にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドS 2-3

 ――まずい。完全に置いてきぼりになっている。

「あ、あの! ちょっといいですか!!」
「うわあびっくりした! な、何よもう!」
 大声を上げながらガタタッと身を乗り出した亜砂は、勢いよく手を挙げる。
 突然のことにびっくりしたらしい紫音は、ビクゥ! と体を震わせ跳び上がる。
「大体の事情は分かりました。紫音さんは『清浄の地』を追ってるんですよね? なら、私に取材させてください!」
「……取材?」
 亜砂の突拍子もない発言に、紫音は戸惑いを見せる。
「もちろんタダでとは言いません。私の部屋は自由に使ってもらって結構ですし、私にできることがあるなら手伝います。だから、密着取材をさせてください! お願いします!」
 亜砂は紫音に向かって思いっきり頭を下げる。
 が、
「ひゃう!」
 勢いがつきすぎたせいで、テーブルに頭をぶつけてしまった。
 じんじんと痛む額を抑えながら、亜砂は考える。
 いくら世間の目がWRGPに向いているとはいえ、今まで闇に包まれていた「清浄の地」の詳細が判明し、それがサイコデュエリスト消失事件に関わっているとしたら、それは大スクープとなるだろう。弱小雑誌である月刊ドミノリポートも、重版に次ぐ重版で飛ぶように売れるはずだ。スクープを掴んだ亜砂には、有名出版社から引き抜きの話が舞い込むかもしれない。
 仮に紫音が「清浄の地」に辿りつくことができなかったとしても、サイコデュエリストの傍にいれば、ネタにできそうな刺激的な体験には困らないだろう。
 いずれにしろ、狭い編集部で上司に怒鳴られるような毎日からは解放される。このチャンスを生かさない手はなかった。
(自分のグラビアが雑誌に載るなんて絶対に嫌だしね……!)
 露出度の高い衣装を着せられ、たくさんの男に囲まれながら写真を撮られている光景を想像するだけで、寒気がしてくる――男性恐怖症というわけではないのだが。
「……危険です。やめたほうがいいですよ」
 最初の返事は正面に立つ紫音からではなく、別の方から来た。
 頭を上げて見てみれば、フェイが辛そうな表情で目を伏せていた。
「確かあんたは雑誌編集者だったな。大方『清浄の地』のことを記事にしてスクープを狙ってんだろうが、フェイの忠告を聞いておいたほうがいい。おそらく『清浄の地』のメンバーの全員がサイコデュエリストだ。サイコパワーを使ったデュエルは、周囲に多大な影響を与える。何の力も持たない一般人が巻き込まれれば、命を落とすかもしれない」
 押し黙ったフェイの気持ちを代弁するように、朧が言葉を紡ぐ。
「それに、『清浄の地』のことを嗅ぎまわれば、あんたも命を狙われるかもしれない」
 朧の真っ直ぐな視線が、亜砂を貫く。その瞳には、少しだけ怒気が浮かんでいるように見えた。
 ――でも。
「き、危険なのは百も承知です。自分の身を危険に晒さずにスクープが得られるとは思ってませんから」
 ここで諦めるわけにはいかなかった。
 引こうとしない亜砂に、朧は次の言葉を探しているようだったが、

「――分かったわ。あたしの華麗なる戦いっぷりを、しっかり記録してね」

 そんな彼を押しのけるように、紫音は胸を張りながら高らかに宣言した。
「は、はい! ありがとうございます紫音さん!」
「敬語はいいわ。アンタのほうが年上でしょ」
「うん分かった紫音ちゃん! 大好き!」
「変わり身早すぎない!?」
 思わず目の前の少女に抱きつこうとするのをこらえながら、亜砂は隠れてガッツポーズをする。これで、あの偉そうな編集長の鼻を明かしてやることができる。
「……おい。関係ない一般人を巻き込むつもりか?」
 亜砂の喜びを吹き飛ばすかのような低い声が、朧の口から漏れる。
「これだけ色々喋っちゃったんだし、無関係ってわけでもないでしょ」
 明らかに怒っている朧を前に、紫音は変わらぬ調子で言い放つ。
「俺が言いたいのはそういうことじゃなくてだな――」
「ふうん。アンタ、サイコデュエリストのくせして一般人1人も守れないんだ?」
「――何だと?」
 紫音の挑発めいた言葉に、朧はピクリと眉を動かす。三白眼の瞳がぎょろりと動き、紫音を睨みつける。
「ま、安心しなさい。亜砂のことはあたしが守るわ。何なら、アンタのことも守ってあげてもいいわよ?」
 全く動じていない紫音は、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「余計な御世話だ。俺はずっとフェイを守ってきた。二条のことも守るくらいワケないさ。お前は自分の身だけで精一杯だろうからな」
 対し、朧は額に青筋を浮かべながら言い返す。
「はん。あたしに負けた分際で何言っちゃってるの?」
「だから負けてねえだろ!」
 再び舌論――いや、悪口の言い合いを初めた2人。
「あ、あはは……」
「はあ。朧ったらすぐ挑発に乗るんだから……」
 渇いた笑い声を漏らす亜砂の隣で、フェイが大きなため息を吐いているのが、妙に印象に残った。