にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

DM CrossCode ep-2nd プロローグ-21

「さーて! 若様からエネルギーも補充してもらったことだし! バリバリ暴れるとしますか!」
 肩の感触を確かめるようにぐるぐると回しながら前へと進み出た犬子は、両手を腰に当てて、薄い胸を逸らす。
 彼女の前には、信じられないものを見たように立ち尽くす、長附幸子がいた。
「……バカな。あんたは、ウチの精鋭部隊が処理したはず――」
「あの程度の連中が精鋭部隊? だとしたら、フェイク・ラヴァーズの力もたかが知れてますね。せめて研里吾郎クラスのサイコデュエリストを揃えてもらわなきゃ、お話にならないですよ」
 ハン、と嘲るように鼻を鳴らした犬子は、右手に握っていた無線機を放り投げる。それは、犬子を処理するために送りこまれた精鋭部隊のリーダーが持っていたものだった。
「……あいつらを殺したの?」
「それはですね――」
「全員意識を奪った状態で寝かせてある。怪我を負った者もいるが、命に別条はないだろう」
 幸子の問いに答えたのは、犬子ではなく別の人物だった。
「あんたは確か……イルミナ・ライラックの付き人……」
 いつの間にそこに立っていたのか。黒のコートを纏った長身の男は、混乱の坩堝にある人ごみを抜けてきたとは思えないほど平然としていた。近くで見ると、一郎が言っていた「裏側に足を踏み入れた者の空気」を感じる。
「……そうだな。この場はそれで通したほうがよさそうだ。フェイク・ラヴァーズは、大原竜美が躍起になって追いかけていた組織だしな」
「大原竜美、ですって? あの女の知り合いってことは、あんたも――」
「――付き人としては、主人が危険な目にあわされたというのに、黙っているわけにはいかない。先に手を出してきたのはそちらのようだからな。そこのメイドに倣って、俺も暴れさせてもらうとしよう」
 男の声は落ち着いていたが、視線は鋭かった。思わず怯んでしまった幸子が、悔しげに顔を歪める。
 自分のことで精いっぱいだったが、どうやら盲目のピアニスト、イルミナ・ライラックは単純に巻き込まれただけのようだ。控室かどこかで、響矢たちと同じように銃で脅されて監禁されていたのかもしれない。
「なによ、たった2人のくせに粋がって……!」
 怒りで体を震わせた幸子は、天井に向かって引き金を引く。
 パァン! と渇いた音が連続して響き渡り、会場に静寂が訪れる。
「――こいつらを殺しなさい。首を持ってきたら報償金を出してあげるわ」
 幸子が告げた次の瞬間、方向性を取り戻した暴力の塊が一斉に襲いかかってくる。
 まずは、待っていましたと言わんばかりに降り注ぐ銃弾の雨――
「銃で撃たれたらさすがに痛いですから! させませんよ!」
 その前に、ロープ投げの要領で横回転を加えられた緑色の球体、<SC・ストーン>が、人の壁を薙ぐように放たれる。脇腹や腕に痛烈な一撃を受けた人々は、苦悶の表情を浮かべながら手にしていた銃を取り落とす。
「続いて、爆発!」
 <SC・ストーン>を引き戻すと同時に、左手からふわりと放り投げられた3つの魔力カウンターが、微妙に間隔をずらしながら起爆する。頭上で巻き起こった衝撃波で人は倒れテーブルは吹き飛び、上に載っていた食器や料理が散らばる。
 そして、<SC・ボム>を使った本命である、白煙が辺り一面を包んだ。視界不良になれば、敵側は同士討ちを恐れて迂闊に銃を使えない。
「何よこれ!? ちょっと誰か! わたしを守りなさい!」
 運良く爆発の衝撃から逃れた幸子が金切り声を上げる。再びパニックが起こった今なら、彼女を人質にすることができるかもしれないが、リスクが大きいし自分にはその度胸もないので、無視して犬子の傍を離れないことに専念する。……一抹の情けなさは感じるが。
「爆発が共同戦線開始の合図、だったな。こちらも動かせてもらう」
 呟きを残し、混乱する敵陣に向かって颯爽と駆けて行く長身の男。
「――ナイトコード<バルーチャ>!」
 男が叫ぶと、周囲に5本の槍が現れる。その内の2本をそれぞれの手で掴み取った男は、矛ではなく柄の部分を使って人々をなぎ倒していく。こんな状況に置いても倒す相手に手心を加えられる技量の高さは、相当な錬度を感じさせた。
「ひゃっはー! さっきの戦いは色々考えまくって疲れました! 鬱憤晴らしです!」
 対し、両手で計6つの魔力カウンターを操っている犬子は、言葉通り何も考えずに闇雲に球体を振り回している……ように見える。それだけでも十分な凶器となりえるので、バッタバッタと人が倒れて行くわけだが、顔面に食らって鼻血を吹き出しながら倒れていく男などを見ていると、多少の同情心が沸き上がってくる。
(煙のせいでよく見えないけど、女性への攻撃は気を使ってるみたいだな。貧乳同士、感じるものがあったんだろうか)
「若様、今何か失礼なこと考えてませんでした?」
「うえ!? そ、そんなわけないだろ!?」
「あ~や~し~い~!」
 疑惑の眼差しを向けてきた犬子が、突然魔力カウンターをこちらに向かって投げつけてくる。
「うわっ!?」
 そこまで怒るほどのことか!? と動揺したのも束の間。
「ぐへっ!」
 球体は響矢の背後に迫っていた男の顔面を捉えていた。呻き声を上げた男が、ゆっくりと仰向けに倒れる。
「あ……ワリィ」
「いえいえ。若様を守るのが、アタシの仕事ですから」
 戦闘中とは思えないほど満面の笑みを浮かべた犬子は、手近な男の顔面に肘打ちを叩きこんで気絶させると、その男の頭を踏み台にして跳躍。
「スカイハーイ!」
 振り回していた6つの魔力カウンターを両手に戻し、大きく振りかぶってから投げつける。
 放たれた球体は瞬く間に地面に激突し、バガン! と床を砕いた。丁寧に磨きあげられていた石材が見るも無残にめくり上がり、大粒の破片を食らった人々が次々に倒れていく。
 敵の視線が跳躍した犬子に釘付けになると、
「――シッ!」
 その隙をついて、槍を手にした長髪の男が動く。長柄の理を生かし、多数に足払いをかけていく。足元をすくわれ、悲鳴を上げながら転んでいくメイドたちは、たまらず銃を落とした。
 派手に暴れまわる犬子と、堅実な立ち回りを見せる男。即席ながら、息のあったコンビネーションを見せる2人――いや、どちらかというと、犬子の戦い方に長髪の男が合わせている感じか。ともかく2人の猛進を止められる者はおらず、ようやく爆煙が晴れた広場の中には、無傷で立っている人間のほうが少なくなっていた。
「もう! 役に立たないグズ共ね! 外の連中も呼びなさいよ!」
 劣勢に追い込まれても威勢を失っていない幸子が怒号を上げる。
 それを合図に、広間に通じるいくつかの扉が開き、黒服の男たちが現れる。広間にいた連中と比べると数は少なく、20~30人ほどといったところだが、漂う風格は明らかに別格だった。広場の惨状を見ても、慌てる素振りすら見せない。
「……ってあれ?」
 響矢は目を凝らして黒服の集団を確認する。見れば、犬子も同じようなことをやっていた。
「いいタイミングじゃない! さあ、早いとこやっておしまい!」
 バシッ! と腕を振るい、まるで悪の組織の首領のような……まあその通りなのだが、幸子はポーズを決めながら指示を下す。