にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage 明日に伸ばす手-3

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(……痛い目を見るだけじゃ済まない、か)
 通信を終えた信二は、椅子の背もたれに体を預けながら、自分の言葉を反芻する。
(僕はむしろ、もっと痛い目を見るべきなんだ)
 時枝探偵事務所のオフィスには信二以外の人影はなく、机の上に置かれたノートパソコンの動作音が耳障りなほど静かだ。いつもは創志とリソナがぎゃあぎゃあ言いあいをしていて、隣にある喫茶店のオーナー、藤原萌子からは「うるさい」と苦情がくるほどなのに、とても同じ空間とは思えなかった。
 探偵事務所に依頼が持ちこまれたとき、信二の主な役割は、事件に対する調査や、メンバーの連携を取るための通信役などの後方支援だった。
 レボリューション事件の後遺症も完治し、普通に動けるようになったにもかかわらず。
 通信ソフトは起動させたまま、信二は一つの文書ファイルを開く。
 それは、元治安維持局の捜査官である輝王正義が、二つの事件についてまとめたレポートを、信二が自分なりに要点だけを抜き出して構成し直したものだ。




 ひとつは、「清浄の地・精霊喰い事件」。
 サイコデュエリストの抹殺を目論む過激派デュエルギャング、清浄の地。彼らの蛮行を止めるために、治安維持局の捜査官ミハエル・サザーランド、実家である上凪財閥から家出した少女、上凪紫音、加えて創志や輝王、神楽屋などレボリューション事件に関わった人々等、清浄の地を追う様々な人間が集まった。特定のカードの力を「人が扱いやすい形」として具現化する「術式」が存在感を増したのは、この事件からだ。
 この事件の中心人物だったミハエル・サザーランドは、デュエルモンスターズのカードに宿る精霊と会話することができ、それゆえに傷つき倒れる嘆きの声に苦しんでいた。
 上凪紫音もまた同様の力を有しており、「友達」だった水霊使いエリアの行方を追い、清浄の地に辿りついた。だが、彼女が感じていた孤独に付け入り、味方に引き込もうとしていた清浄の地のメンバー、二条亜砂の誘惑に負け、一度は敵に回ってしまう。
 清浄の地のリーダー、伊織清隆が有していた術式<ロスト・サンクチュアリ>の能力によって作り出された亜空間での決戦。ミハエルは「ガスタ」の精霊のおかげで迷いを断ち切る。敵として現れた紫音は、仲間たちの説得により誘惑を撥ね退け、戦線に復帰する。二人は伊織との変則タッグデュエルに臨み、これに勝利した。
 伊織は「精霊喰い」と呼ばれる、カードの精霊を喰らい力を増幅する特殊なモンスターを持っていた。そのカードの元々の持ち主で、ミハエルの上司だった朱野天羽は、伊織が倒れた隙に精霊喰いを消滅させようとする。だが精霊喰いは完全な自我を確立するほどの強大な力を得ており、伊織の術式を奪って亜空間を自分の「巣」へと変貌させる。
 天羽は<次元幽閉>のカード効果を具現化させ、自分もろとも精霊喰いを次元の狭間に幽閉するが、力不足により脱出されてしまう。重傷を負い、取り残された天羽に帰る術はなく、今もまだ行方不明のままだ。情報の出所や真偽は不明だが、具現化させた<スクラップ・ドラゴン>に、天羽自身を破壊させることによって道を拓き、相棒だったモンスターを他次元に逃がしたという説もある。
 帰還した精霊喰いは、ミハエルと紫音のタッグによって撃破される。その際、紫音は水霊使いエリアの魂が変貌した新たなカード<スピリチュア・エリアル>を手にする。
 術式<ロスト・サンクチュアリ>を宿したデッキはミハエルが引き継ぎ、自我を失った精霊喰いに、「世界を見せる」と旅に出た。
 紫音は戦いを経て多くの「友達」を得て、実家へと戻った。
 清浄の地のメンバーは、二条亜砂とセシル・サンフィルドを除いて死亡、もしくは行方不明に。術式<アンデット・ワールド>と<デビルズ・ゲート>は持ち主の手を離れた。




 術式――ストラクチャーとも呼ばれる力が争いの中心となったもう一つの事件が、「四霊神事変」だ。
 現行の術式よりも体への負荷が大きく、モンスターそのものとの融合を能力としていた「深・術式」。その使い手たちが、現行の術式使いたちに襲いかかる事件が多発する。
 1st Code<アンデット・ワールド>――引っ込み思案な文学少女、永久原恵。
 2nd Code<ロード・オブ・マジシャン>――上凪響矢に使えるエセメイド、犬童犬子。
 3rd Code<ウォリアーズ・ストライク>――神楽屋輝彦の元に迷い込んだ記憶喪失の少女、スクレ。
 4th Code<マシンナーズ・コマンド>――山奥で隠居生活を送る老人、互鋼と、彼から「アナザーコード」という力を分け与えられた皆本創志。
 5th Code<ドラグニティ・ドライブ>――その力を親友から受け継いだ、輝王正義。
 6th Code<ロスト・サンクチュアリ>――精霊喰いと共に世界を旅するミハエル・サザーランド。
 7th Code<デビルズ・ゲート>――「みんなのヒーロー」だった親友を目の前で殺され、その力を受け継ぐことになった少年、和木秋吉。
 8th Code<ドラゴニック・レギオン>――兄弟で力を分け合う、奏儀白斗と奏儀クロガネ。
 彼らは引き寄せられるようにネオ童実野シティに集い、深・術式使いたちと戦うことになる。深・術式使いたちが襲ってきた理由は、「モンスターと融合してしまった体を元に戻すために、術式の力が必要」といった悲壮なものだった。
 だが、その情報は「風霊神ウィンドローズ」が流布した偽りだった。風霊神の目的は、術式使い同士の戦いによってネオ童実野シティにエネルギーを収束させ、自らを含めた「四霊神」の真の肉体を顕現させることだった。
 四霊神は赤き龍と同じくこの世界を他次元の侵略から守る守護者だったが、その地位を捨て世界を支配する神になろうとしていた。顕現した霊神たちの力は圧倒的で、術式使いたちは犬子の犠牲もあり、辛くも撤退に成功する。
 また、記憶喪失だったスクレは「炎霊神パイロレクス」の依代であり、霊神に肉体を乗っ取られ、同行していた神楽屋に重傷を負わせてしまう。それを見たリソナが暴走。巨大な「裁きの龍」を具現化させてしまう。創志やティトが中心となり暴走は抑えたものの、神楽屋は消息不明。リソナの心には大きな傷が残ることとなった。
 代わりに、自我を取り戻したスクレは術式使いとして戦うことを誓い、犠牲となった犬子から<ロード・オブ・マジシャン>を受け継いだ響矢が戦線に加わる。
 激闘の末に四霊神に勝利した術式使いたち。だが、守護者であった四霊神が消えたことで世界の守りが脆弱となり、それを危険と判断した赤き龍によって、術式使いたちは「世界の守護者」へと変貌する。守護者となった彼らの記録・記憶は全て消え、存在を抹消されてしまう。
 時間や空間を超越した場所で、終わりなき闘争を強いられる一行。しかし、現実世界に残ったティトやリソナ等、強い想いから記憶を取り戻した人々の願いに加えて、守護者になりかけたことでその力の一端を有していた生木院多栄の活躍により次元の壁がこじ開けられ、術式使いたちは元の居場所へと戻ることとなった。
 その際、守護者として残ることを選んだ奏儀白斗とクロガネに術式の力は全て受け継がれることとなり、この一件は幕を下ろした――




 二つの事件において、兄である皆本創志は、文字通り命がけの戦いに挑み、それらをくぐり抜けてきた。かつてベッドの上から見送っていた兄の背中は、最近ますます頼もしくなっているように見える。
 対して、自分はどうだろうか。
 後遺症を言い訳にして兄や仲間たちの影に隠れ、直接的な関わりを持とうとしていなかった。「後方支援が自分の役割」と決めつけていなかっただろうか。
 体が万全に戻った今は、そんな考えが余計に強まっている。
 人には得手不得手があり、前線に出て敵と刃を交えるだけが戦いではない――それは重々承知している。
 けれど、信二よりも幼いリソナやスクレが創志と肩を並べて戦っているのを見れば、焦燥感を抱かずにはいられない。
(……僕だって)
 いつまでも守られる側ではいられない。
 信二は席を立つと、一度自分の部屋へ足を運び、机の引き出しに入れておいたデッキを手に取る。それを握りしめながら、オフィスに戻る。
 デッキトップに置かれたカード<邪帝ガイウス>。そのカードからは、力の残滓のようなものが揺らめいていた。