にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドM 2-7

「……道具だ、と答えれば君は満足かい?」
「なっ――」
 昔の自分と同じスタンスを突き付けられ、ミハエルの頭の中が一瞬真っ白になる。
「失礼。冗談だよ。私はこの<スクラップ>モンスターたちを、共に戦う相棒たちだと思っている。君にはそう見えないかもしれないがね。だが――」
 言葉を区切った天羽の表情から、笑みが消える。
「私には、相棒を犠牲にしてでもやり遂げなければならないことがある」
 その瞳は、限りなく冷たい色を湛えていた。
 それを見た瞬間、ミハエルの中に渦巻いていた怒りが急速に消えていくのが分かった。
 天羽は傍らに立つ<スクラップ・ゴーレム>を見つめる。

「<スクラップ>たちにどれほど恨まれているかは承知の上だ。それでも私は戦わなければならない。相棒たちの屍を踏み越えて前に進む覚悟が私にはある」

「――――」
 言葉を失う。どんな反応をすればいいのか分からなかった。
「カードを1枚セットしてターンエンドだ。君のターンだよ、ミハエル君」
 エンド宣言をした天羽は、先程までの不敵な笑みを取り戻す。
 しかし、ミハエルはその笑顔が今までのそれとは同じに見えなかった。
「大袈裟かもしれないが、あえて問おう。君には覚悟があるかい?」
 突き刺さる天羽の視線を、ミハエルは見つめ返すことができなかった。

【ミハエルLP1800】 手札4枚
場:裏守備モンスター、伏せ1枚
【天羽LP4000】 手札3枚
場:スクラップ・ゴーレム(攻撃)、伏せ1枚

(覚悟だって? どうしてそんなものが必要なんだよ)
 天羽がこれから捜査するであろう「ある事件」というのは、そこまで重いものなのか。だとしたら、自分には絶対に向いていない。
「俺のターン……」
 カードを引く指先が震える。動揺しているのだ。
 モンスターを犠牲にしてでも、前に進む覚悟。
(そんな覚悟、あるはずがない)
 カームは「痛みを力に変えられる」と言っていたが、それは一時の話だ。
 モンスターを犠牲にし続ければ、いつかきっと聞こえてくる。
 ――あの声が。
(余計なことは考えるな。今はデュエルに集中するんだ)
 感情に流されて天羽を問い詰めたのはやぶ蛇だった。彼女のプレイングにいちいち突っかかる必要はない。昨日の馬橋のようにカードを破り捨てたならともかく、さっきの天羽の戦術は純粋に<スクラップ・サーチャー>の効果を生かしただけだ。
 ミハエルは思考を切り替え、自分の手札に視線を落とす。
 まずは、この場を逆転する事が第一だ。
「<ガスタ・ガルド>を召喚します。続いて、伏せモンスター<ガスタの巫女 ウィンダ>を反転召喚。2体をチューニングします!」

<ガスタ・ガルド>
チューナー(効果モンスター)
星3/風属性/鳥獣族/攻 500/守 500
このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、
自分のデッキからレベル2以下の「ガスタ」と名のついた
モンスター1体を特殊召喚する事ができる。

<ガスタの巫女 ウィンダ>
効果モンスター
星2/風属性/サイキック族/攻1000/守 400
このカードが相手モンスターの攻撃によって破壊され墓地へ送られた時、
自分のデッキから「ガスタ」と名のついたチューナー1体を特殊召喚する事ができる。

 召喚された<ガスタ・ガルド>が3つの光球へと姿を変え、<ガスタの巫女 ウィンダ>が光に包まれる。
「聖なる風――我らを守護せしその力を、雷の牙へと変えよ!」
 ミハエルのフィールドを光の柱が貫き、その中からたくましい翼を広げたモンスターが飛び出す。
シンクロ召喚! 薫風の矛、<ダイガスタ・ガルドス>!」
 成長した<ガスタ・ガルド>の背に<ガスタの巫女 ウィンダ>が乗り、手綱を握っている。

<ダイガスタ・ガルドス>
シンクロ・効果モンスター
星5/風属性/サイキック族/攻2200/守 800
チューナー+チューナー以外の「ガスタ」と名のついたモンスター1体以上
1ターンに1度、自分の墓地に存在する
「ガスタ」と名のついたモンスター2体をデッキに戻す事で、
相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して破壊する。

「ほう。これが君のシンクロモンスターか。なかなかカッコいいじゃないか」
 現れたモンスターを見ても余裕を崩さない天羽に対し、
「効果も強力っスよ! <ガルドス>の効果発動! 墓地の<サンボルト>と<ウィンダ>をデッキに戻し、<スクラップ・ゴーレム>を破壊します! ソウル・ヴォルト!」
 ミハエルは軽口を放つ。これ以上天羽のペースに乗せられるわけにはいかなかった。
 巫女の構える杖の先に白い雷が収束し、屑鉄の巨人に向けて放たれる。
 雷が<スクラップ・ゴーレム>を捉える直前、
「ここは動かせてもらおう。<スクラップ・ゴーレム>を選択し速攻魔法<スクラップ・スコール>を発動。デッキから<スクラップ>と名のついたモンスター1体を墓地に送り、カードを1枚ドローする。生憎墓地に送りたいモンスターは手札にいるのでね。ここは<スクラップ・シャーク>を墓地に送る。そしてカードを1枚ドローし、選択したモンスターを破壊する」

<スクラップ・スコール>
速攻魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する「スクラップ」と名のついた
モンスター1体を選択して発動する。
自分のデッキから「スクラップ」と名のついたモンスター1体を
墓地へ送り、カードを1枚ドローする。
その後、選択したモンスターを破壊する。

 リバースした伏せカードから巻き起こる衝撃によって、<スクラップ・ゴーレム>は砕け散った。
「……ッ」
 ミハエルは叫びたくなる衝動を抑える。どんなプレイングをしようが人の勝手だ。それに、天羽はモンスターに恨まれるのを覚悟でデュエルをしている。
 <ダイガスタ・ガルドス>の効果は避けられたものの、結果として<スクラップ・ゴーレム>を破壊できたことに変わりはない。
(でも、<ガルドス>の効果で<ゴーレム>が破壊されていれば、墓地から<サーチャー>を特殊召喚できたはず。何故<スクラップ・スコール>を発動したんだ?)
 これで天羽のフィールドは空だ。伏せカードも無しでは、ダイレクトアタックを防ぐ術はほとんどない。
 ここは考えていても仕方ないと、ミハエルはバトルフェイズへの移行を宣言する。
「受けてもらいますよ! <ダイガスタ・ガルドス>でダイレクトアタック――テンペスト・ジェイド!」
 巨鳥の羽ばたきで巻き起こった風を、巫女が呪文を唱えることによって竜巻へと変える。
 緑髪の巫女が杖を振り下ろすと、竜巻が天羽へと襲いかかった。
「――っ!」
 天羽は両腕を顔の前で交差させ、襲いかかる突風を防ぐ。

【天羽LP4000→1800】

 これで、双方のライフポイントは並んだ。
「やるじゃないか。さすが、ストラが見込んだだけのことはある」
 天羽のプレイングには不可解な点が多い。彼女の言葉を鵜呑みにはできなかった。
 ミハエルはもう一度自分の手札へと視線を移す。
 右端にある赤い枠のカード。このターンでドローした罠カードだ。

 このカードは、過去の自分の残滓。負の遺産

 それでもデッキから抜くことができなかったのは、ミハエルの心から勝利への飢えが完全に消えていない証なのだろうか。
 ――モンスターを犠牲にする、覚悟。
 天羽の言葉が耳の奥で残響する。
 ミハエルは慌てて頭を振って思考をリセットする。
(絶対に使わない。でも……)
「どうしたミハエル君。まだやることがあるのかい?」
「……カードを1枚伏せます。ターンエンドっス」
 天羽に急かされる形で、ミハエルは「負の遺産」をセットした。

【ミハエルLP1800】 手札3枚
場:ダイガスタ・ガルドス(攻撃)、伏せ2枚
【天羽LP1800】 手札4枚
場:なし