にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドS 2-4

 温かな雨が、紫音の体に纏わりついた汗を流していく。
 部屋と同様に狭いバスルームだったが、1人暮らしならこんなものなのだろう。
 無数の水滴が肌を打つ感触に心地よさを感じながら、紫音はゆっくりと両目を閉じた。
 清らかになっていく体とは別に、心の奥底は淀んだままだった。

 ――隠していることが2つある。

 朧とフェイ、そして家主である亜砂には大体の事情は伝えたが、彼らに隠していることがあった。
 1つは、奪われた「大切なもの」が<水霊使いエリア>であること。
 そしてもう1つは――紫音が家出中ということである。
 上凪財閥(かみなぎざいばつ)。ネオ童実野町に本拠を構える、世界有数の大財閥である。多岐にわたるジャンルの会社を傘下に持ち、世界に与える影響は大きい。
 紫音は、その大財閥の娘だった。
 とはいっても、4人兄妹の末娘で、すでに3人の優秀な兄や姉が後継ぎとして活躍している。そのため、両親から期待されることなど何もなかった。
 世界有数の財閥の娘が家出したとなれば大騒ぎになりそうなものだが、今のところ目立った騒ぎにはなっていない。セキュリティに通報されたのか、財閥の傘下にある会社の手で捜索を行っているのかは分からない。怪しい情報屋の手を借りているとはいえ、家出などしたことのない15歳の少女を捜し出すことなど、上凪財閥の力ならばそう難しくはないはずだ。それなのに、紫音が未だ自由に行動できる理由は――
(……お父さんもお母さんもお兄ちゃんもお姉ちゃんも、あたしを本気で探してないんだ)
 探すことすらしていない、とはさすがに考えたくなかった。
 蛇口をひねり、シャワーから降り注ぐお湯を止める。
 紫音はいつもひとりぼっちだった。
 あの日――<水霊使いエリア>のカードに宿る精霊の姿が見えるようになるまでは。
(エリアや家のことは、わざわざ自分から口にすることじゃない。それに……)
 隠し事をしているのは紫音だけではない。
 朧とフェイも、まだ全てを明かしたわけではないはずだ。
 はっきりとした証拠があるわけではないが、紫音の勘はそう言っていた。
(ま、とりあえず寝床は確保できた。あとはセラの情報をもとに連中の足取りを探らなきゃ)
 紫音がこれからの予定を頭の中で組み立てているところだった。

「紫音ちゃーん! お背中お流ししますー!」

 バターン! と勢いよくバスルームの扉が開き、キラキラと瞳を輝かせた亜砂が入ってくる。
 もちろん、一糸まとわぬ姿で、だ。
「ちょ、ちょっとなんでいきなり入ってきてんの!? 人がシャワー浴びてるときに入ってこないでしょフツー!」
「えー、女の子同士なんだから別にいいじゃない」
「意味分かんないから!」
 紫音は顔を真っ赤にしながら叫ぶ。
 いくら同性だからといって、会ったばかりの人間に裸を見られるのはとてつもなく恥ずかしい。紫音としては、まだそこまで心を許したわけではないのだ。
 そんな少女とは逆に、亜砂はきょとんと首をかしげている。何故恥ずかしがるのか分からないといった様子だ。
「うー」
 紫音は唸りながら亜砂の裸体に視線を向ける。
 ふんわりと膨らんだ茶髪のボブカットに、ぱちくりと動く大きな瞳。
 ボリューム抜群で、張りのある胸。
 官能的なくびれ。
 むっちりといい具合に肉のついたヒップ。
 女性なら一度は憧れる、理想的なボディラインだった。
「?」
 じっと見つめられた亜砂は、頭に疑問符を浮かべる。
 紫音は、自分の身体に視線を落としてみる。
 貧相な胸が目に入った時点で、考えるのをやめた。
「……はあああぁ。それじゃせっかくだから背中流してくれる?」
「うん! 任せて!」
 腕まくりのポーズをとって、張りきる亜砂。
 ぽよんと揺れた2つの果実を目の前にして、紫音は大きなため息を吐いた。

(……発展途上なだけだもん。いつか大きくなるもん)