にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドM 4-11

「ハッ……! いい瞳だ!」
 ミハエルが発する熱気に触発されたように、神楽屋も叫ぶ。
「けどな、戦う覚悟があるだけじゃダメだ。立ちふさがる敵を踏み越える強さを――守るべきもののために勝利を求める強さを! 証明してみせろ!」
 そう言って、神楽屋は右拳で自らの胸を強く叩いた。
「俺を倒してみせろッ! ――ミハエル・サザーランド!」
 神楽屋の鬼気迫る表情に、ミハエルの魂が揺さぶられる。
 このデュエルに勝つことで、ミハエルは新たな一歩を踏み出すことができる。そんな気がした。
「――<ダイガスタ・ユニコルノ>の効果発動。カードの効果によって破壊され墓地に送られた時、墓地に存在する<ガスタ>と名のついたモンスター2体を除外することで、このカードを墓地から特殊召喚することができます! 俺は<サンボルト>と<ガルド>を除外!」
 <破壊指輪>による爆発で巻き起こった炎は、未だ轟々と燃え続けている。
 その炎の中心点から、天に向かって吹き上がる風が生まれる。
 風は強さを増し、やがて竜巻と呼べるほどまでに成長する。
 炎が吹き飛ばされ、鎮火されていく。
「来いッ――カーム!」
 そして、ミハエルは「守るべきもの」であり、「守られるべきもの」の名前を呼んだ。
「はい、マスター!」
 返事はすぐに来た。
 勢いを増していた竜巻を内側からかき消し、<ダイガスタ・ユニコルノ>が再びその姿を現す。
 ユニコーンの背に跨る<ガスタの静寂 カーム>の瞳は、<破壊指輪>によって大きな痛みを受けたにも関わらず、欠片ほどの揺らぎも見せない。
 己の主人を心の底から信頼していなければ、こんな瞳はできない。
 そう感じたミハエルは、勝利への決意をより一層固くする。
 絶対に、勝つ。
「この方法で特殊召喚した<ユニコルノ>は、攻撃力・守備力がそれぞれ500ポイント上昇します」
「<ジェムナイト・ルビーズ>を上回ったか」
 しかし、それだけだ。このまま攻撃を仕掛けても、<ジェムナイト・ルビーズ>を倒しただけで終わってしまう。
 それではダメだ。ミハエルの思考は、このターンでの決着を見据えていた。
 ミハエルは、このターンのドローフェイズで引いたカードを選び取る。
 一気に戦局を引っ繰り返すほどの、強力な効果を持った装備魔法。
 <ガスタの静寂 カーム>では力不足だったが、攻撃力の上がった<ダイガスタ・ユニコルノ>ならこのカードを装備するに足りる。
 気になるのは、神楽屋の場の伏せカードだが――
 探偵気取りの男は、何も言わずにミハエルの行動を待っている。
 その顔には、純粋にこのデュエルを楽しんでいるような……そんな色が浮かんでいる気がした。
「……これで決める! 装備魔法<薫風の斬空破>を<ダイガスタ・ユニコルノ>に装備させます!」
「装備魔法……!? ハッ! これまた予想外の手で来たな!」
 カームが手にしていた杖の先端部分にある翡翠色の宝玉が、強く輝く。
 自分の身の丈を超えるほどの長杖を、カームは右腕だけで構える。
「<薫風の斬空破>を装備したモンスターは攻撃力が300ポイントダウンしますが、それと引き換えに、相手モンスターを破壊し墓地に送った時、そのモンスターの攻撃力分のダメージを与えます!」

<薫風の斬空破>
装備魔法(オリジナルカード)
「ガスタ」と名のついたモンスターにのみ装備可能。
装備モンスターの攻撃力は300ポイントダウンする。
装備モンスターが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地に送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。
このカードは発動後2回目のエンドフェイズ時に破壊される。

「……ッ!」
 <薫風の斬空破>の効果を知り、神楽屋がわずかに身じろぎする。だが、それ以上の動揺は表に出さない。
 現在、<ダイガスタ・ユニコルノ>の攻撃力は2600。<ジェムナイト・ルビーズ>の攻撃力2500をかろうじて上回っている。
 それで十分だ。
「バトル! <ダイガスタ・ユニコルノ>で、<ジェムナイト・ルビーズ>を攻撃!」
 ミハエルは、攻撃宣言と共に右腕を振るう。
 最後まで纏わりつく邪念を、振り払うかのように。
 表情を引き締めたカームが、手綱を握る。
 そして、ユニコーンが戦場を駆けた。
 愚直なまでに真っ直ぐと突き進む一角獣が、その角で風を切り裂く。
 激突。
 紅蓮の騎士は、構えた槍でユニコーンの突進を止める。
 しかし、勢いを殺し切れない。
 槍が弾かれる。
 その隙を突き、ユニコーンは首を下から上へと跳ね上げ、<ジェムナイト・ルビーズ>を上空へと打ち上げる。
 それを追うように、助走をつけてから自らも跳んだ。
 天を目指すその姿は、白銀の羽を背中に宿す白馬――ペガサスを連想させる。
 カームが長杖を強く握りしめる。
 空中で姿勢を整え、落下の体勢に入っていた紅蓮の騎士との距離が詰まる。
 互いの得物が届く距離。
 翡翠色の髪の少女が、紅蓮の騎士が、それぞれの刃を振るう。
 ガキィン! と音を立て、2つの武具がぶつかる。
 <ジェムナイト・ルビーズ>の槍に、焔が宿るその一瞬――

「「シルフィード・ステージ!!」」

 ミハエルとカームの声が重なった。
 その声に呼応するように、カームの杖の宝玉がひときわ眩い輝きを放つ。
 瞬間。
 紅蓮の騎士の周囲に無数のカマイタチが巻き起こり、その鎧を切り裂いた。
 戦う力を失った紅蓮の騎士が、そのまま砕け散る。

【神楽屋LP2200→2100】

 <ジェムナイト・ルビーズ>が破壊されたことにより、<薫風の斬空破>の効果が発動する。
「――ハッ、やりゃあできるじゃねえか。天才決闘者」
 微笑を浮かべて呟いた神楽屋に、刃の雨が降り注いだ。

【神楽屋LP2100→0】