用しないでしょう)
 左手にある魔力カウンターにはまだ何のコードも刻まれておらず、仮に輝王がそのまま接近してきたとしたら役割を与える間もなく破壊されてしまっただろう。輝王が犬子の術式<ロード・オブ・マジシャン>の能力を完全に把握していないことで、「何かあるかもしれない」と慎重になってくれることを期待しての行動だった。
 それが見事に的中し、輝王の前進は止まった。
(ドンピシャです!)
 そのタイミングで、放たれた3つの魔力カウンターが輝王に着弾する。
「くっ……!」
 輝王は長刀を逆手に持ちかえ、盾のように構える。
 ガキィッ! と火花を散らせながら、球体が激突。
 刃で受け止めつつも、輝王は刀を滑らせることによって力を受け流し、球体の軌道を逸らす。
 結果、3つの魔力カウンターは輝王の脇腹を掠めただけで、そのまま地面にめり込んだ。
 <SC・ストーン>による攻撃は防がれた。
 が。
(狙い通り、ですね!)
 輝王の体はややふらついており、即座の加速はできないだろう。
 完全に足が止まった今なら、犬子が仕掛ける奇襲は成功するはずだ。
 長刀に防がれた時点で、<SC・ストーン>を繋いでいた糸は切ってある。代わりに、右手から伸びた糸が、壁にめり込んだ魔力カウンターへと繋がっていた。最初の攻撃で防がれたものだ。
 犬子は右手を思いきり引く。勢いよく壁から引き抜かれた魔力カウンターが、輝王の背後から襲いかかる。
「――ッ!?」
 完全に注意の外からの攻撃だったにも関わらず、恐るべき嗅覚で背後からの攻撃を察知した輝王は、わざと体を倒して魔力カウンターを避ける。
 獲物を捉えることができなかった球体が、輝王の脇を通過する――
 瞬間。
「――すでにコード<SC・ストーン>から<SC・ボム>への書き換えは完了してます」
 内封された魔力が暴走し、球体が爆発した。
 コード<パワーストーン>によって生み出された球体に込められた魔力は、通常だと無属性であり、純粋な力の塊だ。<SC・ストーン>は属性を変化させないまま硬質化させ、単純な打撃を目的としたコードだが、<SC・ボム>は内封された魔力の一部を火属性に変換し、火薬と同等の役割を与えている。火属性の魔力が着火剤となり、暴走させた魔力が炸裂し、衝撃波を撒き散らす。途端、爆煙が辺り一面に広がり、視界が灰色に染まる。
 爆発の寸前、犬子はさらに後方、壁の間際まで跳んでいるので、爆風が髪を揺らす程度でさしたるダメージはない。
 対し、至近距離での爆発を受けた輝王は相当なダメージだろう。<SC・ストーン>の攻撃を防御系のコードで防がなかったということは、彼の術式は攻撃系の能力しか持ち合わせていないのかもしれない。だとすれば、基礎術式の保護があったとしても、まともに動けるような状態ではない……と思いたい。