にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドM 3-3

 天羽曰く、捜査の基本は足だと言う。
「君はまだ新人なんだから、何事も自分の目で確かめる癖をつけた方がいい。他者の証言とはまた違ったことが見えるかもしれないぞ」
 そんなわけで、ミハエルは天羽、ストラと共に、サイコデュエリスト消失事件の捜査のために街に繰り出していた。食べ歩き通りとも呼ばれているラリラリストリートは、昼時を過ぎても人通りが絶える様子が無い。
 電話で情報交換しつつ、個別行動で地道に聞きこみを続けるも、有力な情報は一向に出てこない。それもそうだろう。新人1人が捜査に加わったところで、今まで尻尾を掴ませなかった伊織清貴が簡単に捕まるはずがない。
 途中、「サイコデュエリストが暴れている」との通報があったが、対応したストラによると「近頃レアカード狩りを行っていた男を逮捕した。詳しく事情聴取をしてみる」とのことだった。そのため、ストラは一足先に治安維持局へと戻っている。
 先の見えない聞きこみに飽きてきたミハエルは、噴水広場で路上ライブを行っていた少女の歌に耳を傾けていたのだが……
「いてて! そろそろ離してくださいよ天羽先輩! もうサボらないっスから!」
 その現場を天羽に見つかり、左耳を引っ張られながら連行される羽目になった。
「ふん。ようやくサボりだと認めたな」
 むっつり顔で不機嫌な声を出す天羽だったが、ようやく耳から指を離してくれた。散々引っ張られたせいでジンジンと痛みが尾を引き、赤くなってしまっている。
 ちなみに、ミハエルはダークグレーの細身のスーツ、天羽は初めて会ったときと同じジャケットにホットパンツという服装に着替えている。人の多いこの場所では、セキュリティの制服はさすがに目立ちすぎるためだ。と言っても、2人が装着しているデュエルディスクのせいであまり意味はないかもしれないが。
「それで? サボっていたいけな少女をナンパしているくらいだ。何か掴んだんだろう? 話してもらおうか」
「いや、別にナンパしてたわけじゃないっス……」
 嫌みったらしく言う天羽に、ミハエルは痛む左耳をさすりながら小声で言い返す。無論、伊織清貴に繋がるような手掛かりは掴んでいない。
「……ま、特別な情報は出てこなかっただろう。正直、ここでミハエル君が得意げに集めてきた情報を語り始めたら、腹をパンチしてやろうと思っていたよ」
「何スかそれ」
 元々期待をしていなかったのか、天羽は落胆するどころか軽口を吐いてみせる。
 だが、時間が無いのも事実だ。
 WRGP決勝トーナメントが開始されれば、セキュリティ捜査官の大半が会場やシティの警備に回されるだろう。予選トーナメントの最後に起こった「惨劇」とサイコデュエリスト消失事件の被害を比べれば、どちらに重点が置かれるかは目に見えている。今でさえ、消失事件の捜査を行うことはいい顔されないのだ。
 ――「精霊喰い」なんてあやふやなものを探すことなど、絶対にできなくなる。
 ある程度自由に動けるうちに、決着をつけなければいけない事件なのだ。
 今日捜査に加わったミハエルでさえ、切羽詰まった状況だということが理解できる。3年も前から精霊喰いを追っているらしい天羽の焦りは、相当なものなのだろう。
 と、思っていたのだが、
「む。美味しそうなアイスだな。ひとつ頂くとしようか。ミハエル君も食べるかい?」
「人のサボりをとっ捕まえておいてそれっておかしくないっスか!?」
 当の本人は、アイスの移動販売車の前で、呑気にフレーバーを選んでいた。
「よし、私はこの『狂おしいほどイチゴ盛り』にしよう。ミハエル君には『普通すぎてつまらないバニラソフトクリーム』を買ってあげることにする。味わって食べるといい」
「……ありがたく頂きます」
 最早突っ込む気力が失せたミハエルは、大人しくソフトクリームを受け取る。
 近くにあったベンチに腰掛け、受け取ったソフトクリームを一口。
 普通と言ってしまえばそれまでだが、昔から変わらない優しい甘さが、口の中で溶ける。歩きっぱなしで疲れていたのか、普段よりも美味しく感じる。横に座った天羽の視線を気にすることなく、がっついてしまった。
「はは。いい食べっぷりだな」
 そんなミハエルを見て、天羽は微笑を浮かべる。
 今までの何かを企むような笑みではなく、邪気のないその顔に、ミハエルは思わず見とれてしまった。
「……アイスが口の周りに付いてしまっているぞ」
「ええっ、マジすか。確かポケットにティッシュが――」
「私が取ってあげよう」
 ミハエルがポケットティッシュを取りだすより早く、天羽がずいと身を乗り出す。
 そして、その細い指でミハエルの口元をぬぐった。
 わずかな接触にも関わらず、天羽の指先の感触がはっきりと伝わってくる。
「なっ……!?」
 驚きと恥ずかしさで固まってしまい、口をパクパクさせるミハエル。
 その内に、天羽は指ついたソフトクリームをぺろりと舐めてしまった。
「な、何やってるんスか天羽先輩!」
 硬直状態から回復したミハエルは、ベンチから立ち上がって叫ぶ。不意をつかれた、なんてレベルじゃない。予想だにしない天羽の行動に、ミハエルの脳内は絶賛混乱中だ。
「ん? 不快だったか? それなら謝罪するが」
「いや、そういうことじゃなくてですね――」
 けろりとしている天羽に、ミハエルは事の重大さを説明しようとするが、
「ま、ますたー!!」
 急に姿を現したカームが割り込んでくる。
「カーム!? 一体どうした?」
「あ、あの。えっと……どうしよう……あ! さ、さっき歌を歌っていた女の子、名前聞きました!? とってもいい歌だったから、気になっちゃって!」
 頬を真っ赤にして、あたふたとうろたえながら言葉を紡ぐ翡翠色の少女。
 こんなに慌てふためくカームは珍しいが、そもそも2人きりのとき以外に話しかけてくるのも珍しい。そんなに路上シンガーの女の子が気になったのだろうか。
「そういや名前聞き忘れたなぁ。でも、また噴水広場に行けば会えるんじゃないか?」
「うー……」
「……なあミハエル君。なんかものすごい視線を感じるんだが」
 見れば、杖をギュッと握りしめたカームが、ジト目で天羽を睨みつけていた。
(……何か気に食わないことでもあったのか?)
 カームの反応を不思議に思い、尋ねようとしたときだった。