にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドS 2-5

「シャワー空きましたよ~朧さんも入ります?」
 Tシャツと短パンという身軽な格好でリビングに入って行った亜砂は、濡れた髪をタオルで拭きながら朧に呼びかける。
 それに気付いた朧は、亜砂を見てギョッとする。目を逸らして顔を赤くしたことから、亜砂のエロティックな身体つきにやられたんだろう。
 ちなみに紫音は、亜砂から借りた大きめのTシャツを着ているだけだ。今まで着ていたノースリーブのシャツとチェックのスカート、ついでに下着まで、亜砂が勝手に洗濯してしまった。現在乾燥機に放り込まれているので、渇くまではこの格好でいるしかない。
「い、いや、俺は遠慮しておく。フェイと一緒に入るつもりだったんだが、寝ちまったみたいだしな」
 亜砂の姿を視界に入れないようにしながら、朧が妙に浮ついた声で答える。
「えっ……!?」
「ちょっとアンタ……」
 朧の言葉に、紫音と亜砂はその場で凍りついた。
「フェ、フェイちゃんと一緒に入るって……」
「アンタ自分で何言ってるか分かってるの!? 犯罪よ犯罪! サイッテー!」
 女性陣2人は、即座に非難の言葉を浴びせる。
「待て! どうして犯罪になるのかワケ分からん!」
 しらばっくれる朧に対し、紫音はソファで寝ているフェイを指差し、
「もしかして、今までもこんな可愛い女の子とお風呂入ってたワケ!? このロリコン!!」
 隣の部屋まではっきり響きそうな大声で叫んだ。
 頬を紅潮させた亜砂も、うんうんと力強く頷いている。
 すぐ近くで大声を上げられたことにも構わず、フェイは安らかな寝息を立てている。膝を丸め、うつぶせで寝転がる姿は、どう見ても10歳程度の少女のそれだ。しかも、とびきりの美少女である。初めてフェイの顔を見たときは周りが薄暗かったためよく分からなかったが、こうして明かりの下で見ればはっきりと分かる。
 朧は呆気に取られたような顔になり、
「……いや、フェイは男だぞ?」
「…………………………」
「…………………………」
 再び場の空気が停止する。
「何なら確認するか?」
「ふざけないでこのショタコン
 朧は「ショタコン!?」と心外そうな表情を浮かべていたが、さすがに冗談が過ぎたと感じたらしい。それ以上は言い返してこなかった。
「さて。今後の方針について説明しておくわよ……と、その前に。亜砂!」
「は、はい?」
 急に名前を呼ばれた亜砂は、反射的に背筋を伸ばす。
「あたしの取材をするのはOKだけど、記事にするのは一連の事件が全部片付いてからよ。記事のせいで連中に逃げられたら元も子もないからね」
「……分かったわ。肝に銘じておく」
 亜砂に釘を刺した紫音は、手に持っていたスマートフォンを操作し、「清浄の地」についての情報をまとめたファイルを呼び出す。
「話を戻すわよ。ラリラリストリート……って変な名前ね。そのラリラリストリートってところで、強引に賭けデュエルを行い、レアカードをぶんどる事件が起こってるみたい。その犯人と思われる人物が『清浄の地』のメンバーであることをほのめかしているとか」
「レアカード狩り? そんな話は聞いたことないが……」
「『清浄の地』が関わっていることが濃厚な事件は、すでにセキュリティが調べてるだろうしね。こういった小さな事件から当たって行こうと思って」
「……確かに。それは一理あるな」
 セキュリティが見逃している小さな事件にこそ、有力な手掛かりが転がっているものだ。レアカード狩りを行っている犯人は「清浄の地」の名を騙っている可能性が高いが、もしかしたら本物に繋がる情報を持っているかもしれない。
「あ、ラリラリストリートなら知ってるよ。クレープとかアイスとか手軽に食べられるものを扱った食べ物屋さんが多くて、別名食べ歩き通りって言われてるの」
「食べ歩き通りねぇ。そんなとこでレアカード狩りやってるなんて、犯人は大食らいの巨漢かしら」
「スイーツ大好きのギャルかもしれないね……あ」
 何かに気付いたように動きを止める亜砂。
「どうしたの?」
「もしラリラリストリートに行くなら、私のグルメリポートを手伝ってもらいたいんだけど……ダメかな?」
 舌を出して申し訳なさそうに頼んできた亜砂は、事情を説明し始める。
 次号に掲載予定のグルメリポートの取材内容を誤って消してしまい、また一からやり直しなのだという。「清浄の地」に関する記事は確実に間に合わないだろうし、どうせ食べ歩き通りに行くのなら、同時に取材も済ませてしまいたい、とのことだった。
「別に構わないんじゃないか? むしろ、食べ歩き通りなんて言われてるところで、何も食べずにうろうろしている方が不自然だろうしな。店の人間からの情報収集もしやすい」
 というように、朧はグルメリポートの取材に肯定的なようだが、
「むー……あたしたちは『清浄の地』の手掛かりを探しに行くのよ? そんな浮ついたことしてる暇ないと思うんだけど」
 紫音は「緊張感が足りない」と言わんばかりに口を尖らせる。
「ま、いいじゃねえか。ついでだよついで」
「……そうね。でも、メインはレアカード狩りの件について調べることなんだからね! グルメリポートの取材はおまけなんだからね!」
 朧に諭された紫音は、念を押すように言ったあと、渋々ながら頷いた。