にわかオタクの雑記帳

にわかオタクがそのときハマっていることを書き殴るブログです 主にアニメ・ゲーム中心

遊戯王 New stage サイドS 3-10

 <聖なるバリア―ミラーフォース―>によって攻撃を止められた<ソーラー・ジェネクス>が、反撃を受けて砕け散る。
 その瞬間、目の前に立つ少年の表情から色が消えた。
 セラはやれやれ、とため息をつく。
(これで終わり、ですか)
 「氷の魔女」と謳われた少女の説得――多少手こずるだろうと思っていたが、まさか他の男になびいているとは、予想の範疇を超えていた。そして、どこの馬の骨ともしれないその男が皆本夫妻の息子だったとは。
(だからといって負けてやる道理はありませんね)
 ティト・ハウンツの能力は、アルカディアムーブメントに必要なものだ。ここ最近不穏な動きを見せているデュエルギャング「レボリューション」を敵に回すリスクまで負ってきている以上、簡単には引き下がれない。
 たとえそれが、元同僚の息子だったとしても。
 何の能力も持たない凡庸なデュエリストにしては、よく頑張った方だ。<マスタージーグ>の攻撃を耐え抜き、そのうえで戦意を失わなかった。
 だが、ここまでだ。創志のフィールドはがら空き。次のターン、<サイコ・ウォールド>の攻撃で決着がつく。
 唯一、最初のターンに伏せたカードが残っているが、おそらく発動タイミングを逸したのだろう。でなければ、<マスタージーグ>の攻撃を防いだり、<最古式念動>の発動を止めていたりするはずだ。
 せめてもの慈悲として、サレンダーを促そうとしたとき。
「――ッ!?」
 セラは見た。少年の瞳に宿る光を。
 それは、敗北を目の前にした人間が見せるものではなかった。






 よく我慢したと、自分を褒めてやりたい気分だった。
 全身に力が戻ってくるのを感じながら、創志は残った伏せカードを見る。
 今までの自分なら、とっくに発動していただろう。事実、そのタイミングは何度もあった。
 しかし、使わなかった。
 最後の最後で使う「切り札」としての役割を貫きとおした。
 それは、このデュエルの勝敗にティトの未来がかかっていたから。
 彼女の存在が、創志の判断をいい意味で重くした。迂闊な戦術は、そのまま敗北に直結する。
 <ウィンドファーム・ジェネクス>を召喚したときのセラの言葉が蘇る。
 それがあなたの切り札ですか?
 今こそ、本当の「切り札」を使うときだ。
「まだ俺のバトルフェイズは終わってない! 伏せカードオープン!」
 顕わになるカードに、セラの目が驚愕で見開かれていく。
「永続罠<ジェネクス・スピリッツ>! このカードは墓地の<ジェネクス・コントローラー>を除外することで、<ジェネクス>と名のついたシンクロモンスターを蘇生することができる!」

<ジェネクス・スピリッツ>
永続罠(オリジナルカード)
自分の墓地に存在する「ジェネクス・コントローラー」を1体除外し、自分の墓地に存在する「ジェネクス」と名のついたシンクロモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターを表側攻撃表示で特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、エンドフェイズに除外される。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

「な……!」
「蘇れ! <ハイドロ・ジェネクス>!!」
 間欠泉のように噴き出た水流に乗って、墓地に眠っていた<ハイドロ・ジェネクス>がフィールドに舞い戻る。
 奇妙な形の槍で虚空を裂き、4つの瞳で敵を捉える。

<ハイドロ・ジェネクス>
シンクロ・効果モンスター
星6/水属性/機械族/攻2300/守1800
「ジェネクス・コントローラー」+チューナー以外の水属性モンスター1体以上
このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分だけ自分のライフポイントを回復する。

「今度こそ終わりだ――<ハイドロ・ジェネクス>で<サイコ・ウォールド>を攻撃!」
 姿勢を低くし、脚に力を溜めた<ハイドロ・ジェネクス>が、一気に飛ぶ。
 迫る水の機械兵に向けて、電撃を放つ<サイコ・ウォールド>。
 それを最低限の動きで回避し、懐に潜り込む。
 サクッ、と槍の先端が、わずかに<サイコ・ウォールド>の体に刺さる。
 そして響くモーターの重低音。

「スプラッシュ・ランス・ゼロ!!」

 ドバァ!! と槍の切っ先から激流が発射される。
 それを零距離で受けた<サイコ・ウォールド>は、呻く間もなく砕け散った。
「俺の勝ちだな、セラ」

【セラLP400→0】

 静かにデュエルディスクを閉じた男は、無表情で天を仰いだ。
 そして、大きく息を吐いた後、
「ええ、私の負けです」
 敗北を認めた。
「ハッ……ざまあみやがれ。これで、お前らはティトに手出しを――」
 できない条件だったな、と続けようとして、ぐわん、と急速に世界が回転する。
「あ……?」
 勝利の余韻に浸る間もない。むしろ、デュエルが終わったことで緩んだ気持ちに付け入るように、誤魔化してきた疲労が押し寄せる。
「創志! そうし!」
 視界が暗転する。
 自分が倒れたことに遅れて気づく。
 ティトの悲痛な叫び声が、はるか遠くから聞こえる。
(くそっ……俺はまたあの子を悲しませるような真似を……)
 そう後悔するが、最早指一本動かせなかった。
(信二……)
 この廃美術館に来た当初の目的。
 守るべき弟の表情を思い出そうとしたところで、創志の意識は途絶えた。