にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドM 4-12

 勝敗は決した。
 立体映像が消えていくが、ミハエルは激しい戦いによる熱に浮かされたままだった。
 ミハエルも、神楽屋も、言葉を発しようとしない。
 ――静寂。

 パチパチパチ、と。

 その静寂を打ち破り、控えめな拍手の音が響き渡った。
「――素晴らしいデュエルだったぞ。2人とも」
 ミハエルは声のしたほうに視線を向ける。
 そこには、ジャングルジムの天辺に優雅に腰かける、朱野天羽の姿があった。
「……てめえ。いつの間に」
「中盤ぐらい――正確に言えば、<スフィアード>と<ルビーズ>との戦闘くらいからか。以前、神楽屋に『覗き見は趣味が悪い』と言われたからな。こうして特等席で堂々と観戦させてもらったよ」
 もちろん、ミハエルは全く気付かなかった。神楽屋の様子を見るに、天羽の来訪は彼も知らなかったようだ。
「昔から気配を殺すのは得意なんだよ。無論、その道のプロなら簡単に気付くだろうがね。まあ2人ともそれだけデュエルに集中していたということだよ」
「――ハッ。気配を消してるんじゃ、覗き見と変わらねえじゃねえか」
 そう吐き捨てた神楽屋は、それ以上追及するのが馬鹿らしくなったようで、大きなため息を吐いた。
「さて」
 天羽はジャングルジムの天辺から飛び降りると、ひらりと舞ってミハエルの前に着地する。いくら子供用の遊具とは言え、一息に飛び下りるには危険な高さだったはずだが、天羽は両足の痺れすら感じていないようだった。
「君の覚悟、見せてもらったぞ。ミハエル君」
 そう言って、天羽は自らの右手を差し出す。
「改めてよろしくの握手だ。応じてくれるな?」
 疑問形で言葉を締めつつも、天羽の表情は何かを確信したかのように自信に満ち溢れている。
 ミハエルは、傍らに佇むカームに目を向ける。
 2人の視線が交差する。言葉は必要なかった。互いに頷き、それぞれの意志を確かめ合う。
 そして。
「――こちらこそ。よろしくお願いします、天羽先輩」
 ミハエルは、天羽の手を握った。

「ギャニック! ギャニック! おーおーおーギャニック! その闘志を弾に込め、バーシャナ星人やっつけろ~♪」

「…………」
「…………」
「…………」
 空気をぶち壊すように、神楽屋の携帯電話から着信を知らせる歌が流れた。「モズク戦士ギャニック」という一昔前に流行した特撮ヒーローの主題歌だ。
「……悪い。電話だ」
「さっさと出ろ。まったく、デュエル中に鳴ったらどうするつもりだったんだ。あらかじめマナーモードにしておくのが筋というものだろう」
 天羽にしては珍しく、はっきりとした怒りを顕わにする。
 その剣幕に気圧されたのか、神楽屋は「すまん」と平謝りしてから電話に出る。
「もしもし――」
「もーーーーーーーーーーーーーーーう!! なんですぐ出ないんですか馬鹿テル! アホテル! 間抜けテル!!」
 いきなり聞こえた大音響に、神楽屋は顔をしかめながら携帯電話を耳から遠ざける。
 あまりに大きな声だったため、ミハエルや天羽にも聞こえてしまった。アニメ声、と例えれば分かりやすいだろうか。妙に甘ったるい独特な声だった。テル、とは神楽屋輝彦のことを指しているのだろう。
「リソナはとってもとっても大変な緊急事態をお知らせするために電話したです! テル、今どこにいるですか!?」
 相変わらずの大声で話し続けているため、こちらにも情報がだだ漏れだ。
 神楽屋はうんざりした様子で中折れ帽をかぶり直しながら、
「……こっちは詠円院近くの公園にいる。で、緊急事態ってのは?」
「そうです! 大変なんです! やばすぎるです!」
「落ち着け。落ち着いて何が大変なのかを伝えろ」
「リソナに命令するなんて百万年早いですが、今回は特別に許してやるです! 実は――」
 続く言葉を聞いた神楽屋の顔色が一変する。

「皆本弟が……信二がさらわれちゃったです!!」