にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

DM CrossCode ep-2nd プロローグ-14

(……とはいえ、周りの機械を壊さないように<SC・ボム>の威力を抑え目にしちゃいましたから、期待したほどのダメージは見込めないかもしれません。こないだも威力最大の<ボム>を二発食らわせたのに仕留められなかった<ギガンテック・ファイター>がいたことですし、警戒は怠らないようにしないと――)
 犬子は、油断なく煙の向こうを凝視する。
 そのおかげだろう。
「――まずっ! コード<SC・ディフェンダー>!」
 左手に握ったままだった球体が、円形の障壁を作り出す。
 即席の盾を眼前に構えたと同時、煙の中から高速で飛びだした何かが、一瞬で障壁を砕いて犬子の頬を掠めた。
 浅く裂かれた頬から、鮮血が流れる。ごくりと喉を鳴らした犬子は、自分の頬を傷つけたものの正体を確かめるために、後ろにある壁へと視線を向ける。
 そこに突き刺さっていたのは、細長い穂先を持つ小さな槍。見ようによってはダーツの矢にも見える。
「……<ミスティル>が破壊されたことによって、コード<アキュリス>が自動的に発動した。意趣返しをさせてもらったぞ」
 未だ立ちこめる煙の中から、長身の男――輝王正義が姿を現す。
 その姿を見て、犬子は絶句することをこらえられなかった。
(無傷……ですって……!?)
 服に付着した魔力カウンターの欠片を悠長に払う輝王には、傷らしい傷がひとつも見当たらない。手にした長刀は刃が折れ、使い物にならなくなっているようだが、肝心の術者自体には、有効なダメージどころかかすり傷すら与えることができていない。しかも、輝王の言葉が真実なら、長刀が破壊されたことがトリガーとなり、壁に突き刺さっている小さな投げ槍が発射されたのだ。犬子の攻撃は、相手の反撃まで引き出してしまったことになる。
「……自動的に発動するコードは確かに便利だが、考え物だな。威力を犠牲にしたにも関わらず標的への追尾が甘い。壁ではなく周辺の機材に突き刺さっていたら、重要な証拠を失うところだった」
 輝王が折れた長刀を手放すと、コードが解除され光の屑となって消える。
「……できれば、刃を収め、冷静に話をしたいんだがな。まだ続けるか?」
「…………」
「わずかでも情報を与えないために無言を貫く、か。その徹底ぶりから察するに、対話は望めそうにないな」
 だんまりの理由を察した輝王は、表情に少しだけ苦渋の色を滲ませてから、姿勢を正す。
「――アームズコード<レヴァテイン>」
 続けて紡がれた言葉によって、新たな剣が輝王の手の内に収まる。次の剣は、鋭利な切っ先を向ける、幅広で片刃の大剣だった。
(随分余裕たっぷりですけど……こちらを侮っているわけじゃなさそうですね)
 一度の攻防で相手の力量を見切った気になり、「この程度か」と勝手に決め付けて慢心してくれれば、こちらとしても動きやすかったのだが。生憎、治安維持局という立場と自尊心にこだわる人間ばかりが集う組織の人間にしては、目の前の男は慎重にこちらの出方を窺っている。
「……コード<パワーストーン>」
 輝王が微かに聞き取れるくらいのボリュームで呟き、犬子は失った魔力カウンターを補充する。右手の周囲に4つ、左手の周囲に3つ。一度に操れる最大数である7つの魔力カウンターが、それぞれの指先から伸びた魔力の糸によって繋がれる。
(いくら威力を抑えたからといって、<SC・ボム>の爆発を受けて無傷なんてことはありえません。現に、剣は破壊出来ているんですから。シールド・コードだけで防いだとは思えないし……やはり、防御系のコードを発動したと考えるのが妥当ですか)
 それならば、やりようはある。
「コード<SC・ストーン>」
 犬子は、作り出した魔力カウンターに、純粋に硬度を上げるコードを刻み込む。
 ただし、その数は6つだ。
 犬子が臨戦態勢に入ったことで、輝王もまた大剣を隙なく構える。
 刹那の空白。
 互いの視線が交錯した瞬間、犬子は輝王に向かって真っ直ぐに駆けた。
「な……!?」
 それは、先程の攻防の再現。ただし、愚直に突っ込む側が逆転しているが。
 ここまで距離を空けようとしていた相手が、正反対の行動を取る。輝王は意表を突かれ一瞬だけ体を硬直させる。
「―――ッ!!」
 声なき気迫と共に、犬子は緑の球体、魔力カウンターを投擲した。
 まずは右手の3つ。
 続けて左手の3つ。
 上段から振りかぶって放たれた球体は、やや上向きに飛んだ後、下方に向けて緩やかなカーブを描きながら標的に迫る。
 狙いは輝王の足を潰すこと。
 しかし、それは足を直接殴打することが目的ではない。
 向かってくる6つの球体の軌道を見極め、分かったのだろう。輝王はその場から動かずに、直進してくる犬子を迎撃する構えに入る。
 まるで輝王を檻に閉じ込めるように、彼の周囲にドドドドドッ! と球体が連続して着弾する。
 <SC・ストーン>の投擲により回避コースを潰され、その上相手が馬鹿正直に突っ込んでくるとなれば、近接戦を得意とするであろう術式の使い手なら、無理な回避よりも迎撃を選択するだろう。
 残された魔力カウンターは1つ。犬子は、残ったそれに新たなコードを刻み込み、
「――このぉっ!」
 渾身の力で投げる。速球が売りのプロ野球選手が投げるストレートを上回る速さで飛んだ緑の球体は、瞬く間に輝王の顔面へと接近する。
(<SC・ボム>の印象が目に焼き付いている今なら、頭を振って避けるんじゃなくて、剣を使って弾くはずです)
 犬子の狙い通り、輝王は手にした大剣の刃で魔力カウンターを受け止めると、その衝撃が伝わるよりも先に剣を振って球体を弾き飛ばそうとする。
(――けど! 当たった時点で、アタシの目的は達成しています!)
 幅広の刃にぶつかった魔力カウンターが、ひときわ強い輝きを放つ。輝きの元は、刻まれた紋章――ではなく、球体そのものだ。