にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドS 4-6

「容赦しない、ね。そんなチンケな脅しであたしたちが引き下がると思ってるの?」
 セシルの鋭い眼光に怯むことなく、紫音は嘲笑混じりの言葉を返す。
「お前たちの素性は桐谷から聞いている。目的は皆本信二の奪還か……用があるのはサイコデュエリストだけだ。一般人は巻き込むつもりはない。危険だから下がっていてくれ」
 だが、セシルはそれに取り合わずに、<ラヴァル・グレイター>の前に出ると、亜砂とフェイに向けて告げた。
「……随分と殊勝な心がけじゃない」
 紫音が<ラヴァル・グレイター>の攻撃を回避した時。亜砂を抱きかかえた状態のままでは、追撃を受けた場合対処のしようが無かった。朧だって、フェイを連れたままでは防戦に回らざるを得なかっただろう。サイコデュエリストを潰すだけなら、同行している一般人を巻き込んだ方が遥かに簡単なのに、セシルはそれをしなかった。つまり、彼の言葉は真実なのだろう。
「……私は、下がらないよ」
 異常な熱気が渦巻く場に、澄んだ声が響く。
「私は紫音ちゃんの傍にいるって決めたの。だから、下がらない」
「亜砂……」
 何の力も持たない平凡な雑誌ライターが、炎の戦士を具現化させているサイコデュエリストに向かって、はっきりと告げる。
 紫音はすぐ近くにある亜砂の顔を見る。
 その視線に気づいた亜砂は、「大丈夫だよ」といった笑みを返してくれる。
 自分のことを心配して、傍にいてくれる人がいる。
 それがたまらなくうれしかった。
「……不本意だが、忠告に従わないと言うなら仕方ないな。怪我を負ってから後悔しても知らないぞ」
 気落ちしたようにため息を吐いたセシルは、わずかに右手を挙げる。
 彼の背後に控えていた<ラヴァル・グレイター>が身じろぎする。
「君たちはどうなんだ? 危険と分かっていながら、進むと?」
 眼光を緩めないまま、セシルは朧とフェイに話を振る。
「…………」
 フェイは朧の背に隠れたままうつむいていたが、
「――俺が守ればいいだけの話だ。だから、進ませてもらう……だが、故意にフェイに手を出してみろ。その瞬間、テメエが死地に飛び込むことになるぜ」
 朧は三白眼をギョロつかせて、青髪の少年を睨みつける。
「紫音ちゃん」
 セシルが朧たちに気を取られている隙に、紫音の腕の中から離れた亜砂が話しかけてくる。
「……なに?」
「私は、紫音ちゃんの傍にいて、紫音ちゃんを守る。だから――」
 紫音のデュエルディスクにそっと両手を重ねた亜砂は、

「紫音ちゃんも、私を守ってね」

 優しい微笑みと共に、囁いた。
「……うん!」
 紫音は、力強く頷く。
 エリアを探すために家を飛び出してから――いや、エリアがいなくなったあの日からずっと纏わりついていた得体のしれない不安。寂しさ。
 それらが綺麗さっぱり消えていくのが分かった。
 エリアを助けるために。
 そして、亜砂を守るために。
 紫音は、新しく戦う理由を見つけた。
「……そんじゃ! まずは先手必勝!」
 勢いよくセシルの方に体を向けた紫音は、流れの中で<イビリチュア・ソウルオーガ>のカードをディスクにセットし、サイコパワーによって具現化させる。
 次の瞬間には、<イビリチュア・ソウルオーガ>の手のひらから濁流が噴き出していた。
 濁流は恐るべき速度で、セシルと<ラヴァル・グレイター>を呑み込まんと迫る。
「――ッ!」
 それに気付いたセシルが右腕を振るうと、主人を守るように前に出た戦士が、蒼い炎を纏った右拳を突き出す。
 濁流と拳が激突する。
 その瞬間――
「朧!!」
 紫音は若槻朧の名を叫んだ。
「……悪い、ここは任せるぞ!」
 刹那の内に紫音の意図を理解した朧は、フェイの手を引いて全力で駆け出す。
 紫音の攻撃によってセシルの足を止め、その隙に朧とフェイはこの場を抜ける。
 セシルがどの程度の力を秘めているのかは未知数だ。4人でこの場で留まり時間を浪費するよりも、戦力を分散させて桐谷を追ったほうがいい。
 が。
「行かせるか! <ラヴァル・グレイター>!!」
 セシルはその考えを看破していたようだ。
 <ラヴァル・グレイター>は空いていた右拳で、受け止めていた濁流にアッパーカットを叩きこむ。
 ボシュッ! と一瞬で濁流が蒸発し、攻撃から解放された<ラヴァル・グレイター>が朧とフェイに迫る。
「チッ!」
 朧はデッキからカードを引き抜き、ディスクにセットしようとするが――
「余所見禁物!」
 猛進していた炎の戦士の体が、くん、と何かに引っ張られるように傾く。
 見れば、赤の炎を纏った左腕に、細い鎖が何重にも巻きついている。
「貴様――」
「こっちが本命!」
 濁流を放った<イビリチュア・ソウルオーガ>の陰。
 そこには、鎖を投擲した海竜――<リチュア・チェイン>の姿があった。
「くっ……」
 駆ける朧と、鎖を放った<リチュア・チェイン>。
 どちらを攻撃するべきか、セシルが逡巡する。
 それだけで十分だった。
「畳みかけるわよ! <ソウルオーガ>!」
 紫音がビシリと標的を指差すと、再び<イビリチュア・ソウルオーガ>の手のひらから濁流が発射される。
 迎撃するために、<ラヴァル・グレイター>は足を止めざるを得ない。
 その内に朧とフェイはセシルの脇を抜け、走り去っていった。
「くそ……逃がすか!」
 なおも朧たちを追おうとするセシルに対し、
「しつこい! あんたの相手はあたしよ!」
 紫音は<イビリチュア・ソウルオーガ>に指示し、濁流の出力を上げる。
「――ッッッ!」
 度重なる妨害に苛立ちが限界に達したのか、追うことを諦めた様子のセシルは、こちらに向き直る。
「いいだろう……そこまで望むなら、相手をしてやる!!」
 そして、腹の底から絞り出したような低い声で、吠えた。
 その叫びに呼応するように、<ラヴァル・グレイター>の纏う炎が激しさを増す。
 鎖が引きちぎれ、濁流が蒸発する。
「……そうこなくちゃ」
 周囲の気温は上昇しているというのに、紫音の額からは冷や汗が流れてきた。それだけ、セシルの発する重圧がすさまじいということだろう。
 ――伊織のものに比べれば、屁でもないが。
「このまま戦ったんじゃ周りの建物に甚大な被害を与えかねないし、『一般人』を巻き込みかねないわ。だから――」
「分かっている。デュエルで決着をつけるぞ」
 わざわざ「一般人」の部分を強調してみたが、すでにセシルは答えが出ていたようだ。
 お互いにディスクからカードを取り外し、具現化していたモンスターを消す。
「亜砂」
 デッキにカードを戻してシャッフル機能を作動させた後、紫音は亜砂の名前を呼んだ。
「ここにいるよ、紫音ちゃん」
 聞くだけで安心する声が、鼓膜を震わせる。
「あたし、もう大丈夫だから。もう泣かないから」
 背を向けたまま、紫音は告げた。
「勝つわ。見ててね、あたしのデュエル」