にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドS 2-6

「何これ! サクサクしてて甘くてすっごくおいしい!! ねえねえ亜砂! これなんてお菓子!?」
「それはチュロスって言ってね――」
「あ! あそこのお店のクレープもおいしそう! 次はあそこにしよっ!」
「……ついでって言ったのはどこのどいつだっけなァ」
 左手にソフトクリーム、右手にチュロスを持ってはしゃぐ紫音の後ろで、朧が呆れ顔を浮かべている。
 一夜が明け、亜砂、紫音、朧、フェイの4人はラリラリストリートへと足を運んでいた。
 石畳の道が真っ直ぐと伸び、左右に様々な飲食店が並んでいて、そこかしらから食欲をそそる匂いが漂ってくる。紫音の興味はスイーツに向いているようだが、ファーストフードや飲茶を売っている店も多い。
 紫音が大きめのチュロスをぺろりと平らげている隣で、フェイがすっかり冷めきったたい焼きをもくもくと食べている。
 首からデジカメを提げた亜砂は、そんな2人の様子を手にしたメモ帳に書き込んでいく。この調子なら、グルメリポートは苦労せずに仕上がりそうだ。スイーツ特集になりそうだが。
「クレープっ、クレープっ! トッピングは何にしようかな~」
 と、うれしそうに飛び跳ねる紫音に、
「……クレープはいいが、気付いてるんだろうな? 尾けられてるぞ」
 耳元に顔を寄せ、朧は釘を刺すように小声で言う。
「――き、気付いてるわよ! うるさいな! 随分へったくそな尾行だから、相手がボロを出すのを待ってただけ!」
 真っ赤になって言い返した紫音は、危うくソフトクリームを落としそうになる。
 ……紫音や朧はこう言うが、亜砂には誰かに尾行されていることなどさっぱり分からない。これで下手なら、達人はどんな尾行をするのだろうか。相手の真後ろにいても気付かれないんだろうか。
「で、どうすんだ?」
 尾行しているのは十中八九レアカード狩りの犯人だろう。亜砂の近くでデュエルディスクを付けているのは紫音と朧だけで、食べ歩き通りという場所のせいでかなり目立つ。犯人を釣るためのエサとしては、思った以上に効果的だったようだ。
「……そうね。ここからは別行動にしましょう。あたしは路地裏とか人気のないところを歩いてみる。朧はフェイと亜砂を連れてこのまま通りを歩いてて。レアカード狩りが目的なわけだし、ディスクを付けていない人間を襲うとは思えないけど、あたしたちと一緒にいるところを見られてるからね。万が一に備えて、アンタが2人を守りなさい」
「へえ? 別に俺が囮役をやってもいいんだぜ? お前はまだ食べたいお菓子がいっぱいあるだろうからな」
「お菓子はついでって言ったでしょこのバカ! あたしみたいな美少女が囮やったほうが、相手も油断するってことまで分かりなさいよ!」
「あー、はいはい。分かった分かった」
 昨日だったらここで口喧嘩に発展するところだが、今日は朧に精神的アドバンテージがあるらしい。馬鹿と罵られても顔色一つ変えない。
 紫音はそんな朧の様子がかなり不服そうだったが、
「うー……じゃ、あとで合流よ。何かあったら連絡ちょうだい。番号は昨日教えたわよね?」
 これ以上突っかかっても無駄骨と判断したのか、肩を落としながらも話を進める。
「そっちこそ、やべえと思ったらすぐに退いて連絡よこせよ。あんま自分の力を過信してると、足元すくわれるぞ」
「余計なお世話」
 べー、と舌を出す紫音。明らかに不機嫌である。
「……くれぐれも気を付けてください。相手がサイコデュエリストである可能性もあります」
「分かったわ。心配してくれてありがとね、フェイ」
「態度違いすぎないかオイ!」
 3人の漫才のようなやり取りを眺めた後、亜砂は紫音の前に立ってから、口を開く。
「それじゃ、私は紫音ちゃんの分のお菓子買っておくね。後で一緒に食べよう?」
 亜砂の言葉に、少女は視線を逸らしながらも頷いた。











(本当に釣れた。分かりやすいわね)
 適当な路地裏に入った紫音の背後に、間隔を開けつつ後を追ってくる人影がある。狙い通り、紫音にターゲットを絞ったようだ。
 内心でほくそ笑みながら、紫音は何の前触れもなく歩みを止める。
 後ろの人影が、慌てて隠れるのがはっきりと分かった。
「……あたしに何か用かしら? レアカードハンターさん?」
 紫音はくるりと振り向くと、誰もいない空間に向かって告げる。
 すると、柱の影から金髪の男が姿を現した。
「俺の正体を知ってるみてえだな。だったら話は早い」
 乱雑に染めた金髪をツンツンに逆立て、黒のレザージャケットを着た男は、相手を威圧するように睨みつけてくる。その左腕には、当然のごとくデュエルディスクがあった。
「痛い目見たくなかったら、ディスクごと置いていきな! 身体は大事にした方がいいぜ? 女の子なんだしよ」
 自分で言いつつ、ケラケラ笑う男。何が面白いのか理解できない。
「お生憎様。アンタみたいな下衆に気を使ってもらうほど安い女じゃないの」
 男を見下すようなニュアンスを込めて言い放つ。
「このアマ……! もういい、デュエルだ! お前のレアカードは、この金盛様がぶんどってやる!」
 簡単に挑発に乗った上に、名前まで明かしてくれるとはラッキーだ。
 こんな間抜けな男が「清浄の地」と関わっているとは思えないが、ここはひとつオシオキをしてやるとしよう。
「いいわよ。あたしが負けたら、ディスクごとくれてやるわ。ただし、あたしが勝ったらアンタは下僕その2だからね!」
「ほざけ! 泣いて謝っても許してやらねえからな!」
 2人のディスクが同時に展開する。
 朧にからかわれた鬱憤を晴れていくのを感じながら、決闘は幕を開けた。