にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

DM CrossCode ep-2nd プロローグ-19

 ――それが、命を奪うために放たれたものなら、だが。
「このタイミングなら!」
 ナイトコード<ゲイボルグ>の発動によって放たれる高速の突進は、普通に考えれば標的とのあいだを真っ直ぐに進んでいるはずだ。しかし、その軌道を目で追えない以上、確実にそうだとは言い切れない。突進の最中に攻撃を潰されないよう複雑な軌道を辿っているのかもしれないし、瞬間移動のようなもので移動中は姿を消しているのかもしれない。
(けど、アタシの正面から突きを放つという攻撃の終着点は変わらないはずです)
 それが分かっていたとしても、たった一度見たくらいでは回避するタイミングを見極めるのは不可能に近い。先程の攻撃は、たまたま偶然避けられただけだ。狙ったわけではない。
 だが、輝王がナイトコード<ゲイボルグ>の速度を落とす、今よりもさらに力をセーブする外的要因があれば、話は違ってくる。
(元々、あいつはアタシを殺す気も致命傷を負わせる気もありません。手加減をしてます。そして、アタシの後ろにこの一件に関する重要な資料が入っているであろうアタッシュケースがあれば、それを破壊してしまうことを躊躇うはず!)
 つまり、輝王の突きはアタッシュケースが積まれた棚を破壊することはない。となれば、棚に衝撃が達する直前で槍を止めなければならないということだ。発生した運動エネルギーを強引に止めることは、肉体に相当な負荷がかかる。彼が化け物でもなければ、負荷を減らすために加減をするはずなのだ。
 ここまでの前提条件が揃っていれば、例え動きが見えなくても、予測だけで回避は可能。
 犬子は思いきり地面を蹴り、上へと跳ぶ。輝王を飛び越し、背後へ回るために。
 ヒュゴッ! と空気を切り裂く音が響く。
 ナイトコード<ゲイボルグ>が生み出す高速の一撃。その速度は、始動と比べると目に見えて遅くなっていた。
 槍の矛先が、標的を抉ることはない――
「――っ!」
 直後に、左の足先に鋭い痛みを感じた。跳ぶタイミングは完璧だったはずなのに、想定を上回る速度で放たれた刃が掠めたのだ。
(傷はそれほど深くないですけど……着地硬直が長引く可能性があります)
 瞬時に状況判断をした犬子は、空中で体を一回転させて両足で着地してから攻撃を仕掛けるプランを変更。
 水泳選手の飛びこみのような軌道を描き、輝王の後ろへ回った犬子は、頭を下にしたまま落下しつつ、両手にコード<SC・ストーン>を刻んだ魔力カウンターを握りしめる。
 イメージするのは、<ギガンテック・ファイター>が繰り出した拳のラッシュ。
 あれを<SC・ストーン>で再現し、輝王の背中に叩きこむ。
 拳を内側に抉りこむように、手首のスナップを利かせて魔力カウンターを前方に放つ。
 最初は右。球体が輝王の背中にぶつかる直前に、左手を動かしもうひとつの球体を投擲する。
 <SC・ストーン>が、がら空きの背中を捉えた。
「ぐっ……!」
 ガツッ! という衝撃音が響き、輝王が呻き声を上げるが、大したダメージはあるまい。シールド・コードはアクティブ・コードと同じく全身を覆うように展開することが可能であり、<SC・ボム>の爆発を防ぎきった障壁なら<SC・ストーン>の一撃を防ぐことは容易い。
 犬子は即座に右手を返し、当たった球体を引き戻す。同時に、左手から放たれた球体が同じように輝王の背中に激突した。
 ヨーヨーのトリックでいうところの、インサイド・ループ。腕を前に振りながら球体を投げ、戻ってきた――魔力の糸によって引き戻した球体を、手首を返してもう一度前に押し出す。これを繰り返すことによって、球体は高速で動く観覧車のような円軌道を描き続ける。
 一撃、二撃では足りない。なら、シールド・コードが壊れるまで何度でも打ち込むまでだ。

「名付けて『SC・インフィニット・ループ』――これでく・た・ば・れええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッ!」

 ドガガガガガガガガガガガガガガガガガッ! と。
 今まで抑えてきた激情を叫び声に乗せ、犬子は高速で魔力カウンターを撃ちこむ。
「…………!」
 息を吐く間もないほど連続で球体を当てられ、輝王の体が小刻みに震える。そのまま前のめりに倒れてしまってもおかしくないほどの衝撃なのだが、地面を踏みしめた彼の両足だけは微動だにしない。
 限界まで引き延ばされた――いや、引き延ばした時間が、ゆっくりと流れていく。
 手首が捩じり切れてしまいそうなほど熱い。それを無視して、犬子は手を動かし続ける。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
 直接殴打しているわけではないので、犬子の手に感触が伝わることはない。だから、シールド・コードを突破できているのかどうかは分からない。
 それでも、ここで勝負を決めるという覚悟を乗せ、<SC・ストーン>を放つ。放ち続ける。
 やがて、彼女の頭が地面に接地し――
 その直前で魔力の糸を切り、魔力カウンターを投げ放って空になった両手で着地。手本のような綺麗なフォームで前転をして勢いを殺すと、滑るようにして反転し、輝王に向き直る。
「…………っ」
 数え切れないほど無数の打撃を受けてもなお、輝王正義は直立したままだった。
 沈黙。
 犬子は、瞬きをする間に輝王が崩れ落ちてくれることを期待する。
 が、先に口を開いたのは、攻撃を受けた輝王だった。
「ナイトコード<ゲイボルグ>を使い始めた頃はあまり意識していなかったことだが……彼我との距離を一瞬でゼロにしてしまうほどの爆発的な推進力はどこから生まれてくるのだろうと、考えたことがある」
「……?」
 唐突な語り口調に、犬子は面食らいつつも警戒を強める。相手に、まだ喋れるだけの余裕があるのだ。
「そういう能力だから、で片付けても問題ないとは言われたんだがな。だが、意識することで、見えたものがある」
 輝王の言葉が終わるよりも先に、犬子は彼の背中が微弱に光る何かに覆われていることに気付く。
 それは、翼。
 光の粒で形作られた翼は、天使のような柔らかなものではなく、鋭角的なフォルムをしている。
 まるで、竜を天空へと飛翔させるもののように。
「<ドラグニティナイト-ゲイボルグ>の武器は槍だけではない。つまりはそういうことだ」
 振り返った輝王から感じる気迫は、ほとんど衰えていない。シールド・コードとナイトコード<ゲイボルグ>が生み出した翼。この2つにより、犬子の攻撃は防がれてしまったらしい。
(あの翼はあくまで加速のためのものであって、防御を目的としたものじゃない。だから<ブレイカー>が作動しなかったわけですか……「インフィニット・ループ」まで防がれたとなると、もう――)
 「殺すことを目的としたコード」を解放しなければならない。
 犬子がそう考えたときだった。

「――そこまでだ」

 偽造カードを作るための機器が並んだ空間に、第三者の声が響いた。