にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 番外編 宝石を継ぐもの-1

 始業前の教室は、話し声が絶えない。
「はよーっす。宿題やった?」
「忘れたけど委員長に頼みこんで見せてもらった」
「はあ? お前ずりーよ。俺も頼んでこよーっと」
「昨日のプロデュエリストルーキーズトーナメント見た? すごかったよな!」
「<魔轟神>のソリティア見てて頭痛くなったよ……」
「あれ、今日先生が話題にしそうだよな」
「誰だっけ? 一回戦で負けちゃった女の人。黒上なんとかさん。結構かわいかったよな」
「おいおいそれじゃ逆だろ。確か――」
 各地で咲いた話題の花に共通性はなく、様々な人間がこの教室に押し込められているのだという事実を実感する。
 だが、この教室内の誰もが……いや、デュエルアカデミアに通う生徒なら一度は口にしたり耳にしたりすることがある、ひとつの噂話があった。
「ねえ、知ってる? 裏庭にある妖精の像の話」
「何それ? ってかそんなのあったっけ?」
「裏庭のすみっこにあるじゃん。この学校が建てられる前からあった古い石像で、たぶんデュエルモンスターズのモンスターを模ったものだと思うんだけど、ボロボロになっちゃったせいで誰も正体を知らないのよ。妖精っぽい姿をしていることは分かるんだけど」
「で、それがどうしたのよ」
「それがね……その石像に自分が一番大切にしてるカードを捧げてお祈りすると、願いが叶うんだって!」
「へー……うさんくさ」
「本当だって! 先輩の友達も願いが叶ったって言ってたし!」
「あ、その噂わたしも聞いたことある!」
 石像の噂話をしていた女生徒2人に、内容を聞きつけた友達が加わる。
「願いが叶うってのは本当らしいよ。でもね、ひとつだけ条件があるの」
「だから大事なカードをお供えするんでしょ?」
「違う違う。そういう意味じゃなくて、叶えてもらう願い事に条件があるの」
 女生徒はコホンと咳払いをしてから、仰々しく告げる。

「願っていいのは、デュエルに関することだけなんだって」


◆◆◆

 ささやかな月明かりが降り注ぎ、冷たい微風が肌を撫でつける夜。
 本来なら夜間の立ち入りが禁止されているデュエルアカデミアの裏庭に、1人の女生徒の姿があった。
 風になびく金髪は見るだけで人――特に男性の心を魅了しそうな輝きを放っており、澄んだアイスブルーの瞳は、闇夜に浮かび上がる宝石のようだった。健康的な白さの肌に、ぷっくりと膨らんだ桜色の唇。そして、服の上からでも分かる豊満なバスト。
 生徒だけではなく教員でさえもたぶらかせそうな大人びた容姿だが、その左腕には美貌を台無しにするような無骨なデザインのデュエルディスクが装着されていた。
 裏庭の隅にある、妖精のような石像。一応簡単な社で守られているようだが、長い間雨風に晒され続けてきたであろう社と石像は、かろうじて原形を保っているような有様だった。
 女生徒は手にしていた懐中電灯で石像を照らすと、その下に1枚のカードを供える。そして、両の手の平を合わせ、目を閉じた。
 すると、まるで石像の中にいる「何か」が蠢きだしたように、風がざわついた。
 それを気にも留めず、少女は祈る。

 ――戦いたい人がいます、と。