にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドM 5-2

「リソナ、ミハエルのこと嫌いじゃないです。今度一緒に遊ぼうです! 精霊さんも一緒に!」
 そう言って笑顔を見せてくれたリソナと別れ、ミハエル、天羽、神楽屋の3人は大小様々なマンションが立ち並ぶ区域を走っていた。Dホイールや車で移動しないのは、移動途中で犯人を見逃さないためだ。
「リソナが初対面の人間になつくのは珍しいことなんだぞ。私なんか『宇川とは別の意味でオカマみたいです!』って言われたからな。結構へこんだよ」
 苦笑いを浮かべる天羽。言い換えれば「女性なのに男らしい」ということだろうが、さすがにオカマはひどすぎる。
「……リソナは私たちと違って精霊を見ることはできないが、それでも君の優しさに気付いたんだろうね。純粋な子だから」
「買いかぶりすぎですよ」
 天羽の賛辞に、ミハエルは首を横に振る。
 以前のミハエルの「優しさ」は、神楽屋に指摘された通り、本当の「優しさ」ではなかった。自分が傷つくことを恐れての方便だった。
 ミハエルは自分の隣に随伴しているカームに視線を流す。
 今は違う。と胸を張って言えるようになれるだろうか。
(……なれるか、じゃない。なるんだ。俺を信じてくれたカームのためにも)
 心中で決意を確かめ、ミハエルは先導する神楽屋の背中に視線を戻した。
「――っと! 止まれ。ここから先は特殊な力で人を寄せ付けないようにしているようだ」
 急ブレーキをかけた神楽屋の制止を受け、ミハエルと天羽は足を止める。
「人払いというわけか。やはり『清浄の地』の犯行と見て間違いなさそうだな」
 顎に手を当てて思案する天羽に、ミハエルはコクリと頷く。
 神楽屋の元にかかってきた電話。それは誘拐された皆本信二の兄である、皆本創志からだった。
 彼は「とある力」を習得するための修行で事務所を離れており、予定では帰ってくるまでまだ期間があったはずなのだが……曰く、「コツさえ掴めば簡単だった」らしい。
 知り合いの情報屋から信二がさらわれたことを聞いた創志は、帰ってきたその足で救出に向かった。その途中で、神楽屋に連絡を入れたようだ。
 創志は言っていた。犯人は「清浄の地」のメンバーであると。
 この「人払い」や、カームが気にしていた「瘴気のようなもの」のことを考えると、やはりその情報は正しかったらしい。犯人はサイコデュエリスト……さらには「術式使い」であるかもしれない。
「頼むぜ、<アクアマリナ>!」
 「人払い」を突破するためだろうか、ディスクを展開した神楽屋が、藍玉の騎士を実体化させる。
 <ジェムナイト・アクアマリナ>は右腕に装備した円形の盾――そこから突き出た刃で虚空を薙ぐ。ザシュウ! という斬撃音が響き渡る。その瞬間、場の空気がガラリと入れ変わったのが分かった。
「――行くぞ」
 <ジェムナイト・アクアマリナ>を消し、気迫を内に秘めた表情で神楽屋が告げる。
「マスター……この先から、嫌な空気が濃くなってます。くれぐれも気をつけて」
「分かった。行こう、カーム」
 「はい」と頷いた精霊と共に、ミハエルは走り出した。








 創志は右手に握った銀色の銃を、目の前の男に向けて構える。
 セラからの情報が確かなら、この男はサイコデュエリスト消失事件に関与しているデュエルチーム、「清浄の地」のメンバーだ。最も、しばらくネオ童実野シティを離れていた創志にとっては、事件も組織名も聞き覚えのないものだったが。
 そして、術式<デビルズ・ゲート>の使い手でもある。
「ここから去れよ。さもなくば、容赦しねえぞ」
 術式を使える以上、仮にデュエルディスクを破壊したとしてもあまり意味はないだろう。
 男の傍らにあるベンチには、信二が寝かされている。気を失っているようだ。
 今攻撃を仕掛ければ、間違いなく信二が巻き添えになる。それだけは避けたかった。
(最悪、野郎が盾に使う可能性もあるしな……)
 男の目的は<インヴェルズ>のカードだと聞いている。わざわざ発見されるリスクを背負ってまで、信二を誘拐する必要はない。追手が来ることを想定しての人質、ということも考えられる。
「信二君の兄……なら、自己紹介をしておこうかな。僕の名前は桐谷真理。女の子みたいな名前だけど、れっきとした男さ」
「――皆本創志だ」
 最低限の礼儀として名前を口にするが、信二を誘拐したゲス野郎と会話を続ける気はなかった。創志は敵意を剥き出しにして、目の前の男――桐谷を睨みつける。
「残念だけど、お兄さんごときじゃ僕の愛を止められないよ。これは運命さ。信二君は、僕に守られるために生まれてきた。そうでしょう?」
 しかし、桐谷は全く堪えていないようで、ワケの分からない告白を始める。
「……何言ってやがる?」
 桐谷の言うことは3割も理解できない。
 ただ、彼が真剣に愛を告白している様子は、鬼気迫るものを感じさせた。
 こいつは、ヤバい。
 創志の直感がそう言っていた。
「障害は取り除く。お兄さんは僕のタイプじゃないしね。術式解放――<デビルズ・ゲート>」
「チッ……!」
 術式の発動を許してしまったことに、創志は舌打ちを漏らす。
 桐谷の前方、アスファルトの地面に巨大な黒穴が出現する。
(さっきみたいに化け物どもを呼ぶつもりか? だが、コイツなら――)
 創志はグリップを握る力を強める。
 「ハイドロ・ブリット」なら、どんなに大量の化け物を呼び寄せようと一撃で仕留められる。
 術式の発動に乗じて桐谷が逃げ出さないかどうか注視しつつ、創志は引き金に指をかける。
 が。
「なっ……!?」
 黒穴から現れたのは、確かに悪魔崩れの化け物だった。
 しかし、その大きさは先程の個体とは比べ物にならないほど大きい。
 5メートルはあるだろうか。周囲がマンションに囲まれているためその姿が公になることはないだろうか、一般的な住宅街に現れたら大パニックが起きるほどの大きさだ。
 骨に皮膚が張りついているような細身だが、両腕だけは異常に太い。羽に至っては骨が剥き出しになっており、飛ぶことはできないだろう。
「安心してよ。こいつは術者が近くにいないと肉体を維持できないのさ。だから、僕が逃げ出すことはない。お兄さんを潰してから、愛の逃避行と行かせてもらうよ」
「ふざけんな! ――っておわぁっ!?」
 創志が叫ぶと同時、巨大悪魔の右拳が振り下ろされる。バランスの狂っている身体の割に、そのスピードはかなり速い。おまけに拳自体が大きいため、攻撃範囲が広い。
 創志は仕方なく桐谷に背を向けると、全速力で走って拳を回避する。
 ズズン……と標的を失った拳が地面を殴りつける。
 あれだけの質量のものが落下したのだから小規模な地割れでも起こりそうなものだが、アスファルトの地面はヒビひとつ入っていなかった。
「この悪魔崩れは、人間以外には危害を加えられないようになってるんだ。建物を破壊したら隠蔽工作が大変だしね」
 なるほど、と頷いている暇はない。
「――なら、実戦で試し撃ちと行くか!」
 体勢を整えた創志は、拳銃のグリップの底面からマガジンを引き抜いて投げ捨てる。
 そして、掌を開いて前に突き出した。
(集中――!)
 すると、突き出した掌に、どこからか漏れ出た光が集まり、収束していく。
 大きな球となった光が圧縮され、消える。
 光が消えた掌の上には、銀色のマガジンが現れていた。
 創志はそのマガジンを拳銃にセットする。
「外しちゃシャレにならねえからな……まずは動きを止める! 行くぜ、ウィンドファーム・ブリット!」
 銃口を地面に向けると、アスファルト目がけて引き金を引く。
 放たれた銃弾が地面を穿つ。
 スライド部分が後退し、自動的に次の弾丸を装填する。
 創志は続けて3発の銃弾を撃ち込んだ。
「はははっ! 敵はこっちだよ? 気でも狂ったのかな?」
 嘲笑する桐谷に対し、
「黙って見てろ」
 創志は表情を変えずに一言だけ吐き捨てた。
 瞬間、巨大悪魔を囲うように4本の竜巻が吹き上がる。
「これは……!?」
 荒れ狂う風の刃は一斉に悪魔崩れに襲いかかり、その足を止める。
 狙い通りだ。
 創志はもう一度マガジンを投げ捨てると、掌を突き出し新たなマガジンを生み出す。
 それをセットし、照準を定める。
 狙うは巨大悪魔の頭部。ホラーテイストの化け物は頭を撃ち抜かれれば死ぬ、というのが映画の定番だからだ。
 うねる竜巻の隙間、ぎらついた悪魔の瞳が見える。
 強引に左腕を振りかぶり、創志目がけて拳を叩きつけるつもりだ。

 ――道が見えた。

「ぶち抜け! ジオ・ブリットッ!!」
 引き金を引く。
 飛び出した銃弾は、大気を震わせ、空気を切り裂く。
 ズガン! と。
 弾丸は、悪魔の脳天に巨大な風穴を開けた。
 が。
「――あ?」
 巨大悪魔の動きは、止まらなかった。
 隙だらけの創志に、毒々しい紫色の拳が振り下ろされる。
 すでに回避は間に合わない。
 創志は、もう一度ジオ・ブリットを撃つべく、銃を構え直す。
 刹那。
「ツメの甘さは相変わらずか? 創志!!」
 創志の隣を影が横切る。
 剣閃が煌めいたかと思うと、迫っていた拳が真っ二つになる。
 分かたれた拳――そして巨大悪魔の肉体が、ここに来てようやく粉と化して消えて行った。
 創志の視界に、深い青色のマントが映る。このマントの主を、創志は知っていた。
「<ジェムナイト・マディラ>……神楽屋か!」
「どうやら間に合ったみたいだな。ま、詳しい話は後回しにさせてもらうぜ」
 そう言って、中折れ帽を被り直しながら隣に並ぶ神楽屋。その姿は、依然と全く変わらない。
「ヤツがこの事件の犯人か。術式使いとはな」
「アレク、毒島に続いて3人目ですね……『清浄の地』は何人の術式使いを保有してるんスかね」
 神楽屋の背後には、見慣れない一組の男女がいた。
 灰色のジャケットと黒のホットパンツという出で立ちの女性は、流麗な黒の長髪を風に流し、不敵な笑みを浮かべている。一目見て底の知れない人間だということが分かる。
 ダークグレーの細身のスーツを着た長身の男は、緊張した面持ちで事態の推移を見守っている。
 彼らが何者であるかは気になったが、神楽屋と行動を共にしている以上敵ではないだろう。それよりも、今は桐谷のことに専念しなければ。
「くっ……さすがにこれはマズイね」
 今までは余裕綽々といった感じの態度だった桐谷だが、ここに来てようやく危機感を顕わにする。しかし、信二の傍から離れようとはしない。
(どうする……?)
 武力による脅しでは、桐谷は信二を手放さないだろう。
 何とか桐谷の隙をついて、信二を奪還するしかない。
 その方法を模索しているときだった。

「何をしている、桐谷。約束の時間はとっくに過ぎているぞ」

 ズン! と辺り一帯に強烈なプレッシャーが圧し掛かる。
「…………ッ!?」
 無意識のうちに震える足を押さえ、創志は何が起こったのかと視線を彷徨わせる。
 それは、ある一点で止まった。
 桐谷の背後。
「……申し訳ありません。伊織さん」
 突如現れたオールバックの男が、プレッシャーを撒き散らしている張本人だった。