にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage2 サイドS 1-3

 若槻朧(わかつきおぼろ)、と名乗った男に出くわしたのは、アルカディアムーブメント本社ビルを出た直後だった。どうやら紫音の動きを監視していたらしい。
 光沢の無い灰色の髪。眉間にしわを刻み、三白眼で睨みつけてくる。黒の学ランを着ているが、とてもじゃないが学生に見えない。
「光坂慎一――知ってるだろ? そいつの情報を話せ」
 それが彼の要求だった。
 光坂はすでに廃人となってしまっている。素直に情報を話してもよかったが、紫音はこの状況を最大限に利用するため、
「話す気は無いわ。光坂の情報が欲しいなら、力ずくで吐かせてみなさいよ」
 と、朧を挑発した。
「……いい度胸だ。やってやるよ!」
 プチンと血管が切れる音が聞こえてきそうなほど怒りで顔を歪めた朧は、すぐさまディスクを展開する。
(ビンゴ!)
 紫音の挑発に対しディスクを展開したということは、彼はサイコデュエリストだ。モンスターを実体化させ、こちらを攻撃してくるつもりだろう。光坂と関わりがある時点でもしやと思ったが、紫音の予想は正しかったらしい。
 朧がモンスターを呼びだすのを確認し、紫音は走り出す。
 紫音の目的は、「サイコデュエリスト狩り」を行っている「清浄の地」と接触すること。深夜で人気も無い街中でサイコデュエリストが暴れていれば、彼らをおびき出すことができるかもしれない。そう考えたのだ。
「待てコラァ!」
 怒鳴る朧を尻目に、紫音はあえて反撃せず逃げ回っていたのだが――
「サイコデュエリスト……?」
 微かな声が脇から聞こえ、紫音はハッとしながらそちらに視線を動かす。
 そこには、脅えた様子で立ちつくす女性の姿があった。服装から見るに学生ではないようだが、随分若く見える。
(くっ……こんな時間に一般人がうろついてるなんて、想定外だわ)
 とりあえず、彼女を巻き込むわけにはいかない。
 早くここから立ち去るよう紫音が叫ぼうとした瞬間、
「――ようやく観念したみてえだな! いいか! そこ動くんじゃねえぞ!」
 崩れた塀の向こうから、先程攻撃を放ってきた朧が飛び出してくる。
「さあ、光坂慎一について知ってる事を洗いざらい話せ! さもないと――」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 周りをよく見てみなさい! 一般人がいるのよ? そんなところで攻撃すればどうなるか……」
「待つ必要はねえ! お前が光坂について喋れば、攻撃をする必要はない! 明白だろうが!」
「ちっ……」
 悔しいが、正論だ。
 「清浄の地」のメンバーが現れる気配は無いし、この辺が潮時かもしれない。
 何より、無関係の人間を巻き込みたくなかった。
 紫音は大きなため息をつきながら、体の力を抜く。これ以上逃げるつもりがないことを示すためだ。
「分かった。光坂について、あたしの知っていることを話すわ。ただし――」
 一瞬緩みかけた朧の表情を見て、念を押すように告げる。
「あたしにデュエルで勝ったら、ね。アンタもデュエリストなら、正々堂々あたしを倒してみせなさいよ」
 ふふん、と鼻を鳴らしながら、紫音は腕組みをする。
「……だったら最初からそうしやがれ。いいか、これが最後だ。デュエルに負けたからってまた逃げ出すようなことがあれば、今度こそ容赦しねえ」
 てっきり紫音の提案を突っぱねてくると思ったが、朧は素直に従ってきた。
「じゃ、始めようぜ。正々堂々勝ってやるよ」
 そう言って、口元を釣り上げる朧。どうやら相当自信があるようだ。
 だが。
「あたしが勝ったら、アンタはあたしの下僕になってもらうわ! 来るべき戦いに備えて、捨て駒が欲しかったところだし!」
 自信があるのは、紫音も同じだった。