にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドM 3-7

「くっ――」
 両足の痛みに耐えかね、天羽は膝を折る。
 同時に、実体化していた<スクラップ・ドラゴン>が姿を消した。
 地面に手をつきそうになる直前、足元を覆っていた毒の沼が粉末状に変化し、風に流れて消えていく。
(……賭けには勝ったようだな)
 朱野天羽のサイコパワーは、他のサイコデュエリストと比べると非常に弱いものだった。
 モンスターを実体化させていられる時間が極端に短く、約5秒前後。長くても精々10秒が限度だ。魔法・罠は効果を発揮できるカードが限られており、発動すること自体も不安定。はっきり言って使いものにならなかった。
 もし、「黒薔薇の魔女」のような力があれば、毒の沼の範囲外から<スクラップ・ドラゴン>で攻撃することが可能だったろうし、毒島と同じような<ストラクチャー>が使えれば、こんな危険を冒す必要はなかった。
 だが、天羽にそんな力はない。
 ならどうすればいいか。
(無い物ねだりは趣味ではないからな……それでも、私は戦わなければならない)
 「強い自分」を演じるしかない。
 自分が持ちうる手札を最大限活用し、虚勢を張り続けて、朱野天羽という人物を大きく見せるしかないのだ。
 言葉で、行動で相手を圧倒し、生まれた隙に全力でつけ込む。
 そうやって、強引に前に進むしかないのだ。
 それが、天羽の戦い方だった。
(……私にはやるべきことがある)
 そのためにも、まずは「清浄の地」のメンバーである毒島に情報を吐かせなければならない。最優先なのは、「精霊喰い」を所持していると思われるリーダーの居所。
(加減はした。死んではいないはず――)
 <スクラップ・ドラゴン>の攻撃――「ディセーブル・バースト」の直撃を受け、吹っ飛んでいった毒島の姿を視線で追う。
 毒の沼が消えたということは、<アンデット・ワールド>が解除されたのだろうか。それならば、術者である毒島は気を失っている可能性もある――
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
 そんな天羽の予想は、野太い雄叫びによって裏切られた。
「来いッ! <獄炎>!」
 <スクラップ・ドラゴン>の放った光条を打ち消し、体からくすんだ青色の炎を滾らせる四足獣が出現する。黒一色に染まった体からは、不思議と神秘的な雰囲気を感じさせる。その背中には翼のように飛び出た突起物があり、そこから青い煙が噴き出している。
(あれは……<邪神機―獄炎―>か?)
 以前、どこかの捜査資料で見たことがある。天使族である<光神機―桜花―>がアンデット化したモンスターだったはずだ。
 <邪神機―獄炎―>は四本の脚で危なげなく着地する。
「天羽とか言ったなぁッ! 俺に傷を負わせた罪は重いぞ!」
 <邪神機―獄炎―>の背中にまたがり、両目を剥き出しにしてありったけの怨念を込めて叫んでいるのは、毒島霧造だ。体のあちこちに細かい切り傷を負っているようだが、罵詈雑言を飛ばすくらいの元気はあるらしい。少し手加減しすぎたかな、と天羽は後悔する。
「貴様は、絶対に俺の手でグチャグチャにしてやる……!」
「……面白い。なら、腐らせるのが勿体ないくらいに美貌を磨いてくるとしようか」
「ほざけッ!!」
 すでに両足の痛みは限界に達し、まともに頭が回転しない状況だったが、それでも天羽は軽口をひねり出してみせる。ここで相手に弱みを見せるわけにはいかない。
 しかし、これはあまり好ましくない展開だ。
 毒島が<邪神機―獄炎―>で直接的な暴力を行ってきた場合、天羽にはそれを避ける術がない。腐って溶けてしまった足の裏をまともに見ることができないような精神では、カードを実体化させることなど不可能に近い。
 内心焦りつつも、それを表に出すことなく天羽は毒島の視線を真正面から受け止める。
「……チッ。覚えてろよ」
 やがて、大きな舌打ちをした毒島は、<邪神機―獄炎―>に命じてミハエルたちがいるであろう場所とは別の出口に向かって走っていった。
「――ふう」
 何とかこの場は切り抜けたようだ。
 本当なら毒島の後を追いたいところだが、満足に立つことすらできない体では難しい。
 そして――
「……ミハエル君」
 パートナーとして選んだミハエル・サザーランドの救援に駆けつけることもできない。
「痛ぅ……」
 匍匐前進の要領でずりずりと体を移動させ、近くの柱に寄り掛かった天羽は、ジャケットのポケットから携帯電話を取り出した。