リミット・シェル・ブレイク-10【ヴァンガードオリジナル小説】
「――<サイレント・パニッシャー>。クリティカルトリガーだ! 効果は<ガルモール>に!」
【<大いなる銀狼 ガルモール>パワー31000→36000 クリティカル2→3】
銀狼の牙が、火竜を貫く。
幾重にも重ねられた盾を破り、竜の命を狩り取る。
「……さすがね。けれど、あたしもまだ負けたわけじゃないわ。最後まで諦めない。ダメージチェック!」
瞳から光が消えるどころか、むしろ輝きが増したホムラが、ダメージゾーンにカードを送る。
1枚目。
2枚目。
3枚目――
「……トリガーは無し、か。そうそう上手くはいかないわね」
「アンタが言う台詞かよ。それ」
「そうかしら」
くすくすと笑うホムラ。つられて、俺も笑ってしまった。
俺は、彼女の『かげろう』に勝った。
他のファイターから見れば、プレイングもへったくれもない、ただの運ゲーだと言うだろう。昨日の俺が見ても、同じことを言っていたと思う。
確かに、俺は運がよかったから勝てた。
しかし、その幸運は、俺自身が手繰り寄せたものだ。
諦めず、逃げ出さず、勝利を信じ続けたからこそ――デッキが応えてくれたと信じたい。
「可能性としては考えてたけど、まさか本当に<ガルモール>に全てを託すなんてね。他の人が見たら博打にしか思えないだろうけど……こっちのほうがリュウらしいわ」
「失敗してたら笑いものだっただろうけどな」
「あたしは笑わないわよ。人の挑戦を笑うなんて、失礼な真似はしない」
「そりゃありがたい……って、ん?」
そこで、俺はホムラの言葉に違和感を覚える。
「あれ? 俺、アンタに名前教えてたっけ――」
幾重にも重ねられた盾を破り、竜の命を狩り取る。
「……さすがね。けれど、あたしもまだ負けたわけじゃないわ。最後まで諦めない。ダメージチェック!」
瞳から光が消えるどころか、むしろ輝きが増したホムラが、ダメージゾーンにカードを送る。
1枚目。
2枚目。
3枚目――
「……トリガーは無し、か。そうそう上手くはいかないわね」
「アンタが言う台詞かよ。それ」
「そうかしら」
くすくすと笑うホムラ。つられて、俺も笑ってしまった。
俺は、彼女の『かげろう』に勝った。
他のファイターから見れば、プレイングもへったくれもない、ただの運ゲーだと言うだろう。昨日の俺が見ても、同じことを言っていたと思う。
確かに、俺は運がよかったから勝てた。
しかし、その幸運は、俺自身が手繰り寄せたものだ。
諦めず、逃げ出さず、勝利を信じ続けたからこそ――デッキが応えてくれたと信じたい。
「可能性としては考えてたけど、まさか本当に<ガルモール>に全てを託すなんてね。他の人が見たら博打にしか思えないだろうけど……こっちのほうがリュウらしいわ」
「失敗してたら笑いものだっただろうけどな」
「あたしは笑わないわよ。人の挑戦を笑うなんて、失礼な真似はしない」
「そりゃありがたい……って、ん?」
そこで、俺はホムラの言葉に違和感を覚える。
「あれ? 俺、アンタに名前教えてたっけ――」
「やーごめんごめん! また店を空けてしまった! 店長が戻ってきましたよ~」
俺が言いかけたところで、店の自動ドアが開いて、ボサボサ頭のオッサンが入ってくる。安っぽい花柄のエプロンを掛けたオッサンは、頭を掻きながらへこへことこちらに近づいてくる。俺の記憶にあるサウザンド・ハンド店長の姿と、ほとんど変わっていなかった。強いて言えば、ちょっと太ったような気がするが。
「店番御苦労さま! いつもありがとね~、『アキラ』くん」
「て、店長!」
ホムラが慌てふためく。が、店長は大して悪びれもせず、「アハハ」と笑った。
「ああ、ごめん。女の子の恰好してるときは、ホムラちゃんだったね。いつも忘れちゃうんだよなぁ」
「まったくもう……けど、まあいいか。どうせバラすつもりだったし。それより、娘さんは大丈夫なの?」
「ああ。今は熱も下がって、ベッドで寝ているよ。妻が見てくれているから問題ないはずだ」
……全然理解が追いつかない。
オッサンは、ホムラのことを「アキラ君」と呼んだ。
「アキラ君」が女の子の恰好をしているときは、「ホムラちゃん」になるらしい。
俺の知り合いに、アキラという名前の人物は1人しかいない。
「お、おま、おまおまおま……」
「落ち着いて……って言うのも無理な話か。僕が崎元暁っていう男だってことは内緒にしておいてよ、リュウ。ホムラのファンは意外と多いんだからさ」
言葉が出てこない。空いた口が塞がらないとはこのことだ。
久しぶりに再会した親友が、女装してファイトする変態になってやがった! しかもかなり可愛いからタチが悪い!
「ちなみに、この髪はカツラだよ。あとで外したところ見せてあげる」
「全力で遠慮する!」
これ以上俺のイメージをひっかきまわす真似は勘弁してほしい。頭がどうにかなりそうだ。
「け、けど、お前ヴァンガードやめたって……」
「『アキラ』はやめたよ。その代わり、『ホムラ』として続けてるのさ」
「何だよその屁理屈……」
うなだれる俺を見て、ホムラ――女装したアキラは、笑いをこらえきれないといった感じで肩を震わせる。
「それで? リュウはヴァンガード続けるのかい?」
ひとしきり笑ったあと、アキラは俺に問いを投げてくる。
答えは、すでに決まっていた。
「ああ。続けるよ。引退は撤回だ」
正直なところ、俺がどこまでやれるかは分からない。
けれど、自分で勝手に限界を決め付けて、無理だと諦めることはもうしない。
例え越えられない壁にぶつかろうと、最後の最後まで足掻いてやる。そう決めた。
「店番御苦労さま! いつもありがとね~、『アキラ』くん」
「て、店長!」
ホムラが慌てふためく。が、店長は大して悪びれもせず、「アハハ」と笑った。
「ああ、ごめん。女の子の恰好してるときは、ホムラちゃんだったね。いつも忘れちゃうんだよなぁ」
「まったくもう……けど、まあいいか。どうせバラすつもりだったし。それより、娘さんは大丈夫なの?」
「ああ。今は熱も下がって、ベッドで寝ているよ。妻が見てくれているから問題ないはずだ」
……全然理解が追いつかない。
オッサンは、ホムラのことを「アキラ君」と呼んだ。
「アキラ君」が女の子の恰好をしているときは、「ホムラちゃん」になるらしい。
俺の知り合いに、アキラという名前の人物は1人しかいない。
「お、おま、おまおまおま……」
「落ち着いて……って言うのも無理な話か。僕が崎元暁っていう男だってことは内緒にしておいてよ、リュウ。ホムラのファンは意外と多いんだからさ」
言葉が出てこない。空いた口が塞がらないとはこのことだ。
久しぶりに再会した親友が、女装してファイトする変態になってやがった! しかもかなり可愛いからタチが悪い!
「ちなみに、この髪はカツラだよ。あとで外したところ見せてあげる」
「全力で遠慮する!」
これ以上俺のイメージをひっかきまわす真似は勘弁してほしい。頭がどうにかなりそうだ。
「け、けど、お前ヴァンガードやめたって……」
「『アキラ』はやめたよ。その代わり、『ホムラ』として続けてるのさ」
「何だよその屁理屈……」
うなだれる俺を見て、ホムラ――女装したアキラは、笑いをこらえきれないといった感じで肩を震わせる。
「それで? リュウはヴァンガード続けるのかい?」
ひとしきり笑ったあと、アキラは俺に問いを投げてくる。
答えは、すでに決まっていた。
「ああ。続けるよ。引退は撤回だ」
正直なところ、俺がどこまでやれるかは分からない。
けれど、自分で勝手に限界を決め付けて、無理だと諦めることはもうしない。
例え越えられない壁にぶつかろうと、最後の最後まで足掻いてやる。そう決めた。
「なら――これからよろしくね。親友」
ホムラの言葉と共に、俺は新たな道を歩き始める。