にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドS 1-2

 「清浄の地」。
 最近多発しているサイコデュエリストの消失事件に関与していることが噂されているグループ。
 元々はごく普通のデュエルチームだったが、メンバーと思われる人物が事件現場付近で何度も目撃されているため、犯人の最有力候補として捜査線に浮上している。
 しかし、決定的な証拠はまだ見つかっておらず、犯行動機も不明。
 また、WRGP予選中に発生した大量のゴースト乱入による大会への妨害・テロ行為の捜査、及び決勝トーナメント再開へ向けての安全対策に大多数の人員が回されているため、サイコデュエリスト消失事件の捜査はほぼストップしていると言っていい。
 サイコデュエリストはその特異な能力ゆえ周囲の人々からうとまれていることが多く、消失したと思われる人数に対して提出された捜索願が圧倒的に少ないことも、捜査が進展しないことに拍車をかけていた。
 非道な実験等によってサイコデュエリストを管理していたと思われるアルカディアムーブメントが崩壊して以降、治安維持局管轄下の施設に多くのサイコデュエリストの身柄が預けられたが――
「こら二条! 何やっとるか!」
「ひゃうっ!?」
 背後から聞こえた怒鳴り声に、二条亜砂(にじょうあさ)は椅子から飛び上がった。
 バクバク高鳴る心臓を押さえながらそろーりと後ろを振り向くと、そこには怒りで眉をひくつかせたひげ面の中年男性が、腕組みしながら立っていた。
「へ、編集長……」
「仕事中にそんな記事を眺めている余裕があるくらいだ。『ネオ童実野シティ食べ歩きレポート』は書き上がったんだろうな!」
 散らかったデスクの上には、サイコデュエリスト消失事件に関する考察ページを表示したノートパソコン。最小化して隠してある記事作成ソフトの方は、見事なまでに真っ白だった。
 月刊ドミノリポート編集部。5階建てのビルの3階にある8畳ほどの部屋には、3つのデスクといくつかの棚を無理矢理詰めこんであり、おまけに所構わず資料が積んであるため、非常に窮屈だった。
 亜砂の向かいの席に座っているはずの編集者は、取材に出たまま帰ってこない。本屋の片隅にひっそりと置かれているような弱小雑誌である月刊ドミノリポート(名前だけは立派)の編集者は3人しかいない。編集者兼ライターである亜砂は、現在、編集長と2人っきりというわけだ。
「で、でも編集長。今世間はWRGPの話題で持ちきりですよ! 予選リーグ中に起きた事件の真相とか、決勝トーナメントの再開時期がいつになるかとか……そんな中で、グルメリポートなんか需要あるんですかと疑問を覚えずにはいられないであります!」
 仕事が全く進んでいないことを誤魔化すために、亜砂は反論をしてみるが、
「バカ野郎! 大衆は24時間365日美味いモンのことを考えてるんだよ! グルメリポートに外れ無しってのは出版界の鉄則なの! お前は新人なんだから、口答えしてる暇あったらさっさと書け!」
 至近距離で唾を飛ばされながら一蹴された。
 これ以上口答えしても無駄だと悟った亜砂は、ディスプレイに表示されていた記事を閉じると、取材した内容をまとめたファイルを開く。
 が。
「……あれ? 真っ白」
 思い返してみれば、データを保存した記憶がない。なのに、「内容が変更されています。保存しますか?」という警告文を無視した覚えはある。と、いうことは――
「……お前の取り柄はそのエロエロな体つきだけかコラァ!! とっとと取材し直して来い!! 締め切りまでに記事が仕上がらなかったら、お前のグラビアを載せるからな!!」
「せ、セクハラです~!」
 情けない捨て台詞を残し、亜砂は編集部を飛び出した。







「亜砂って顔とスタイルだけはいいよねー」
 学生時代の友人から言われたセリフである。「だけ」の部分をやけに強調されていた。
 クリーム色のタートルネックシャツの上に紺色のジャケットを羽織り、黒のスラックスを穿いた亜砂は、行く当てもなくふらふらと歩いていた。肩に提げたカバンが重い。中に入っているノートパソコンのせいだ。
 すでに時刻は深夜0時になろうとしているところ。この時間に営業しているのは24時間営業のコンビニくらいである。最も、シティ中心部の繁華街に向かえばまだ開いている飲食店は多いだろうが、これから向かうのはかなり億劫だった。
(そうよ。夜更かしはお肌に悪いもんね)
 亜砂はまだ20歳のうら若き乙女である。美容には気を使って当たり前なのである。
 と、自分に言い聞かせ、方向転換。自宅であるマンションへ帰ることにする。
 記者の端くれとして、この辺りの裏道は把握済みだ。軽くなった足取りで、迷うことなく進む。
 帰りにコンビニによってケーキでも買っていこうかな、と考えながらビルの裏手を通り過ぎようとしたときだった。
 ゴォン! という破砕音と共に、右斜め前方にあったコンクリートの塀が崩れる。
「ひゃあ!?」
 突然の出来事に頭の中が真っ白になり、体がフリーズして動かなくなる。
ガラガラとけたたましい騒音を上げながら、大小様々なコンクリートの破片が亜砂の目の前にばらまかれる。粉塵が舞いあがり、亜砂はとっさに口をふさぐ。
(な、何これ!? 爆発!? テロ!?)
 亜砂が状況を把握するより早く、崩れた塀から人影が飛び出してくる。
 小柄な少女だった。肩のあたりで切り揃えられている黒髪は全体的に波打っており、血のように赤い瞳は後方に向けられている。ノースリーブの白いシャツにチェックのスカートといった出で立ちの少女は、機敏な動きで体勢を整えると、左腕に装着していたデュエルディスクを展開させる。
「……っ! 随分派手にやってくれるじゃない!」
 舌打ちを漏らしつつも、少女は不敵な笑みを浮かべながら叫ぶ。
 すると、崩れた塀の向こうから、
「てめえがちょこまか逃げ回るのが悪いんだろうが! もう一発行くぞ――<ヴァイロン・アルファ>!!」
 男性の怒鳴り声が聞こえてくると同時、崩れた塀からレーザーのような攻撃が少女に向かって放たれる。
「あ――」
 亜砂が攻撃に気付いた瞬間には、少女はすでに動いていた。
「――<儀水鏡>!」
 少女がディスクにカードをセットする。
 ソリットビジョンシステムが作動し、少女の目の前に円形の鏡が出現する。
 本来は立体映像であるはずの鏡。
 しかし、その鏡は、放たれたレーザーを上空へ弾いた。
「つう……ちょっと! あたしを殺す気!?」
 かすり傷一つ負っていない少女は、憤慨しながら喚く。
 その少女を見て、亜砂は無意識のうちに呟いていた。
「サイコデュエリスト……?」