にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドM 3-8

「さァ、決闘だ。テメエに勝って、俺は過去の自分と決別する」
 自身に満ち溢れた表情で口の端を釣り上げたアレクは、右手に握っていた大剣を投げ捨てると、左腕のデュエルディスクを展開させた。
「証明してやるよ。俺の信じるデュエリストの強さってやつを」
 それは、かつて敗北に打ちひしがれるデュエリストに向かって、ミハエルが投げた言葉だった。意趣返し、ということだろう。
「…………」
 戦意を剥き出しにするアレクを前に、ミハエルは動かない――いや、動けないといったほうが正しい。
 予期せぬ再会に対しての動揺もある。ミハエルの記憶が正しいのなら、あの一件以来アレクと出会ったことはない。それなのに、アレクはミハエルの存在を明確に記憶していた。その口ぶりから、積年の恨みが溜まりに溜まっているのだろう。
 だが。
 それ以上に、ミハエルは自分が「戦えるかどうか」が不安で仕方なかった。
 無論、天羽のパートナーを引き受けた以上、いつかサイコデュエリストとデュエルすることになるだろうとは思っていた。しかし、いくらなんでも早すぎる。まだ天羽とのデュエルに敗れてから1日も経っていないのだ。覚悟が固まるはずもない。
(認識が甘かった、ってことか)
 ミハエルは己の未熟さを悔いる。
 実体化したモンスターの攻撃を受けることに恐れはない。それよりも、自分のモンスター――カーム達が苛烈な攻撃に晒される光景を見ることに、恐怖を感じた。
 彼女たちは、一体どれほどの痛みを感じることになるだろうか? ……それを想像しただけで、悪寒が走る。
 そして、自分はデュエルに勝つために己のモンスターを切り捨てることができるのだろうか? これは遊びや実力テストなどではない。勝たなければ、さらに多くの犠牲者――サイコデュエリストやカードの精霊の消失――が出るかもしれないのだ。
「……俺は『清浄の地』のメンバーだ。テメエらセキュリティの予想通り、サイコデュエリスト消失事件に関わってる。戦う理由ならこれで十分だろう? さっさとデュエルディスクを構えやがれ」
 ミハエルの沈黙を勘違いしたのか、アレクが自ら進んで正体を明かす。苛々しながらディスクの縁を指でトントンと叩いている赤髪の男は、相当焦れているようだ。
 アレクが「清浄の地」のメンバーであるということは、倉庫内にいるはずの毒島と呼ばれた男も同じ組織の人間と見て間違いない。「精霊喰い」を所持していると思われる伊織清貴に接触するためには、彼らから情報を吐かせなければならない。
「約束してやる。テメエが勝てば望む情報を何でも喋ってやるよ。嘘偽りなく、包み隠さず全部な。……勝てたら、な」
 そんなミハエルの思考を先読みするように、アレクが告げる。
 最後の一言からは、揺らぐことの無い絶対の自信がにじみ出ている。これだけの大言が吐けるのは、それに裏打ちされた実力があるからだろう。
 戦わない理由はない。
 それでも、ディスクを展開するミハエルの動きは緩慢だった。
「……約束は守れよ」
 ようやく絞り出した声は、少しかすれていた。
「俺は決闘者だ。デュエルで交わした約束を反故にするような真似は絶対にしねえ」
 そう言ったアレクの瞳は、いきなりミハエルに襲いかかってきた男のものとは思えないほど真っ直ぐだった。これなら、情報提供の約束に関しては信用しても良さそうだ。
「分かった。それなら、デュエルを始めよう」
「……随分覇気の足りない開幕宣言だな。ま、すぐに本気にさせてやるよ」
 本気――
 今のミハエルの「本気」とは、果たしてどんなものなのだろうか。




「マスター……」
 ディスクにセットされたデッキに触れた途端、不安げに揺れるカームの声が聞こえてくる。姿は見せなかったが、一部始終を見守っていたのだろう。
(……最近の俺は、カームにこんな声を出させてばかりだな)
 カームには助けられてばかりだ。初めて出会ったその時から。
「……大丈夫だ。やれるだけやってみせるさ」
 せめてもの恩返しとして、これ以上カームに心配をかけないよう精一杯強気に振る舞って見せる。少しでも彼女たちのマスターとしてふさわしい決闘者に見えるように。
「先攻はくれてやるよ。来な」
 互いに5枚のカードをドローし、最初の手札とする。
 堂々としたアレクの様子に気圧されながらも、ミハエルはさらに1枚カードをドローする。悪くない初手だ。
「モンスターをセット。カードを1枚伏せてターンエンドだ」
 <ガスタ>の特徴の一つとして、3種のリクルーターによる粘り強い戦線維持が挙げられるが、逆にこちらから仕掛ける手段は乏しい。まずは相手の出方を窺い、攻め手が緩んだときに逆襲を仕掛けるのが定石だ。
 赤髪の男はミハエルのプレイングについて特に何も言わず、ターンが移行する。

【ミハエルLP4000】 手札4枚
場:裏守備モンスター、伏せ1枚
【アレクLP4000】 手札5枚
場:なし

「俺のターンだな」
 デュエルが始まる前の荒々しさとは一転して、冷静な口調で自ターンの開始を告げるアレク。
「……モンスターをセットし、ターンエンドだ」
 あえて先攻を譲ることで初ターンから攻撃を仕掛けてくるかと思ったが、かなり慎重な手を取ってくる。
 事故、という可能性もあるが、おそらくセットされたモンスターはリバース効果を持っているか、墓地に送られることで効果を発動するものだ。伏せカードも無しとは、明らかに誘っている。迂闊な攻撃は避けたいところだが――
(……俺がそう読むのを見越して、アドバンス召喚シンクロ召喚用の素材をセットしている可能性もある)
 堂々巡りになりそうな考えを断ち切る。手っ取り早く真偽を確かめるには、攻撃してみればいいのだ。

【ミハエルLP4000】 手札4枚
場:裏守備モンスター、伏せ1枚
【アレクLP4000】 手札5枚
場:裏守備モンスター