にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

リミット・シェル・ブレイク-6【ヴァンガードオリジナル小説】

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 ――俺は最後の最後まで、絶対に勝負を諦めたりしない!
 ふと、そんな台詞が頭に思い浮かんだ。アニメや漫画の台詞かと思ったが、違う。
 まだ子供だった俺が、よく口にしてた言葉だ。
 ファイトで相手に追いつめられると、毎回のように言っていた。けれど、シックスヒールが成功したことなんて数えるくらいしかなかったはずだ。
 だから、友達には「また言ってるよ」なんて馬鹿にされたり呆れられたりしていた。
 親友だったアイツを除いては。

◆◆◆

「新谷流馬です。これからよろしくお願いします」
 カードショップでの惨敗の翌日。新しい高校への転校初日は、何事もなく終わろうとしている。
 転校生が来た時の恒例行事とも言える、クラスメイトからの質問攻め。小学生時代の同級生で、俺のことを覚えていたやつも何人かいたので、安名市の地元トークなどで盛り上がった。
 時刻はすでに放課後。俺は学校の案内をしてもらっていた。本来ならクラス委員長がその役目を勤めるのだが、今日は都合が悪いらしく、別の人物が俺を先導している。
「ここが部活棟に通じる渡り廊下。美術室や視聴覚室はあっちにあるから」
「…………なあ」
「なんだい? 何か分からないことでも?」
「俺のこと、覚えてないのか?」
「…………」
 その人物の名前は、崎元暁(さきもとあきら)。
 かつて、夕日に照らされる土手で再会を誓いあった、俺の親友だった。
 元々背の高い方ではなかったが、周りの連中が伸びたせいで、昔よりもさらに小さく見える。髪は短く小ざっぱりとしていて、フレームが大きく分厚いレンズの嵌められた眼鏡をかけていることもあり、本来のクラス委員長よりもずっとクラス委員長っぽい。
 顔立ちは幼く、整っているので、おしゃれをすれば普通にカッコいいと思う。
「……覚えていない、って言ったらどうする?」
「…………」
「冗談だよ。そんなに落ち込まないで。あれだけ印象的な別れ方をしたんだ。忘れろっていうほうが無理な話さ、リュウ
 そう言って悪戯っぽく笑う暁――アキラの横顔は、昔の面影を残していた。
 斜に構えた態度がキザっぽくて、けれど根は友達思いのいいヤツで……俺の知るアキラはそんな少年だった。そして、俺はそれが変わっていないことを祈っている。
「けど、印象的な別れ方をしたからこそ……まさかこんな形で再会するとは思ってなかった」
「……はは。ヴァンガードの全国大会の決勝で会おう、だっけか」
 過去の俺はどれだけ世間知らずで自信過剰だったんだろうと苦笑いしつつ、アキラの反応を窺う。
 アキラは、昔はかけていなかった眼鏡のレンズ越しに窓の外を眺める。その表情は、喜びと悲しみが入り混じり、どんな顔をしていいか迷っているように見えた。
リュウは、今もヴァンガード続けてるのかい?」
「……一応な。アキラは?」
「僕はもうやめちゃったよ。中学までは続けてたんだけど、周りの熱も冷め気味だったし。正直、惰性でやってる感じがしててさ。この高校はヴァンガード部が無かったから、引退するいいきっかけになったよ」
「……そっか」
「軽蔑したかい? リュウとの約束を簡単に放りだした僕のこと」
 アキラは自嘲気味に笑う。以前までの俺なら、軽蔑まではしないものの、「何でやめたんだよ!」と怒鳴りつけるくらいのことはしたかもしれない。
 だが、今の俺にはそこまでの気力がなかった。白神高校で自信を喪失して逃げ出し、初めて会った女性に無様に負けた、今の俺には。
「悪い。お前がやめたって聞いて、ちょっと安心しちまった。……カードゲームは対戦相手がいてナンボだからな。一人でやる気出しても、空回りするだけだ」
「……リュウ?」
 俺の返答に違和感を覚えたのか、アキラが怪訝そうな顔つきで覗きこんでくる。
 その視線を真正面から受け止めることに何故か恐怖を感じた俺は、目を逸らしつつ言葉を続ける。
「実は、俺もそろそろやめようかなって思ってたんだ。限界感じたっていうか……俺の実力じゃ、いくらがんばっても上には行けねえんじゃないかって思った。前の高校――白神のヴァンガード部に入って痛感したよ。俺より強いやつなんて、本当にいくらでもいるんだな」
 唐突な告白だったかもしれないが、口に出すといくらか気分が晴れた。心に溜め込んでいたモヤモヤを吐き出したくて、我慢できなかったのだ。
 アキラは複雑な表情なまま、少し考えたあと、口を開いた。
「……子供の頃の夢なんて、そんなものかもしれないね。たぶん、今頃校庭では野球部とサッカー部と陸上部と……まあ色んな部活が行われているわけだ。体育館ではバスケ部とかバレー部、剣道部。室内では軽音部とか吹奏楽部とか書道部とか美術部とか。他にも色々あるけれど、ともかく、数多くの生徒が部活動に精を出している。けど、その内の何人がプロになれるんだろうね? 学生のときに大好きなことを職業にできる人が、幼いころの夢を叶えられる人が――果たしてどれだけいるのかな」
 アキラの言うことは最もだ。好きなことを仕事にできるのは、一種の理想だ。けれど、現実はそんなに甘くない。
 どこかで夢が破れて。
 どこかで夢を諦めて。
 どこかで夢を手放して。
 それからの人生を歩んでいかなきゃいけないんだ。
 俺の場合は、今がその時なのかもしれない。
リュウが決めたことなら、僕は何も言わないよ。先にヴァンガードをやめた僕に、何かを言う資格があるとも思わないしね」
「そんなことは……」
 俺が否定するより先に、アキラは告げる。
 真正面から、俺の瞳を見つめて。

「後悔だけはしないでね。リュウ