にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

DM CrossCode ep-2nd プロローグ-3

 ゴバッ! とコンクリートがめくれ上がるほど強く地面を蹴った<ギガンテック・ファイター>は、犬子に再接近。
「はやっ――」
 <魔力カウンター>を投擲する隙を与えず、一気に攻勢に出る。
 再び後方に飛び退こうとする犬子だったが、その背後には空き家がある。
「追い込んだぞ……やれッ! <ギガンテック・ファイター>!」
 犬子が脇へ逃れる間もなく、戦士の剛腕が唸りを上げる。爆発が犬子自身まで及ぶこの位置まで接近すればコード<SC・ボム>は使えないはずだ。
「うっ……コード<SC・ディフェンダー>!」
 背中を空き家の壁に預けた犬子は、放つタイミングを逃していた2つの<魔力カウンター>を、自分と<ギガンテック・ファイター>の間に放り投げる。
 空中で静止する緑の球体。それを中心にして、直径40cmほどの円形の障壁が展開する。コード<SC・ディフェンダー>――その名の通り、自らを守る「盾」を生み出す術式だった。
「苦し紛れだな! 貧相な盾ごとぶち抜いてやれ!」
 標的の動きを封じるように、絶え間なく注がれる拳のラッシュ。
 その場に縫いとめられた犬子は防ぐのがやっとらしく、右手を突き出したまま動かない。これは研里の推測だが一度に扱える<魔力カウンター>の数には限界があるのだろう。少なくとも、コード<SC・ディフェンダー>を起動させている現状では、他のコードを発動させることはできない。その証拠に、空いている左手の指先からは、<魔力カウンター>を操るための糸が伸びていない。
 そして、その推測は当たっていた。犬子が一度に操れる<魔力カウンター>の数は、7つが限界だ。最初の<SC・ストーン>で3つ、<SC・ボム>で2つ、そして、現在犬子の身を守っている<SC・ディフェンダー>の2つで打ち止めだ。それ以上のコードを起動するなら、コード<パワーストーン>で<魔力カウンター>を補充しなければならない。コード<パワーストーン>の発動には多大な命力を必要とし、なおかつ他のコードとの併用はできない。つまり、<魔力カウンター>を補充するためには一旦コード<SC・ディフェンダー>を解除しなければならないのだ。
 ドガガガガガッ! と激しい雹のように降り注ぐ拳が、瞬く間に<魔力カウンター>が生み出した障壁にヒビを入れる。割れるのは時間の問題――
 そんな絶体絶命の状況にもかかわらず、犬子は楽しそうに笑っていた。
「いいですね、それ。相手に反撃する隙を与えないほどのラッシュ……気に入りました。今度パクらせてもらいます」
「……お前に今度はねえ。ここで死ぬからな」
「いいえ、あります。アタシはこんなところで死ぬような女じゃないですから」
 犬子がはっきりと宣言したと同時、研里は気付く。
 割れて砕けないのが不思議なほどボロボロになった円形の障壁、その中心にある<魔力カウンター>の紋章が、光り輝いていることに。
「しまった――離れろ<ギガンテック・ファイター>!」
「コード<SC・ディフェンダー>から<SC・ボム>に書き換え完了……遅いですよ。犠牲を厭わず前に進む覚悟なら、アタシにもありますから!」
 <ギガンテック・ファイター>の拳が球体を捉え、障壁が砕け散る。
 瞬間、2つの<魔力カウンター>が爆発を引き起こした。
 白煙が両者を包みこみ、戦士の巨体が跳ねあがる。そして、その脇を縫うようにしてメイドが飛び出した。両腕を交差させて顔を守っており、それ以外の部分はストッキングがビリビリに破れているくらいで、至近距離で爆発を受けたにしては信じられないほど軽傷だ。
「伊達や酔狂でメイド服を着ているわけじゃありません! これはアタシの戦闘服です!」
「くそっ……自爆覚悟の特攻じゃないってことかよ!」
「イエスですね!」
 犬子の言う通り、彼女の着ているメイド服は通常の素材で作られたものではないのだろう。メイド服である必然性はともかく、術式の能力ばかりに気を取られていた研里にとっては大きな誤算だった。
 サイコデュエリスト本人を潰すべく、犬子が恐るべき速度で研里に迫る。最初に男を追おうとしていたときとは比べ物にならないほどの速度だ。<ギガンテック・ファイター>は破壊こそ免れたものの、両拳が爆発のダメージにより砕け散り、戦闘を継続できるような状態ではない。
「コード<パワーストーン>――<魔力カウンター>の補充は完了」
 呟いた犬子の右手の周囲を回転するように、新たな球体が3つ出現する。
 研里と犬子のあいだを阻むものはない。別のモンスターを具現化しようとも、<SC・ボム>で簡単に破壊されてしまうビジョンが浮かぶ。
「これで、チェックメイトです!」
 不自由な左足を抱えたままでは、満足に攻撃を避けることもできない。
 かくなる上は――

「戻れ、<ギガンテック・ファイター>。そして再び現れろ」

 研里が告げると、一瞬にして無傷の<ギガンテック・ファイター>が彼の傍らに具現化する。
「――っ!?」
 即座に足を止める犬子。ほんのわずかだが、動揺が顔に現れた。
 <ギガンテック・ファイター>の瞬間移動――理屈としては単純だ。置き去りにされた<ギガンテック・ファイター>の具現化を解除し、カードへと戻す。そして、再度サイコパワーを用いて具現化したのだ。
 単純だが、言うほど簡単なことではない。「チューナーモンスターによるチューニング」という正規の手段を用いずに直接シンクロモンスターを具現化し、なおかつ戦闘力や効果を最大限発揮させるには、大量のサイコパワーを必要とする。並のサイコデュエリストなら、正規の手段を用いたとしても<ギガンテック・ファイター>を一度具現化し、それを保つのがやっとだろう。
 そのため、研里の体には多大な負荷がかかっているが、手段を選んでいられる場面ではない。
「仕切り直しだ。第2ラウンドといこうか」