にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドM 2-6

「俺のターンっスね」
 こちらから仕掛けないと、決闘は進展しない。
 守りに徹し相手が痺れを切らすのを待つこともできるが、2ターン目でそれはさすがに消極的すぎる。手加減をしていると判断されかねない。
「仕方ない。ここは行くしかないか……<ガスタ・サンボルト>を召喚!」
 「ワオーン!」と遠吠えを上げ現れたのは、エメラルドグリーンの毛を生やした犬だ。額には一角獣のような角が生え、パリパリと雷光が爆ぜている。

<ガスタ・サンボルト>
効果モンスター
星4/風属性/雷族/攻1500/守1200
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた場合、
そのバトルフェイズ終了時に自分の墓地に存在する
「ガスタ」と名のついたモンスター1体をゲームから除外する事で、
自分のデッキから守備力1500以下の
サイキック族・風属性モンスター1体を特殊召喚する。

 アタッカーとしては心許ない攻撃力だが、<ガスタ>の下級モンスターの中では高い方だ。
「バトルフェイズに入ります! <ガスタ・サンボルト>で伏せモンスターを攻撃!」
 <ガスタ・サンボルト>がフィールドを駆け抜け、雷を纏った額の角で天羽の裏守備モンスターを貫く。
 はずだった。
 ガキィィン! と甲高い金属音が響き渡り、<ガスタ・サンボルト>の角が弾かれる。
 カードがリバースし、伏せモンスターが正体を現す。
 頭は水道の蛇口と鍋、胴体はカメラ、足は洗濯バサミと、いくつものジャンク品が組み合わさって小人の姿を形成している、奇妙なモンスターだった。
 戦闘ダメージは無い。ということは、<ガスタ・サンボルト>の攻撃が通らなかったのは相手の守備力が上回っていたからではなく、何かしらの効果によるものだ。
「私の伏せモンスターは<スクラップ・ゴブリン>。戦闘では破壊されない。表側守備表示で攻撃対象に選択された時は自壊してしまうが、今は裏側守備表示だった。よって、自壊効果は発動しない」

<スクラップ・ゴブリン>
チューナー(効果モンスター)
星3/地属性/獣戦士族/攻   0/守 500
フィールド上に表側守備表示で存在する
このカードが攻撃対象に選択された場合、
バトルフェイズ終了時にこのカードを破壊する。
このカードが「スクラップ」と名のついた
カードの効果によって破壊され墓地へ送られた場合、
「スクラップ・ゴブリン」以外の自分の墓地に存在する
「スクラップ」と名のついたモンスター1体を選択して手札に加える事ができる。
また、このカードは戦闘では破壊されない。

「なるほど、序盤の壁役としては最適ってことっスか……」
「その通りだ。君が最初にセットしたモンスターを反転召喚し攻撃に参加させていれば、このターンで破壊する事が可能だったがね」
 ――相手の手の内が読めないうちに、そんな危険な真似をできるはずがない。
「ターンを終了しますよ」
「そうか。では私も少し動かせてもらうとしよう」
「……ッ」
 そのセリフを聞き、ミハエルは相手の場にチューナーモンスターを残した事を後悔した。

【ミハエルLP4000】 手札4枚
場:ガスタ・サンボルト(攻撃)、裏守備モンスター、伏せ1枚
【天羽LP4000】 手札5枚
場:スクラップ・ゴブリン(守備)

「私のターンだ。ドロー!」
 天羽はあらかじめ次の手を決めていたようで、考える間もなく動く。
「魔法カード<おろかな埋葬>を発動。デッキから墓地に送るモンスターは<スクラップ・サーチャー>だ」

おろかな埋葬>
通常魔法(制限カード)
自分のデッキからモンスター1体を選択して墓地へ送る。

 わざわざ墓地に送ったということは、墓地で効果を発動するモンスターと見て間違いない。
「そして、<スクラップ・ゴブリン>をリリースして<スクラップ・ゴーレム>をアドバンス召喚!」
 <スクラップ・ゴブリン>が光に包まれその姿を消した後、<スクラップ・ゴーレム>がアドバンス召喚される。古びた冷蔵庫の上に旧型の電子レンジが乗っており、それが頭のようだ。不揃いなパーツを縛りつけるように錆びた水道管が巻きついており、右手は換気扇のファンになっている。

<スクラップ・ゴーレム>
効果モンスター
星5/地属性/岩石族/攻2300/守1400
1ターンに1度、自分の墓地に存在するレベル4以下の
「スクラップ」と名のついたモンスター1体を選択し、
自分または相手フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 <スクラップ>……その名の通り、廃品として捨てられた物品で形成されたモンスター群のようだ。
「<ゴーレム>の効果を使う。このモンスターは1ターンに1度、自分の墓地に存在するレベル4以下の<スクラップ>と名のついたモンスターを、フィールド上に特殊召喚できる。私が特殊召喚するのは先程墓地に送った<スクラップ・サーチャー>だ」
 チューナーである<スクラップ・ゴブリン>を蘇生しなかったということは、狙いはシンクロ召喚ではないらしい。そうなると、さらに攻め手を増やしたのかそれとも守りを固めるのか――ミハエルは天羽の戦術に考えを巡らせる。
 次の瞬間。
 ズザザザザ! と、ミハエルのフィールドに「何か」が大量に降り注ぐ。
「なっ……!?」
 突然の出来事に驚きながらも、ミハエルは目を凝らす。
 フィールドに降り注いでいるのは、矢じりのように尖った金属片だ。
 それを受けた<ガスタ・サンボルト>が、苦しげな鳴き声を上げながら倒れ、砕け散る。
「先輩、一体何を――」
「<スクラップ・ゴーレム>は自分の場だけではなく、相手の場にも墓地の<スクラップ>を特殊召喚する事ができる。つまりはそういうことだ」
 ミハエルが頭上を見上げると、そこには鉄板の切れ端や曲がった鉄棒などで形作られた、1羽の鳥が飛んでいた。その背には3つのサーチライトが取り付けられており、フィールドに明かりを落としている。
「<スクラップ・サーチャー>……特殊召喚に成功した時、<スクラップ>と名のついたモンスター以外の表側表示モンスターを全て破壊する、ですか」

<スクラップ・サーチャー>
効果モンスター
星1/地属性/鳥獣族/攻 100/守 300
このカードが墓地に存在し、自分フィールド上に存在する
「スクラップ・サーチャー」以外の「スクラップ」と名のついたモンスターが破壊され、
墓地へ送られた時、このカードを墓地から特殊召喚する事ができる。
このカードが特殊召喚に成功した時、「スクラップ」と名のついたモンスター以外の
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊する。

 つまり、天羽は<スクラップ・ゴーレム>の効果でミハエルの場に<スクラップ・サーチャー>を特殊召喚し、その効果により表側表示だった<ガスタ・サンボルト>を破壊したのだ。幸いだったのは、裏守備だった<ガスタの巫女 ウィンダ>が破壊されなかったことだろうか。
「これくらいで感心してもらっては困るぞ。バトルだ! <スクラップ・ゴーレム>で<スクラップ・サーチャー>を攻撃!」
 廃品の巨人が鈍重な動きで右腕を振り上げると、先端についた換気扇のファンが回転を始める。
(まずいッ――!)
 特殊召喚された<スクラップ・サーチャー>は攻撃表示。その攻撃力はたったの100。
 ブオン! と空気を押し退ける音が響き渡り、<スクラップ・ゴーレム>の右腕が振り下ろされる。
 低い位置で滞空していた<スクラップ・サーチャー>は、一撃を受けあっという間にバラバラになる。
「くっ……」

【ミハエルLP4000→1800】

 <スクラップ・サーチャー>を構成していた鉄屑が舞い散る光景を目にし、ミハエルの脳裏に今朝見た夢の内容が蘇る。
 モンスターは道具ではない。共に戦ってくれる仲間。
 名前も思い出せない少年は、かつてのミハエルにそう説いた。
「あなたは――」
 自然と口が動く。
「あなたは、自分のモンスターの事をどう思ってるんですか? こんな戦い方をして、先輩の心は痛まないんですか!? 自分の仲間にバラバラにされたモンスターの悲鳴が聞こえたんスか!? 天羽先輩!!」
 怒りと悲しみと恐怖が入り混じった複雑な感情を抱いたまま、叫ぶ。
 ミハエルは確かに聞いた。
 <スクラップ・ゴーレム>に攻撃される直前、小さな鉄屑の鳥は悲しげな電子音を鳴らしたのだ。あれは、間違いなく<スクラップ・サーチャー>の発した悲鳴だ。
 自分にこんなことを言う資格がないのは分かっている。昨日だって、勝つために<ガスタ・イグル>を犠牲にしたのだ。
 だが、この人には言うべきだと思った。問うべきだと思った。
 もしかしたら、今後一緒に行動するかもしれない人だ。精霊の声が聞こえるという天羽が、モンスターたちに対してどのような考えを持っているのか知っておくべきだ。