にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

DM CrossCode ep-2nd プロローグ-2

「お前はとっとと行け。この先に仲間が待ってるはずだ。ここにいると邪魔だからな」
「わ、分かった」
 男は研里に気の効いた言葉をかけようとしていたようだが、結局何も思い付かなかったらしく、そのまま駆け出す。
「逃がさないですよ!」
 敵であるメイド――犬子が当然それを黙って見過ごすはずはない。
「術式――はすでに解放済みっと! コード<SC・ストーン>!」
 アンダースローの要領で右腕を振るうと、何も握られていなかったはずの右手から緑色の球体――<魔力カウンター>が放たれる。数は3つ。緩やかに曲線を描きながら、男の背中に迫る。
「行かせると思うか?」
 球体が辿るライン上に、<ギガンテック・ファイター>が立ちふさがる。研里は足を引きずりながら後退し、犬子との距離を空ける。具現化した<ギガンテック・ファイター>は目視できる範囲内なら遠隔操作が可能であり、わざわざ傍で指示を出す必要はない。<ギガンテック・ファイター>を壁として割り込ませることができ、なおかつ敵の全体像が見える位置が望ましい。
(こんな体じゃなきゃ、そこまで慎重になることもないんだがな……)
 <スクラップ>モンスターを操るサイコデュエリスト、朱野天羽との戦闘で重傷を負った研里は、一命を取り留めたものの、左足に繋がる神経に深刻なダメージを受け、まともに動かすことができなくなってしまった。長い入院生活のせいで筋肉もやせ細り、もはや以前のように暴力だけで他人を支配することはできなくなってしまった。
 だが、失った筋肉の代わりに、研里のサイコパワーは朱野天羽と戦った頃とは比べ物にならないほど強くなっていた。そして、敗北により己の無知を激しく後悔し、様々な能力や力についての研鑚を積んだ――その過程で術式のことも知った――研里は、裏社会で用心棒を引き受けるようになった。いつの日か、朱野天羽の全てを調べ上げ、徹底的に屈服させることができるよう、戦闘経験を積んで強くなるために。
「脆いんだよ!」
 気迫のこもった研里の叫び声と共に、<ギガンテック・ファイター>の剛腕が放たれた緑の球体を弾き飛ばす。1つはコンクリートの地面に、1つはビルの壁に、1つは研里の傍にあった街灯へとめり込んだ。
 <魔力カウンター>が弾き飛ばされた瞬間、犬子は軽く右手を振っていた。それを注意深く観察していた研里は指先から伸びた糸のようなものが断ち切られていたのを目撃する。
(なるほどな。あの糸でヨーヨーみたいに<魔力カウンター>を操ってんのか)
 糸がどこまで伸ばせるかは分からないが、犬子がこうして姿を見せた以上、相手に気取られないほど遠距離からの攻撃は不可能なのだろう。おそらくは、近距離~中距離用の能力だと判断する。
「接近戦ならこっちの十八番だ――<ギガンテック・ファイター>!」
 主人の命を受け、大地を蹴った戦士がメイドとの距離を詰めにかかる。
 逃げた男を追うために前進していた犬子が足を止める。迫る<ギガンテック・ファイター>の撃退を優先したのだろう。
「これ以上寄られるのは勘弁願いたいですね!」
 言いながら、犬子は左腕を振るい緑の球体を投擲する。数は先程よりもひとつ少ない、2。
「種を見破られた途端、バカのひとつ覚えだな! 効かねえっつってんだろ!」
 <ギガンテック・ファイター>が、球体を弾き飛ばすために腕を外側に向けて振るう。
 刹那、球体に刻まれた正三角形の紋章が黄金色の光を放った。
「バカのひとつ覚え? そんな言葉を使うのは――まだ早すぎでしょう?」
 ズガン! という破砕音と共に、球体が爆発する。中に詰められた魔力が膨張し、破裂したかのようだった。
「コード<SC・ボム>。身も蓋もない言い方をすれば、魔力をわざと暴走させて爆発させる、小型爆弾ですね。殴打を目的としたコード<SC・ストーン>と見た目はほとんど変わりませんから、識別は困難かと」
「……さっきの攻撃は、弾くのは容易と思わせるための布石ってことかよ」
「あれで倒せれば苦労はなかったんですけどね。<ギガンテック・ファイター>に戦闘破壊は通用しない――倒すなら、蘇生効果を発動させない効果破壊が適切だと考えました。正解ですかね?」
 爆発が生み出した白煙が辺りに立ちこめる中、犬子は余裕を含んだ声で告げる。
 対し、研里は眉根を寄せて渋面を作る。
「ああ、正解だ」
 路地に風が流れ、煙が流されていく。
「ただし、それは実際のデュエルに限った話だがな」
 完全に煙が晴れる前に、それを突き破るようにパワードスーツを纏った巨体が勢いよく飛び出す。
「なっ――!?」
「その程度の攻撃で俺の<ギガンテック・ファイター>が倒せると思ってんのか? だとしたら、術式使いってやつは随分と傲慢なんだな」
 昔の俺のように――続く言葉を呑みこみ、研里は<ギガンテック・ファイター>を前進させる。
 無傷ではない。球体の爆発を至近距離で受けた右腕のパワードスーツはボロボロに破け、中身にまでダメージを与えている。だが、腕が動かなくなるほどではない。
 コード<SC・ボム>は、並大抵のサイコデュエリストが具現化したモンスターなら、一撃で吹き飛ばすほどの威力を秘めている。それを2発も食らったにも関わらず深刻なダメージを受けていないのは、それだけ研里のサイコパワーが強まっていることと、爆発の瞬間まで動きを止めなかったのが要因だ。下手に動きを止めて防御に回るのではなく、腕を振り抜いて球体を弾いたことで爆発が逸れ、ダメージを最小限に止めた。
「くっ、ならもう一発――」
「遅えよ!」
 犬子の右手に2つの<魔力カウンター>が出現するが、それが放たれるよりも早く<ギガンテック・ファイター>が懐に潜り込む。
 たまらず犬子が大きく後方へ飛び退こうとするが、戦士が振るった拳がその体を捉える。
「――――っ!」
 両腕を交差させて、<ギガンテック・ファイター>の一撃を防御する犬子。
 普通の人間なら両腕の肉が裂け、骨が砕けているところだが、術式使いは<アクティブ・コード>と呼ばれる基礎術式によって肉体を保護しており、また、防御の瞬間に<シールド・コード>を発動。不可視の障壁を作り出すことにより、攻撃が肉体まで到達するのを防いでいる。加えて、後方に跳ぶことによって衝撃を殺しているのだ。実質的なダメージは皆無と言っていいだろう。
 研里の見立て通り、吹き飛ばされた――ように見える犬子は、空中で体をひねって体勢を整えると、バレリーナのように優雅に着地する。
(だが、ここを逃すわけにはいかねえッ!)