にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドM 4-10

「――ああ!」
 ゆっくりと頷いたミハエルは、芯の通った声で答えを返す。
 何度も見てきた<ガスタの静寂 カーム>の背中。
 その背中が、これほど頼もしく見えたのは初めてだった。
「ハッ……面白いじゃねえか。そいつで何ができるのか見せてもらおうか。俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
 何かを期待するような視線をミハエルに向けた神楽屋は、リバースカードをセットしてターンを終了する。
 <ガスタの静寂 カーム>には、これまでの3体のようなリクルート効果はない。<ジェムナイト・ルビーズ>を相手にする以上、守備表示で耐えることもできない。
 いや、もう耐えるのは終わりだ。反撃ののろしを上げるべきだろう。

【ミハエルLP1200】 手札2枚
場:ガスタの静寂 カーム(攻撃)、伏せ1枚
【神楽屋LP3200】 手札0枚
場:ジェムナイト・ルビーズ(攻撃)、伏せ1枚

「俺のターンっスね――ドロー!」
 ミハエルの気迫のこもった宣言が、フィールドに響き渡る。
 指先の神経を集中して引いたカードは、<ガスタ>と名のついたモンスターにのみ装備できる装備魔法だった。一気に戦局を引っ繰り返すだけの強力な効果を持つが……このカードを<ガスタの静寂 カーム>に装備させても、状況を打開することはできない。
 だが、諦めるのはまだ早い。早すぎる。
「――<カーム>の効果を発動! 墓地に存在する<ガスタ>と名のついたモンスター2体をデッキに戻すことで、カードを1枚ドロー出来る!」
「どうやらさっきのドローじゃ逆転へのキーカードを引けなかったみたいだな! いいだろう、やってみせろ!」
「俺は墓地の<ウィンダ>と<ガルド>をデッキに戻します!」
 <ガスタの静寂 カーム>を中心として、ふわり、と風が巻き起こる。
 静寂を体現する少女は、手にした長杖を握りしめ、両目を閉じる。
 捧げるのは祈り。願うのは希望。
 全ては、守るべき人のために――!
ホープ……ウィンド!」
 生まれた風がミハエルのデッキに流れ込み、一番上のカードが淡い光を放つ。
 信じると誓った。
 共に戦ってくれる彼女のためにも、ここで退くわけにはいかない。
 ミハエルは、カードをドローする。
 神楽屋の眉がピクリと動くのが見えた。
 <ガスタの静寂 カーム>は、背を向けたままだ。
 指先で掴んだカードを確認する。モンスターカードだ。
(――来たッ!)
 逆転への道筋が繋がる。
 カームの起こした希望の風が、勝利への道を切り開く。
「――行きます! チューナーモンスター<ガスタ・エレグル>を召喚っス!」
 ミハエルが呼びだしたのは、<ガスタ・サンボルト>と同じくエメラルドグリーンの体毛を生やした仔馬だ。きょろきょろと辺りを見回し、怯えた様子を見せる仔馬の額には、小さな角が生えている。

<ガスタ・エレグル>
チューナー(効果モンスター)(オリジナルカード)
星2/風属性/雷族/攻600/守200
このカードがフィールド上から墓地に送られた場合、
ゲームから除外されている「ガスタ」と名のついたモンスター1体を選択し、墓地に戻す。

「大丈夫。こわくないよ」
 そんな<ガスタ・エレグル>に、<ガスタの静寂 カーム>が寄り添い、優しく頭を撫でる。たったそれだけで、仔馬は安心しきったようにカームの頬を舐める。
「……レベル4の<ガスタの静寂 カーム>に、レベル2の<ガスタ・エレグル>をチューニング! 万物を包み込む再生の風――想いを力へ変え、魂を乗せ、蒼空を駆けよ!」
 <ガスタ・エレグル>が「ヒヒーン!」と雄叫びを上げ、その体を2つの光球へと変化させる。
 真横に構えたカームの杖に、光球が吸いこまれていく。
 カームの周囲に2つのリングが出現し、その中心を光が駆け抜ける。

シンクロ召喚! 薫風の槍――<ダイガスタ・ユニコルノ>!」

 フィールドに風が吹き抜ける。
 その風は、ミハエルにとっては追い風。神楽屋にとっては向かい風。
 光を切り裂き、召喚されたシンクロモンスターが飛び出してくる。
 その姿は、戦場に降り立った聖女と形容するにふさわしい。
 立派な角を生やし、ユニコーンとしてたくましく成長した<ガスタ・エレグル>の背に、<ガスタの静寂 カーム>が跨っている。
 ユニコーンの足元からは常に風が生まれ、強い意志をたたえたカームの瞳は、真っ直ぐ<ジェムナイト・ルビーズ>を捉えている。
 初めて見るわけではない。しかし、現れた<ダイガスタ・ユニコルノ>の姿に、ミハエルは感動で心が揺らいだことを感じた。

<ダイガスタ・ユニコルノ>
シンクロ・効果モンスター(オリジナルカード)
星6/風属性/サイキック族/攻2400/守2000
「ガスタ」と名のついたチューナー+「ガスタの静寂 カーム」
このカードがカードの効果によって破壊され墓地に送られた時、
自分の墓地に存在する「ガスタ」と名のついたモンスターを2体選択しゲームから除外することで
このカードを墓地から自分フィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する。
この効果によって特殊召喚に成功した時、
このカードの攻撃力・守備力は500ポイントアップする。

「――そいつがお前の切り札ってわけか」
 <ダイガスタ・ユニコルノ>の姿に圧倒されることなく、今までと変わらぬ口調で神楽屋が呟く。
「……まずは<エレグル>の効果の処理をします。このカードが墓地に送られた場合、除外されている<ガスタ>モンスターを墓地に戻します」
 自らの効果で除外されていた<ガスタ・サンボルト>が、墓地に戻る。
 そして、処理を終えたミハエルは、伏せカードの起動スイッチに手をかけた。
 スイッチの表面に軽く触れる。まだ、起動はしない。
「マスター」
 そこで、初めてカームの視線がミハエルへと向いた。ミハエルがやろうとしていることが――自分がどんな目にあうのか分かっているのかもしれない。
 ミハエルの場に伏せてあるカードは、<破壊指輪>。
 自分フィールド上に存在する表側表示モンスター1体を破壊し、お互いに1000ポイントのダメージを受ける罠カードだ。
 天羽とのデュエルでは、勝ちを逃してまで使うことを拒んだカード。
 そのカードを、ミハエルは使おうとしていた。
「大丈夫です、マスター」
 カームの穏やかな声が、心の奥底まで沁み渡る。
「だから、わたしにマスターを守れる力をください」
「……信じるぜ、カーム」
 ミハエルの言葉に、カームはにっこりと微笑んで見せた。
 その笑顔が、最後のひと押しだった。
「罠カード<破壊指輪>発動! 俺はこのカードの効果で<ダイガスタ・ユニコルノ>を破壊! お互いに1000ダメージを受けるっスよ!」

<破壊指輪>
通常罠
自分フィールド上の表側表示モンスター1体を破壊し、
お互いに1000ポイントダメージを受ける。

「な……! お前、自分のモンスターを……!」
 神楽屋が驚きを顕わにした瞬間、カームの人差し指にはめられた指輪が爆発する。
 <ダイガスタ・ユニコルノ>が爆炎に呑まれ、巻き起こった衝撃波が2人のプレイヤーを襲う。

【ミハエルLP1200→200】

【神楽屋LP3200→2200】

「俺はッ……!」
 ミハエルは、<ダイガスタ・ユニコルノ>が破壊される光景から目を逸らすことなく、左胸――心臓がある位置を強く握りしめる。
「俺は、戦うッ! もう……もう逃げない!」
 体の奥底から絞り出したような声で、ミハエルは叫ぶ。
 言葉にすることで、その覚悟を証明したかったから。