遊戯王 New stage サイドＳ ５－２

「ドロー――容赦はしないぞ」
　カードを引いた輝王が、鋭い視線を創志に向ける。
　現在、創志を守る壁はない。伏せてあるカードも、身を守るためには機能しないものだった。
　いつまでも、手を誤ったことを引きずってはいられない。
「俺は＜ＡＯＪアンカーナイト＞を召喚。効果を発動し、墓地から＜Ａ・ボム＞を蘇生させる」

＜Ａ・Ｏ・Ｊ　アンカーナイト＞
チューナー（効果モンスター）（オリジナルカード）
星３/闇属性/機械族/攻1200/守1000
このカードが召喚に成功した時、自分の墓地に存在する
レベル２以下の「Ａ」と名のついたモンスターを１体表側守備表示で特殊召喚することができる。
この効果で特殊召喚した効果モンスターの効果は無効化される。

　輝王のフィールドに小振りの銛を持った漆黒の機械兵が現れ、瞬間的にその銛が振るわれる。そして、地面の中から＜Ａ・ボム＞を釣り上げた。
「そうし。来るよ」
　ティトが不安を押し殺すようにして呟く。
　創志の前に立つ青年は、ティトやセラのように特別な能力を持っているわけではない。
　しかし、彼の纏う空気は、立ちはだかるものを畏怖させるのに十分な迫力を持っていた。
　その圧迫感に折れないように、創志は対戦相手に意識を集中する。
（――この一発はくれてやる。だが、やられっぱなしじゃ終わらねえぞ）
「＜Ａ・ボム＞に＜ＡＯＪアンカーナイト＞をチューニング。正義の軍団よ、眼前の敵に裁きの鉄槌を下せ！」
　２体のモンスターが光の柱に包まれる。
　その中で光る緑のモノアイが、標的を捉えたかのように輝きを増した。
「シンクロ召喚！　粉砕せよ、＜ＡＯＪカタストル＞！」

＜Ａ・Ｏ・Ｊ　カタストル＞
シンクロ・効果モンスター
星５/闇属性/機械族/攻2200/守1200
チューナー＋チューナー以外のモンスター１体以上
このカードが闇属性以外のモンスターと戦闘を行う場合、
ダメージ計算を行わずそのモンスターを破壊する。

　流麗な曲線を描く白い兵器、＜ＡＯＪカタストル＞が、金色の爪をフィールドに突き立てる。
「チェーンはないな？　ならこのまま攻撃に移る！　＜ＡＯＪカタストル＞でダイレクトアタック――ジャッジメント・カタストロフ！」
　＜ＡＯＪカタストル＞と創志をつなぐ地面のラインが、バキバキ！　と音を立てて隆起する。
　その隆起が創志まで到達した瞬間、地面から突き出した光の槍が、少年の身体を貫く。

【創志ＬＰ4000→1800】

「――ッ！」
　セラと戦ったときに比べれば、痛みはわずかだ。所詮はデュエルディスクの機能が決闘の臨場感を煽るために、かすかに痛覚を刺激しているにすぎない。
　その痛みの持つ意味を噛みしめながら、創志はセキュリティの男を見据える。
「ターンを終了する。さあ、お前のターンだ」
　淡々と告げる輝王の表情に浮かぶ感情は、今の創志には読めない。

【輝王ＬＰ4000】　手札4枚
場：ＡＯＪカタストル（攻撃）、伏せ1枚
【創志ＬＰ1800】　手札3枚
場：伏せ1枚

　創志のデッキには、＜ＡＯＪカタストル＞を倒せる闇属性モンスターはいない。
　戦闘に関しては無類の強さを誇るあのモンスターを突破するためには、効果で破壊するしかない。
　ドローしたカードを加え、創志は自分が取るべき戦術に考えを巡らせる。
「俺はモンスターをセットし、このままターンを終了する」

【輝王ＬＰ4000】　手札４枚
場：ＡＯＪカタストル（攻撃）、伏せ１枚
【創志ＬＰ1800】　手札３枚
場：裏守備モンスター、伏せ１枚

「俺のターン。ドロー」
　余計な言葉は語らず、輝王はゲームを進行する。
「＜ＡＯＪガラドホルグ＞を召喚し、バトルフェイズに入る。まずは＜ＡＯＪカタストル＞で伏せモンスターを攻撃――ジャッジメント・カタストロフ！」
　宝剣の名前を冠した橙色の兵器、＜ＡＯＪガラドホルグ＞が、白金の兵器の隣に降り立つ。

＜Ａ・Ｏ・Ｊ　ガラドホルグ＞
効果モンスター
星４/闇属性/機械族/攻1600/守 400
光属性モンスターと戦闘を行う場合、
ダメージステップの間このカードの攻撃力は２００ポイントアップする。

　＜ＡＯＪカタストル＞から甲高い駆動音が響き、先のターンで創志を刺した光の槍が、伏せモンスターに襲いかかる。
　一瞬、形の崩れたジャンクを繋ぎ合わせた機械兵の姿が見え、そのまま粉々に砕け散る。
（――よし！）
　だが、これこそが創志の狙いだった。
「破壊された＜ジェネクス・サーチャー＞の効果発動！　このモンスターが戦闘によって破壊されたとき、デッキから攻撃力1500以下の＜ジェネクス＞と名のついたモンスターを特殊召喚できる！」

＜ジェネクス・サーチャー＞
効果モンスター
星４/地属性/機械族/攻1600/守 400
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
自分のデッキから攻撃力１５００以下の「ジェネクス」と名のついた
モンスター１体を自分フィールドに表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。

　＜ＡＯＪカタストル＞の効果は、裏守備モンスターとの戦闘では発動しない。＜ジェネクス・サーチャー＞のリクルート効果によって、この場を打開する準備を整える。
「俺が特殊召喚するのは、＜タービン・ジェネクス＞だ！」
　灰色の煙を背部のパイプから噴き出しながら、＜タービン・ジェネクス＞が創志のフィールドに現れる。

＜タービン・ジェネクス＞
効果モンスター
星４/地属性/機械族/攻1400/守1300
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
自分フィールドに表側表示で存在する「ジェネクス」と名のついた
モンスターの攻撃力は４００ポイントアップする。

「……なるほど」
　感心したように呟く輝王。攻撃態勢に入っていた＜ＡＯＪガラドホルグ＞が動きを止める。
　＜タービン・ジェネクス＞は自分フィールド上の＜ジェネクス＞と名のついたモンスターの攻撃力を400ポイント上昇させる効果を持つ。それは＜タービン・ジェネクス＞自身も例外ではない。攻撃力1600の＜ＡＯＪガラドホルグ＞では、突破できないということだ。
「バトルフェイズを終了しよう。カードを１枚セットし、ターンエンドだ」

【輝王ＬＰ4000】　手札３枚
場：ＡＯＪカタストル（攻撃）、ＡＯＪガラドホルグ（攻撃）、伏せ２枚
【創志ＬＰ1800】　手札３枚
場：タービン・ジェネクス（攻撃）、伏せ１枚

　場にモンスターが残った――これならいける。
「俺のターン！」
　自分の思いを確信に変えるために、創志は強く宣言する。
　ティトが小さく頷くのが分かった。その姿が、少年の後押しをする。
「＜タービン・ジェネクス＞をリリース――来い！　＜アーミー・ジェネクス＞！！」
　＜タービン・ジェネクス＞が吐き出す白煙が創志のフィールドを覆い尽くす。
「――――」
　輝王の表情が厳しさを増す。
　白煙の中で、紅く輝く双眸――
　煙が晴れたとき、そこには迷彩色の鎧を纏った骸骨の兵士が、肩に担いだミサイルポッドを構えていた。

＜アーミー・ジェネクス＞
効果モンスター
星６/地属性/機械族/攻2300/守1300
「ジェネクス」と名のついたモンスターをリリースして
このカードのアドバンス召喚に成功した時、
相手フィールド上に存在するカード１枚を破壊する事ができる。

「＜アーミー・ジェネクス＞は、＜ジェネクス＞と名のついたモンスターをリリースしてアドバンス召喚に成功したとき、フィールド上のカード１枚を破壊できる！」
　ミサイルポッドの砲口が捉えたのは、白金の兵器。
「破壊するカードは＜ＡＯＪカタストル＞！　頼むぜ＜アーミー・ジェネクス＞！　バスターミサイル！」
　バシュ！　という発射音と共に、紅色のミサイルが＜ＡＯＪカタストル＞目がけて突貫する。
　標的となった＜ＡＯＪカタストル＞は金色の両爪を振り上げ、ミサイルの胴体に穿つが――
　爆発。
　白い装甲が宙を舞い、＜ＡＯＪカタストル＞が戦場から脱落する。
　これで、厄介な敵は片付いた。
「バトルといかせてもらうぜ！　＜アーミー・ジェネクス＞で＜ＡＯＪガラドホルグ＞を攻撃！　ラピッド・ファイア！」
　確固たる意志を込めて、創志は右腕を振るう。
　＜アーミー・ジェネクス＞はミサイルポッドを投げ捨て、腰に携えていたマシンガンを手に取る。
　そして、間髪入れずに発砲。
「くっ――」
　放たれた銃弾は容赦なく＜ＡＯＪガラドホルグ＞の装甲を抉り、スクラップへと変える。

【輝王ＬＰ4000→3300】

　カラカラと薬莢が転がり、骸骨の兵士は次弾を装填する。
「カードを１枚伏せて、ターンエンド。さあ――反撃開始だ」
　＜ＡＯＪカタストル＞を突破したことで、自分はようやく戦場に立った。
　＜ＡＯＪガラドホルグ＞が破壊された衝撃に目を細める輝王。その瞳の奥に輝く光を見て、創志はそんな思いを抱いた。

【輝王ＬＰ3300】　手札３枚
場：伏せ２枚
【創志ＬＰ1800】　手札２枚
場：アーミー・ジェネクス（攻撃）、伏せ２枚