にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 番外編 宝石を継ぐもの-2

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「……<裁きの龍>でダイレクトアタックです」
「何も無い。通るぜ。ライフはゼロ、俺の負けだな」
 白の龍が放つ裁きの光が、神楽屋の体を焼き尽くしていく――なんてことはなく、受けたダメージを計算機に入力すると、ちょうどライフポイントがゼロになった。デュエルに敗北した神楽屋は降参だと言わんばかりに両手を挙げたが、勝者である金髪の少女、リソナは不服そうに頬を膨らませた。
「テル。また手を抜いたですね!?」
「……そんなことねーよ」
「なら、<裁きの龍>が出てきたときに使わなかった伏せカードを見せるです!」
「やなこった。また戦うかもしれない相手に手の内を明かすバカがどこにいる」
 なら実力行使だと手を伸ばしてくるリソナよりも早くテーブルの上に広がったカードを片付けた神楽屋は、デッキを片手に席を立った。
 穏やかな陽光が窓から差し込む昼下がり。時枝探偵事務所のオフィスにはメンバーが勢ぞろいしていたが、生憎と依頼人は現れず、デュエルに興じるくらいは暇だった。
「むー! もう1回! もう1回ですバカテル!」
「もうこれでマッチ6戦目だろうが……いい加減疲れたし、人の名前をきちんと呼べないやつを相手にする気はない。それに、今日は出かけるんだろ?」
 食い下がってくるリソナを退けながら、神楽屋は傍に立っていたティトへと話題を投げる。頷いたティトは壁時計に目を向け、
「……リソナ。そろそろ時間」
 唸っているリソナの頭をポンと撫でた。リソナは神楽屋を睨みつけながらも、渋々とカードを片付け始めた。
「ミナさんが一緒なら大丈夫だと思うけど……気をつけろよ、ティト」
「わかった。ありがと、そうし」
 微笑を浮かべたティトに、創志は頬を染めながらそっぽを向く。銀髪の少女は真っ白なワンピースの上にカーディガンを羽織っていたが、ボディラインがくっきりと表れており、そこを意識してしまった純情少年は気恥ずかしくなったのだろう。
「いっつもリソナのことバカにするアホテルにはおみやげなんて買ってきてやらないです! いーっだ!」
 口の端を引っ張り舌を出したリソナは、肩を怒らせながら事務所を出ていく。彼女もボーダー柄のタンクトップに黒のミニスカートと、かなり解放的な服装をしている。
「おみやげって言ったって、そんな遠出するわけでもないだろうが……」
「ラリラリストリートの入り口で待ち合わせだっけか?」
「うん」
 休日である今日、ティトとリソナは学友であるビビアン・サーフ、そして元・シスターで現在はピアニストであるイルミナ・ライラックと一緒にショッピングに行く予定を立てていた。神楽屋的には年長者であるイルミナを含めてもいささか不安が残るメンバーなのだが――輝王か萌子でもいれば話は違ったが――、ラリラリストリート付近で買い物くらいならトラブルに巻き込まれることもないだろう。
「じゃあ、行ってくるね」
「おう。気をつけてな」
 ティトを見送ったあと、創志は「さて」と両手を腰に当てる。
「俺たちも行くか。信二」
「そうだね、兄さん」
 今まで黙って事態を静観していた信二は、創志に促されて車椅子を動かす。
「じゃあ、俺も信二を詠円院まで送ってからバイト行くから」
「……依頼人が来なかったら、あとで顔出す」
「へっ、そうならないように祈ってるぜ」
 創志は皮肉っぽい励ましを送ってくるが、今日は依頼人が来ないような気がしていた。それはただの勘だったが、こんなうららかな陽気の日は悪人も昼寝に精を出しているはずだと適当な理由を考えてみる。
「あ、そうだ」
 神楽屋の脇を通り過ぎようとした信二が、ふと思いついたように声を出す。
「……神楽屋さん。さっき発動しなかった伏せカード、<禁じられた聖杯>じゃないですか?」
「……どうして分かった?」
「いえ、何となく。神楽屋さん、兄さんと似てるところがあるから、本当に何も手がなかったらあんなに余裕ある反応できないんじゃないかな、って」
「ぐっ……」
 創志と似ていると言われるのは心外だが、まさに図星だった。
「何だよ。それじゃマジで手加減してたんじゃねーか。リソナがかわいそうだぞ」
「兄さんは手加減できる余裕ないもんね」
「うるせえ!」
 ちなみにリソナと創志の対戦成績は、創志の圧倒的連敗が続いている。
「ま、デュエルに対して紳士的でありたいってのは俺も同意するが……どうもリソナ相手だとな。アイツは感情が顔に出すぎるせいで、考えてることが丸分かりなんだよ。さっきだって、<裁きの龍>を引いた途端に顔が輝いたからな」
「プレイング自体は悪くないと思うんですけどね……」
「負けるとすぐに泣くしな。何というか、幼女をいじめてる気分になるというか……」
 先程のデュエルも、伏せておいた<禁じられた聖杯>を使って<裁きの龍>の効果を無効化していれば、まだ勝負は分からなかった。むしろ、神楽屋のフィールドと墓地は万全だったため、次のターンで一気にリソナのライフを削りきることも可能だっただろう。

<禁じられた聖杯>
速攻魔法
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。
エンドフェイズ時まで、選択したモンスターの攻撃力は
400ポイントアップし、効果は無効化される。

<裁きの龍>
効果モンスター
星8/光属性/ドラゴン族/攻3000/守2600
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地の「ライトロード」と名のついた
モンスターが4種類以上の場合のみ特殊召喚できる。
1000ライフポイントを払う事で、
このカード以外のフィールド上のカードを全て破壊する。
また、このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
自分のエンドフェイズ毎に、自分のデッキの上からカードを4枚墓地へ送る。

「かーっ! 勝ち越してる連中は言うことが違うよな! ちくしょう!」
「拗ねないでよ、兄さん。リソナちゃんは兄さんとデュエルしてる時が一番楽しそうだよ」
「そりゃ俺相手だと勝てるからな! クソ、切にでもアドバイスもらうか……」
 ブツブツと文句を言う兄を弟がなだめながら、皆本兄弟も事務所を後にした。
 途端に、事務所に静寂が訪れる。
「……手加減、か」
 もし、神楽屋が相手に手抜きをされて勝ちを譲ってもらったとしても、全く喜べない。むしろリソナのように怒るかもしれない。それを分かっていながら、リソナ相手だと手加減をしてしまう理由は何か。
「アイツ、勝つまでデュエル続けるからな……」
 それも理由の一つではある。が、全てではない。
(……怖いのかもな)
 今でこそ無邪気な子供そのものであるリソナだが、レビンや光坂によって一種の「洗脳」を受けた直後……レボリューション時代の彼女は、無邪気さと残忍さを兼ね備えた異質な存在だった。
 もし、神楽屋の本気がリソナの異質さを蘇らせてしまうとしたら――
 騒がしくも楽しい日常が、音を立てて崩れていく錯覚に囚われる。神楽屋は頭を振って嫌なイメージをかき消すと、ソファに寝転んで目を閉じた。
 絶好の昼寝日和だ。寝られるときに寝ておこう。