遊戯王 New stage2 サイドM 3-12
ミハエルの手札に、現状を打破するカードはない。
指先に神経を集中させ、カードをドローする。引いたカードは――
「……悪い。お前の効果に賭けさせてもらうぜ、カーム!」
「はい、マスター!」
「<ガスタの静寂 カーム>を召喚!」
ソリットビジョンシステムがカードのデータを読み取り、長杖を構えた翡翠色の女性がミハエルのフィールドに現れる。最も、ソリットビジョンなど介さなくてもカームの姿は鮮明に見えるのだが。
指先に神経を集中させ、カードをドローする。引いたカードは――
「……悪い。お前の効果に賭けさせてもらうぜ、カーム!」
「はい、マスター!」
「<ガスタの静寂 カーム>を召喚!」
ソリットビジョンシステムがカードのデータを読み取り、長杖を構えた翡翠色の女性がミハエルのフィールドに現れる。最も、ソリットビジョンなど介さなくてもカームの姿は鮮明に見えるのだが。
<ガスタの静寂 カーム> 効果モンスター 星4/風属性/サイキック族/攻1700/守1100 1ターンに1度、自分の墓地に存在する 「ガスタ」と名のついたモンスター2体をデッキに戻す事で、 自分のデッキからカードを1枚ドローする。
「チッ。また軟弱そうなモンスターだな」
「……<カーム>の効果を発動! 墓地に存在する<ガスタ>と名のついたモンスター2体をデッキに戻し、カードを1枚ドローする!」
カームは両目を閉じると杖を真正面に構え、詠唱を始める。足元に<ガスタ>の紋章を描いた魔法陣が浮かび上がる。
「ホープ・ウィンド!」
フィールドの底から、全てを包み込むような優しい風が吹き出す。
<ガスタ・サンボルト>と<ガスタの巫女 ウィンダ>がデッキに戻り、ミハエルはカードをドローする。
このドローで逆転のキーカードを引けなければ、ミハエルの敗北は確実だ。
だというのに。
ミハエルの指先は、未だに震えたままだった。
「――――」
ドローしたカードは、<ガスタの交信>。
墓地の<ガスタ>と名のついたモンスター2体をデッキに戻し、シャッフル。その後相手フィールド上のカードを1枚選択して破壊するカードだ。
対象を取る、魔法カード。
<リボーンリボン>を装備した<フェニックス・ギア・フリード>の前では、何の役にも立たないカードだった。
仮に発動に成功し<フェニックス・ギア・フリード>を破壊できたとしても、残る<エヴォルテクター シュバリエ>を対処する手段はない。アレクが後続のモンスターを召喚し、2体で攻撃を仕掛けれくればミハエルのライフは尽きる。<正統なる血統>を破壊しても同じことだ。アレクの手札にモンスターカードがあれば、終わる。
手は残されていない。
アレクがモンスターカードを持っていない、というわずかな可能性に賭けるしかない。
だが、これまでのアレクの自信を見れば、おのずと答えは見えてくるだろう。絶好のチャンスを逃すはずがない。
「――すまない、カーム」
「マスター……?」
だから、ミハエルは覚悟を決めた。
「……<カーム>の効果を発動! 墓地に存在する<ガスタ>と名のついたモンスター2体をデッキに戻し、カードを1枚ドローする!」
カームは両目を閉じると杖を真正面に構え、詠唱を始める。足元に<ガスタ>の紋章を描いた魔法陣が浮かび上がる。
「ホープ・ウィンド!」
フィールドの底から、全てを包み込むような優しい風が吹き出す。
<ガスタ・サンボルト>と<ガスタの巫女 ウィンダ>がデッキに戻り、ミハエルはカードをドローする。
このドローで逆転のキーカードを引けなければ、ミハエルの敗北は確実だ。
だというのに。
ミハエルの指先は、未だに震えたままだった。
「――――」
ドローしたカードは、<ガスタの交信>。
墓地の<ガスタ>と名のついたモンスター2体をデッキに戻し、シャッフル。その後相手フィールド上のカードを1枚選択して破壊するカードだ。
対象を取る、魔法カード。
<リボーンリボン>を装備した<フェニックス・ギア・フリード>の前では、何の役にも立たないカードだった。
仮に発動に成功し<フェニックス・ギア・フリード>を破壊できたとしても、残る<エヴォルテクター シュバリエ>を対処する手段はない。アレクが後続のモンスターを召喚し、2体で攻撃を仕掛けれくればミハエルのライフは尽きる。<正統なる血統>を破壊しても同じことだ。アレクの手札にモンスターカードがあれば、終わる。
手は残されていない。
アレクがモンスターカードを持っていない、というわずかな可能性に賭けるしかない。
だが、これまでのアレクの自信を見れば、おのずと答えは見えてくるだろう。絶好のチャンスを逃すはずがない。
「――すまない、カーム」
「マスター……?」
だから、ミハエルは覚悟を決めた。
デッキの上に右手を乗せる。
それは、自ら敗北を認めデュエルを終了させる、サレンダーと呼ばれる行為だった。
「そんな……マスター!?」
主人の行為の意図が掴めず、困惑した様子のカーム。その姿が消えていく。デュエルが終了し、ソリットビジョンシステムが停止したためだ。
光の見えない可能性に賭けてカームを傷つけるくらいなら、いっそのこと負けてしまったほうがいい。
例え、それで命を落とすことになっても。
「――何の真似だ。ミハエル・サザーランド」
地獄の底から響いてくるような圧迫感を放ちながら、アレクが重い声を出す。その顔は伏せられており、表情は見えない。
「…………」
ミハエルは何も言わない。言えるはずがない。
「そんな……マスター!?」
主人の行為の意図が掴めず、困惑した様子のカーム。その姿が消えていく。デュエルが終了し、ソリットビジョンシステムが停止したためだ。
光の見えない可能性に賭けてカームを傷つけるくらいなら、いっそのこと負けてしまったほうがいい。
例え、それで命を落とすことになっても。
「――何の真似だ。ミハエル・サザーランド」
地獄の底から響いてくるような圧迫感を放ちながら、アレクが重い声を出す。その顔は伏せられており、表情は見えない。
「…………」
ミハエルは何も言わない。言えるはずがない。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアッッッ!!」
獣のそれよりも遥かに屈強な雄叫びが、大気を震わす。
「サレンダーだと!? テメエはどこまで俺を侮辱すれば気が済むッ! 認めねえ! 認めねえぞこんな結末はッ! これ以上俺を失望させるんじゃねえ! デュエルを続行しろッ!!」
激しい怒りを顕わにし、アレクは声を枯らしながら叫ぶ。
「俺は、圧倒的な力で俺を潰したデュエリストに勝つために強くなったッ! それがテメエだ、ミハエル・サザーランド! なのにテメエは――ッ!!」
「…………」
どれだけの激情をぶつけられようと、ミハエルはこれ以上デュエルを続ける気はなかった。
この戦いではっきりと分かった。
自分は、デュエリストには戻れない。
カードが傷つくことを恐れて。あの声が再び聞こえることを恐れて。何も出来ないのだ。
馬橋とのデュエルのときのように、強い感情に流されなければ、戦えない。それでは、天羽のパートナーなど到底務まらないだろう。
「……俺の負けだ、アレク・ロンフォール」
「ッッッ!!」
ミハエルの言葉に、歯を噛み砕かんとするように、強く奥歯を噛むアレク。
「術式解放。<ウォリアーズ・ストライク>ッ!!」
叫び、クレイモアを出現させたアレクは、柄を両手で掴むと猛然と駆け出す。
「――殺すッ!!」
大剣を構えたアレクがミハエルの眼前まで迫り、怒りに身を任せて鈍く光る刃を振りかぶる。
受ければ、死だ。
死ぬのは嫌だ。カームたちを置き去りにして、この世を去るわけにはいかない。
それなのに――
ミハエルの体は、他人のものになったかのようにピクリとも動かなかった。
「サレンダーだと!? テメエはどこまで俺を侮辱すれば気が済むッ! 認めねえ! 認めねえぞこんな結末はッ! これ以上俺を失望させるんじゃねえ! デュエルを続行しろッ!!」
激しい怒りを顕わにし、アレクは声を枯らしながら叫ぶ。
「俺は、圧倒的な力で俺を潰したデュエリストに勝つために強くなったッ! それがテメエだ、ミハエル・サザーランド! なのにテメエは――ッ!!」
「…………」
どれだけの激情をぶつけられようと、ミハエルはこれ以上デュエルを続ける気はなかった。
この戦いではっきりと分かった。
自分は、デュエリストには戻れない。
カードが傷つくことを恐れて。あの声が再び聞こえることを恐れて。何も出来ないのだ。
馬橋とのデュエルのときのように、強い感情に流されなければ、戦えない。それでは、天羽のパートナーなど到底務まらないだろう。
「……俺の負けだ、アレク・ロンフォール」
「ッッッ!!」
ミハエルの言葉に、歯を噛み砕かんとするように、強く奥歯を噛むアレク。
「術式解放。<ウォリアーズ・ストライク>ッ!!」
叫び、クレイモアを出現させたアレクは、柄を両手で掴むと猛然と駆け出す。
「――殺すッ!!」
大剣を構えたアレクがミハエルの眼前まで迫り、怒りに身を任せて鈍く光る刃を振りかぶる。
受ければ、死だ。
死ぬのは嫌だ。カームたちを置き去りにして、この世を去るわけにはいかない。
それなのに――
ミハエルの体は、他人のものになったかのようにピクリとも動かなかった。
「<ジェムナイト・マディラ>!」
ガキィィィン! と。
激しく鉄を打ち合わせた音が響き渡り、アレクの刃が止まる。
高熱を湛えることで橙色の光を放つひび割れた剣が、アレクの一撃を受け止めたのだ。
見れば、ミハエルをかばうように、青いマントを翻した甲冑の騎士が立っている。
「誰だ、テメエは」
アレクの声は、ミハエルの後方に向けられる。
激しく鉄を打ち合わせた音が響き渡り、アレクの刃が止まる。
高熱を湛えることで橙色の光を放つひび割れた剣が、アレクの一撃を受け止めたのだ。
見れば、ミハエルをかばうように、青いマントを翻した甲冑の騎士が立っている。
「誰だ、テメエは」
アレクの声は、ミハエルの後方に向けられる。
「……神楽屋輝彦。『自称』正義の味方ってとこだ」